鉄の牢獄
シュガァァァンッ!! ガキィィィンッ!!
高周波ブレードが描く蒼白の閃光が、夜の闇と焦土と化した戦場を真っ二つに切り裂いた。
「チッ……! 次から次へと沸いてきやがる! どんだけ鎖を持ってやがるんだ、このバケモノは!」
跳ね返る火花と立ち上る血煙が舞う戦場の中央で、第4独立遊撃小隊『アダマント』の隊長――ダイヤモンドが、愛機『ダイヤモンド・ブレード』の脚部油圧を固めて地表を踏みしめ、悪罵とともに唸りを上げた。
眼前に蠢くのは、小山ほどの巨躯を誇る悪夢のような異形――アブノーマリティ『ケルベロス』。
その生体組織には、無数の油圧シリンダー、高回転の大型チェーンソー、そして赤黒く錆びついた鋸状の大型刃が不気味に埋め込まれ、全身の隙間から百本を超える「高圧電磁ワイヤー」と、鉄格子状の「捕縛用鉄籠」を触手のように縦横無尽に撒き散らしている。ただ標的を殺すのではない。捕らえ、拘束し、高圧電流で麻痺させた上で磨り潰して解体するためだけに存在する、悪意に満ちた「歩く拷問部屋」だ。
ジャリィィィンッ!
空気を不快に切り裂き、百本を超える太い電磁アンカーが一斉にダイヤモンドの胸元へ向かって襲いかかる。刺されば数十万ボルトの高圧電流で機体の自由を奪われ、そのまま腹部に設置された大型油圧バサミの餌食となる絶対死の罠。
「――させません。光学ノイズ、極大散布。バイバイ、おバカなセンサーさん♪」
掴みどころのない軽快な声とともに、後方の電子戦支援機から七色の眩い光輪が全方位へ弾けた。
遊撃・電子戦担当のオパールだ。彼女の駆る機体から放たれた多段階ジャミング・パルスが空間を満たし、ケルベロスの持つ複合超音波および赤外線照準センサーを瞬間的に完膚なきまで狂わせる。射出された電磁アンカー群の弾道が、空中でガラガラと大きく乱れた。
「ダイヤ、左から迫る三本、関節駆動部の結合部材が剥き出しです。破砕座標、送信完了」
冷静沈着な狙撃手――エメラルドの声が通信機に低く響く。
直後、彼女の駆る大型長距離ライフルが戦場の咆哮を突き破って火を噴いた。
シュバッ! パァンッ!!
寸分の狂いもない精緻極まる狙撃が、空中を這う電磁アンカーの駆動ジョイント(弾力性構造)を正確無比に穿ち抜く。根元から断ち切られたワイヤー群がスパークを散らしながら力なく大地へ落ち、泥と油に塗れた。
「ナイスだ、二人とも! サファイア、前線を固めろ! ルビー、叩き込むぞ!」
「了解、隊長! 鉄籠の爪すら通させない!」
巨大な重力シールドを構えた重装甲機『サファイア』が前線へ滑り込み、ケルベロスの放つ高圧電流の衝撃波を力任せに受け止めて強固な壁となる。
「おうよ! バケモノめ、俺のプラズマで焼き払われて汚ねぇ鉄くずになりやがれぇぇッ!」
ダイヤモンドの背後から跳び出したのは、親友であり相棒のルビー。
彼の駆る高機動攻撃機『ルビー・バーナー』の両腕に懸架された二連装高熱プラズマガンが真っ赤に赤熱化し、噴射された超高熱の火柱がケルベロスの左前脚部をダイレクトに叩きつけた。
ズババババババババッ!!
「グガアアアアアアッ!? ガガガ……ッ!!」
超高熱のプラズマ火炎に肉と油圧シリンダーを焼かれ、ケルベロスの巨躯がグラリと大きく揺らぐ。焦げ付く生体肉と溶ける鉄の不快な臭いが焦土に一気に充満した。
「へっ、見たか! 俺たち『アダマント』の辞書に『捕まる』なんて言葉はねぇんだよ!」
ルビーがコックピットで不敵にニヤリと笑う。
どんなに強固な檻で囲まれようと、解体の刃が迫ろうとも、不屈の硬度を誇るこの5人は決して折れない。互いが互いの不屈の「刃」と「盾」となり、どんな鉄の拘束をも粉砕して突き進む。
「油断するな、ルビー! 『異形の者』が造り出した『地獄の番人』だ、ここで終わるわけがない!」
ダイヤモンドが愛機の高周波ブレードを構え直し、気を引き締めるように怒号を飛ばす。
焦熱の爆炎と黒煙の中、傷を負い激怒したケルベロスの三つの頭部を模した巨大な異形細胞が凄惨な咆哮を上げ、さらに太く、赤く熱せられた殺戮用の高圧電磁ワイヤーを全身から全方位へ向けて射出し始めていた。




