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最後の一人になっても  作者: アルファベット・あき蔵
第04章:特殊戦術班_ギャンビット

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王の手先

「……クソがっ! 虫ケラどもが舐めた真似を……!」


右脚を撃ち抜かれたカメレオンは、歪んだ咆哮とともに焦土の路地裏へと滑り込んだ。

肉体が蠢き、アスファルトの灰色と建物の陰影を瞬時に吸収する。光学迷彩と熱源偽装の二重展開。一瞬にしてその存在が、都市の景色そのものへと溶けて消えた。


だが、特殊戦術班『ギャンビット』の面々に動揺はない。


「逃がしませんよ。――ナイト、盤面を塞ぎなさい」


ビル上のビショップが、淡々と通信機へ指示を飛ばす。


「へっ、言われなくてもな! ナイトの跳躍、見せてやるぜ!」


ナイトが脚部の油圧サスペンションを爆発的に駆動させた。巨体からは想像もつかない変則的な不規則跳躍。倒壊したビルの壁面を蹴り、空中を三角飛びで乱舞しながら、カメレオンが潜むであろう路地の奥へと急接近する。


「そこだろぉがっ!」


ガァンッ!と大音響が響き渡る。ナイトが振り下ろした大型砕岩斧が、何もない空中で激突した。

不可視の壁と化したカメレオンの防御甲殻に一撃を加えた。衝撃波で光学迷彩の粒子が乱れ、カメレオンの輪郭が歪んだ空間として浮き彫りになる。


「なっ……なぜだ!? 完全に気配を消したはず――」


「俺たちの前でコソコソ隠れてんじゃねえ! ナイトの軌道は直進しかできねえ奴らには読めねえんだよ!」


ナイトは強引に斧を押し込み、カメレオンの退路を完全に遮断。力任せに敵の不可視の刃を抑え込み、その場で完全に足を止めさせた。

チェスにおける「ナイト」の本領――障害物を飛び越え、敵の意図せぬ角度から退路を塞ぐ詰みの布石。


「詰みましたね」


静かな声が通信を切る。

遥か後方、ビショップのスナイパーライフル『アーク・ビショップ』が鈍い光を放った。


カメレオンがナイトを押し返そうとしたその瞬間、ビショップが放った大口径貫通弾が、直線上の巨大な瓦礫の山を『斜め』に貫通。建造物の構造計算を完璧に読み切った弾道は、ナイトの肩すれすれを通り抜け、カメレオンの背後からその右胸――心臓の一つを正確に撃ち抜いた。


「グガァアアッ!?」


青黒い体液を撒き散らし、完全に光学迷彩が剥がれ落ちるカメレオン。

退路をナイトに塞がれ、背後をビショップに撃ち抜かれた異形は、もはや盤上で逃げ場を失ったただの駒でしかなかった。


そして、その頭上から「絶対的な解」が舞い降りる。


「――チェス盤の王を獲る」


クイーンの背部推進スラスターが蒼いプラズマの炎を爆発させた。

縦横無尽、全方位への超高機動。倒壊しかけたビルの間を光の軌跡となって滑空し、重力を無視した直角の急降下でカメレオンの目の前に着地する。


「殺す……! 殺してやるぞ、人間共ぉぉっ!」


カメレオンが狂乱し、全身から伸ばした極細の生体ブレードをクイーンへ向けて突き出す。だが、クイーンの戦術眼と反応速度はそのすべてを上回っていた。


スラスターの瞬時噴射による最小限の回避。交差する鋭利な刃の群れをミリ単位ですり抜け、彼女はカメレオンの懐へと潜り込む。


「これで終わりだ」


二丁の汎用高出力サブマシンガンを、カメレオンの頭部と左胸へ同時に押し当てる。


ドォンッ!! ズバババババババンッ!!


至近距離での零距離フルオート斉射。

高エネルギー弾が異形の肉体を内部から引き裂き、頭部と心臓を同時に八つ裂きにする。破壊された肉体から膨大な熱量が吐き出され、カメレオンは激しい痙攣の末、どさりとアスファルトの上に崩れ落ちた。


「……一回目の脳、および心臓の完全破壊を確認」


銃口から立ち上る硝煙の中、クイーンが静かに告げる。カメレオンの巨体が急速に動かなくなり、体液が黒い水たまりとなって広がっていく。


「ふぅ……相変わらず容赦ねえな、隊長さんはよ」


ナイトが肩の砕岩斧を担ぎ直し、苦笑いを浮かべた。ビル上からビショップも降下し、弾倉を素早く交換しながら合流する。


「一見すると完璧な勝利ですが……油断は禁物です。奴ら『橘の被験者』は、一度の死などただの『進化の糧』にする」


「ああ、分かっている。本番はここからだ」


クイーンは冷徹な眼差しを、倒れ伏すカメレオンの死体から逸らさない。


その言葉に応えるかのように――地面に転がっていたカメレオンの傷口が、おぞましい音を立てて蠢き始めた。黒い体液が泡立ち、細胞が異常な速度で再構築されていく。


一度目の撃破達成。しかしそれは、さらなる地獄の扉が開く合図に過ぎなかった。

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