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最後の一人になっても  作者: アルファベット・あき蔵
第05章:独立遊撃隊_グラビトン

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青い星と月の光

ゴオォォォ……という重重しい暴風の残響を残し、世界を押し潰していた異常な重力場がスッと霧散していった。


山々は削れ、大地は見る影もなく爆砕された極限の焦土。

そこにあったはずの歩く超質量――『タイタン』の巨体はもうどこにもない。4度目の完全撃破(完全抹殺)。細胞の一片、重力の残滓すら残らず、光の粒子となって果てしない大気の中に消えていった。


特殊戦術部隊『グラビトン』の完全なる勝利。

しかし、その代償はあまりにも大きすぎた。


プシューッ……と、途切れ途切れの排気音を吐き出し、完全に大破したアースの機体『アース・シールド』が膝から崩れ落ちる。

タイタンの超重力を一人で受け止め続けた機体フレームは微塵に砕け、コクピットの装甲は原型を留めないほど歪んでいた。


「……は……っ……ふぅ……っ……」


血みどろになったコクピットの中で、アースは途切れ途切れの息を吐いていた。

全身の骨は砕け、感覚はとっくに消えている。視界は真っ赤に染まり、胸の奥から押し寄せる死の冷気が、彼の体温を徐々に奪い去っていく。


カチャリ、と音がして、歪んだ操縦席のハッチが外側から無理やりこじ開けられた。


「あ……アース……っ! アース……!!」


駆け寄ってきたのは、同じく満身創痍の機体から這い出してきたルナだった。

彼女の駆るレールガン機もまた、潮汐同調の過負荷と重力波の直撃を受け、エンジンから黒煙を上げて沈黙している。


ルナは震える腕でアースの身体を抱き起こし、血に濡れた彼の頬を擦り寄せた。


「ル……ナ……」


アースのうつろな目が、愛する少女の姿を捉える。

血の滲む唇が、かすかに、けれど愛おしそうに綻んだ。


「お前を……守れた……か……?」


「うん……っ! 守ってくれたよ! アースが……私を守ってくれたの……!!」


ルナの目から溢れ出た大粒の涙が、アースの汚れた顔にぽたぽたと落ちる。

アースは残された最後の力を振り絞り、血に染まった右手で、そっとルナの手に触れた。

もう、二人を包み込む『グラビトン』の仲間たちは誰もいない。ネプチューンも、ジュピターも、マーズも……全員が自らの命を燃やし尽くし、この瞬間を二人に託して散っていった。


「そっ……か……。よかった……。みんな……約束……果たしたぞ……」


アースの胸の動悸が、急速に小さくなっていく。

重力場を失ったアースが、静かにその命の灯火を消そうとしていた。


「ダメ……行かないでアース……! お願い、私を一人にしないで……!」


「……ルナ……俺たちの……軌道は……ずっと……」


「うん……! どこにも行かない……! アースのない世界に……ルナなんて存在できないよ……っ!」


ルナは涙で濡れた顔で微笑み、アースの手を力強く握り返した。

潮汐ロック――常に同じ面を向け合い、決して離れることのないふたつの天体。


アースの脈動が静かに停止した。

彼の瞳から光が失われたのを感じ取ったルナは、愛おしそうに彼の胸へと顔を埋める。


彼女の身体の限界も、とうに超えていた。

極限の潮汐同調によって破壊された内部器官から吐血し、彼女の視界もまた、優しく温かな暗闇へと溶けていく。


「ずっと……一緒だよ……アース……」


重ね合わされた二人の手が、二度と離れることのない握りしめのまま、ピタリと動きを止めた。


焦土と化した最果ての戦場。

沈黙した大破機体の傍らで、地球と月は互いを抱きしめ合うようにして、静かに息を引き取った。

彼らが命を賭して引き裂いた「重力の鎖」は、人類を潰さんとした超巨神を完全に消滅させた。


雲の隙間から差し込むかすかな月光が、永遠の眠りについた二人を静かに照らし出している。


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