触媒の結末
静寂が、焦土となった戦場を優しく包み込んでいた。
激しい爆音も、大気を焦がす灼熱のノイズも、すべては遠い過去の出来事のように消え去っていた。天を覆っていた不気味な暗雲の隙間から、うっすらと澄んだ残照が差し込み、崩壊した異形の残骸と、一機のボロボロの機体を静かに照らし出している。
完全消滅——。
人類を絶望の底に叩き落とし、幾重もの防壁で阻み続けた不落の巨神『イージス』は、もう二度と動き出すことはない。
対絶対防御・特殊攻略班『リアクター』。
その使命は、完璧に果たされたのだ。
「ハッ……ハハ……」
沈黙したコックピットの中で、カーボンは小さく乾いた笑いを漏らした。
イージスの核を貫いた右腕のブレードは根元から折れ曲がり、機体の全機能を示すインジケーターは、すでに一つ残らず漆黒の死を告げている。操縦桿を握りしめていたカーボンの指先からは、とっくに感覚が失われていた。
胸部を圧迫する金属の質量。口からあふれ出る吐血が、胸元のパイロットスーツを重く赤黒く染めていく。
「勝ったぞ……みんな……」
弱々しい呟きは、誰の耳にも届かない。通信機からは、ただザーという砂嵐の音だけが空虚に流れている。
キセノン。
ガリウム。
フルオリーン。
一見すればバラバラで、破綻していて、劇薬でしかなかった彼女たち。だが、彼女たちが放った圧倒的な熱量と牙があったからこそ、この無敵の怪物を討ち取ることができた。自分はただ、その激しい反応の導火線となり、最期の瞬間に形を与えた「触媒」に過ぎなかった。
「……うまく……繋げたかな……」
カーボンはゆっくりと瞼を閉じた。
視界の裏側に、どこか呆れたように微笑むダウナーな少女と、意地悪く目を細めるサディストな女と、破天荒に鼻で笑う少女の幻影が見えた気がした。
「……ああ……人類は……必ず、生き残る……」
最後の一息を静かに吐き出し、カーボンの頭がゆっくりと胸元へ倒れ込んだ。
握りしめられていた操縦桿から、力が完全に抜ける。
特務攻略班『リアクター』。全滅。
しかし、彼らが焦土に残した爪痕は、人類の未来を阻む絶対の壁を完全に撃ち砕いていた。
夕闇が迫る戦場に、冷たい風が吹き抜けていく。
命を燃やし尽くした兵士たちの眠りを妨げるものは、もう何もなかった。
――崩壊した第三戦域を遥か遠く見下ろす、秘匿された地下研究施設のメインモニター。
そこには、全戦域での「異形の者」と人類の壮絶な死闘の凄惨な情景が表示されていた。
冷たい暗闇の部屋で、その画面を見つめる一人の男――
「ふは……ふはははは! 素晴らしい! 実に素晴らしい!!」
男の狂気の高笑いが、静まり返った施設内に響き渡る。




