潮汐の共鳴
「よし……! ネプチューン、凍結プログラムのカウントを始めろ! ジュピターはバリアの密度を引き剥がせ!」
アースの怒号が、ノイズの混じる通信回線を激しく駆け抜けた。
「言われなくても進めています。敵の重力防壁修復ルーチン、0.8秒間だけフリーズ。……今です!」
ネプチューンの冷徹で淀みないオペレーションと同時に、ジュピターの重装機体が背部大型ユニットを全開駆動させ、逆位相の強烈な重力場を放射。タイタンの全身を覆う超高密度バリアの外縁がグニャりと不気味に歪み、一時的に表面の防御膜が引っ張られて極限まで引き伸ばされ、限界まで薄くなった。
「道を開けぇぇぇッ!!」
マーズが脚部高出力スラスターを全開にし、砕け散った山肌の岩盤を力任せに蹴破って飛び出した。激しく摩擦火花を散らす高熱ドリルブレードが猛烈な爆音を上げて高速回転し、タイタンの巨大な左足関節部へと突入。強引に分厚い生体外殻を抉り取り、眩い白熱の火花と肉片を全方位へ撒き散らす。
「ガアアアアッ!?」
タイタンが落雷のような咆哮を上げ、山塊のごとき巨躯を揺らしてマーズを踏み潰そうと巨大な右腕を振り下ろした。まさに山そのものが崩落してくるかのような超高密度の質量攻撃。
「させねえよ!! 俺の背中を通り抜けられると思うな!!」
アースが重装甲バリア機『アース・シールド』を前傾させ、衝撃で舞い上がる泥と岩屑を跳ね上げてタイタンの足元へと鋭く潜り込んだ。全機体出力と補助プロセッサのリソースをタワーシールドの重力制御へ集中。
ドゴォォォォンッ!!!
タイタンの巨大な拳と、アースの重装バリアが正面衝突する。
山を平然と押し潰す衝撃波が全方位へ爆風となって吹き荒れ、アースの機体フレームがギギギと痛烈なきしみ音を上げた。コックピット内で強い重力波に圧迫され、アースの胸骨が数本みしみしと音を立てて軋む。肺の中の空気が無理やり吐き出され、口の中に生暖かい血の味が広がった。だが、彼は歯を食いしばり、足の裏の油圧ピストンを地中深くへ叩き込んで一歩も引かない。タイタンの巨体を完全にその場へ縫い付けた。
「……ルナ!! 今だ!! 俺の背中越しに撃てぇぇぇっ!!」
アースの背後、彼の展開する強大な重力圏に守られた完璧な「射撃無風地帯」で、ルナの瞳が覚悟に満ちた冷徹な狙撃手のそれに変わる。
「潮汐同調……シークエンス完了。……アース、私を導いて」
アースの機体が発生させる強大な重力場と、ルナの大型レールガンの莫大な射撃エネルギーが空間上で干渉し合い、空間に潮の満ち引きのような微細な空間歪曲波(潮汐波)が発生する。タイタンの強固な分子構造が、二人の共鳴によって内側から歪み、少しずつ削り取られていく。
ジュピターがバリアの密度を引き剥がし、ネプチューンが自動修復プログラムを凍結させ、マーズが身を削って抉り開けた関節の傷口。
その一直線上の延長線上に、アースの背中と、タイタンの胸部奥深くに蠢く重力核(脳・心臓)が完璧に重なった。
「ターゲット、ロック……【潮汐貫通弾】……発射!!」
ズバァァァァァンッ!!!!
眩い光の太矢が夜の山岳を裂いて放たれた。
アースの機体のわずか数センチ横をかすめて飛んだ超高エネルギー貫通弾は、タイタンの誇る重力装甲を濡れた紙のように容易く穿ち、その巨大な胸部へと着弾。内側から幾重もの重力崩壊と暴走爆発を引き起こした。
バリバリバリッ! ドォォォォン!!
「グガアアアアアアッ……!?」
山のごとき巨体が内側から崩壊を始め、タイタンは耐えかねて膝から崩れ落ち、山岳地帯の大地を激しく揺らした。傷口から青黒い体液と高熱の生体ガスが吹き出し、巨獣は沈黙する。
「……一回目の脳および心臓の破壊を確認」
ネプチューンが、モニターに表示された膨大なバイタルデータの消失を見つめながら淡々と告げる。
「よし……! やったか!?」
マーズがドリルブレードの回転を止め、機体のハッチを開けかけて大声で叫んだ。しかし、アースの視界の中で、倒れたタイタンの巨体が不気味なほどの高熱を発し始めていた。
「油断するな……! 異形の者が、一度の死で終わるはずがない!」
アースの切迫した警告と同時に、タイタンの肉体が凄まじい内圧によって猛烈な勢いで膨張を始める。破壊された細胞が異常進化と再構築を引き起こし、直前まで死因となった「潮汐波」と「氷結プログラム」に対する強力な耐性と変異を獲得していくのだった。




