紅き軍神の特攻
ジュピターの機体が鉄くずへと変ち果て、激しい重力波の余波が大地を削り取る。
残されたのはアース、ルナ、そしてマーズの3人のみ。
「ガアアアアアアッ……!!」
三度目の復活を果たしたタイタン。
その巨体は、崩壊重力によって引き寄せられた山肌の巨大な岩石や鉄骨を不気味に取り込み、巨大な「岩石と超高密度重力の鎧」を全身に纏った爆走形態へと進化を遂げていた。山塊そのものが意志を持って襲いかかってくるような、絶望的な質量。
小隊の陣形など、すでに原型を留めていなかった。
アースの重装甲バリアは各所が歪み、脚部フレームからは黒煙が立ち上っている。ルナのレールガンも冷却システムが限界を迎え、警報音が鳴り止まない。
「アース……もう、陣形が……」
ルナの声が震える。互いを想い合うがゆえに、崩れゆく現実に心が引き裂かれそうになっていた。
「大丈夫だ、ルナ……! 俺が、お前の盾に……」
アースが限界を迎えた足を一歩踏み出そうとした、その時。
「おいおい、気抜いてんじゃねえぞ、バカップル共!」
強烈な破砕音が響き、赤き火星の名を冠する男――マーズが、二人の前に割り込んだ。
彼の機体『マーズ・ブレイカー』は、右腕の高熱ドリルブレードと左腕の高熱ブレードを最大出力で回転させ、狂ったような熱量を周囲に巻き散らしていた。
「マーズ……!? お前、何を――」
「ケッ、お前ら二人でシリアスに浸ってんじゃねえよ! バカップルのお膳立ては、ここまでだ!」
マーズは振り向きもせず、吐き捨てるように笑った。
だが、その背中は、アースがこれまで見てきたどの戦友よりも大きく、そして誇らしかった。
「ジュピターもネプチューンも逝っちまった。次は俺の番だ。……アース、ルナ。俺が叩き起こす隙を、絶対逃すんじゃねえぞ!」
「やめろマーズ! 特攻なんて――」
「うるせえ! 俺の生き様に口出しすんじゃねえ!」
マーズは脚部スラスターの安全装置を力任せに叩き割り、暴走状態の推進力を放った。
ドゴォォォォォンッ!!
赤き閃光と化したマーズが、タイタンの重力鎧の真っ只中へ突入する。
タイタンの巨大な右腕が振り下ろされ、マーズの機体を容赦なく押し潰そうと掴みかかった。
ガチィィィンッ!!と、骨が砕けるような金属音が響き渡る。マーズの機体が歪み、装甲が弾け飛ぶ。
「ガハッ……! ぐ、あああぁぁぁっ!!」
血を吐きながらも、マーズの瞳から光は消えない。
彼は捕らえられた両腕のドリルブレードを、タイタンの巨大な手首――装甲の最も分厚い継ぎ目へ、深く、深く突き立てた。
「捕まえたぜ……バケモノが……! 腕一本、もらっていくぞぉぉぉッ!!」
「マーズッ!!」
アースの血吐くような叫び。マーズは血まみれの顔で、通信機の向こうの二人へ「にっ」と不敵に笑ってみせた。
「行け……アース! 俺の代わりに……ルナの射線を開いてやれぇぇぇッ!!」
ドバァァァァァンッ!!!!
マーズは自機の超高熱炉心を限界突破させ、自爆特攻を敢行した。
凄まじい熱波と爆発がタイタンの右上半身を包み込む。タイタンの強固な岩石鎧が粉砕され、巨大な右腕が根本から吹き飛んだ。
「マーズ!!」
マーズが命懸けで抉り取った、タイタンの胸部の完全な死角。
アースは涙を血とともにぬぐい去り、残された全出力を脚部へ注ぎ込んだ。
「ルナぁぁぁッ!! マーズの命を無駄にするな!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
アースの機体が発生させる決死の重力場と、ルナの魂の叫びが同調する。
マーズの吹き飛ばした鎧の隙間――剥き出しになったタイタンの心臓へ、限界を超えた【潮汐貫通弾】が真っ直ぐに突き刺さった。
ズババババババババンッ!!
三回目の心臓破壊。
巨獣が悲鳴を上げ、大量の青黒い体液を撒き散らしながら大地へ崩れ落ちた。
しかし、その崩壊の最中、タイタンの残された細胞が、もはや世界そのものを破壊せんとする「絶対的な破滅」へと変貌を始めていた。




