狂気の過熱
ドババババッ!!
イージスの肉体から全方位へ撒き散らされる赤黒い高熱波。焦土の土すら溶けてマグマと化し、大気を歪ませるほどの熱気が戦場を支配していた。
自らを「不落の盾」たらしめていた防壁を全て爆発的な攻撃力へと変換したイージス。その姿はまさに、全てを巻き込んで自滅をも辞さない「過熱した炉」そのものだった。
「……ハッ……ハハ……最高じゃねえか……」
煤と血に塗れたコックピットの中で、フルオリーンが引きつった笑声を漏らした。
彼女の機体『フルオリーン』は、すでに全身の冷却機能が全滅していた。警告音は鳴り響き、内部温度は上昇の一途を辿っている。脱出装置も、非常用冷却エレメントも、とっくに焼き切れていた。
「カーボン。……あいつの胸の奥のコア、あれをブチ抜けば完全に終わりなんだな?」
「……そうだ。だが、あの高熱の嵐を突っ切らなきゃ届かない。……今の俺たちの機体じゃ、近づく前に蒸発する」
カーボンは片腕となった機体の中で、必死にシステムを繋ぎ直そうとしていた。だが、操縦系統の半分以上は応答しない。
「近づく前に蒸発する、か……。……なら、蒸発するより速く、あいつより熱くなればいいだけの話だろ?」
「……フルオリーン……お前、何をするつもりだ」
カーボンの声が強張る。通信機の向こうで、フルオリーンの機体が不気味な青白い発光を始めていた。
それは、機体内の全エネルギーと、予備の推進剤、さらには超高濃度フッ素系化合物の燃料タンクを限界を超えて短絡させ、自らを「歩く高熱爆弾」へと変える自爆シークエンスだった。
「私という「フルオリーン(強酸化剤)」を……全部あいつにぶち込んでやるんだよ」
「やめろ!! ガリウムだけじゃなく、お前まで死ぬ気か! 俺が……俺が別の道を考える!」
「馬鹿を言うな、カーボン!」
フルオリーンの怒号が通信機を揺らした。そこには悲壮感などなく、どこまでも破天荒で、純粋な戦意だけが滾っていた。
「キセノンが命を削って目を開けてくれた! ガリウムが死に体で装甲を腐らせてくれた! そしてお前が……私たちの手綱を引いて、ここまで繋いでくれたんだぞ!?」
フルオリーンの機体が、激しい推進炎を撒き散らしながら地を蹴った。
「一番美味しいとどめを刺すのが、この私じゃなくて誰だって言うんだよぉぉぉッ!!」
「フルオリーンッ!!」
「カーボン! 道を開けろ! あいつの胸へ……私を届かせろ!!」
「……クソがぁぁぁぁぁッ!!」
カーボンは歯が砕けるほど噛み締め、残された右腕で壊れかけたフレームを無理やり稼働させた。壊滅的なダメージを負った機体をスラスターの最後の一滴で跳躍させ、イージスが放つ高熱波の直撃コースへ割り込む。
バリバリバリガシャァンッ!!
カーボンの機体が装甲を剥ぎ取られ、右脚を吹き飛ばされながらも、イージスの攻撃の軌道をわずかに逸らした。
「いけぇぇぇぇッ、フルオリーン!!」
「ありがとな、隊長!!」
一瞬の死角。カーボンの作ったわずかな隙間を突き、青白い発光体となったフルオリーンの機体が、超音速でイージスの懐へと飛び込んだ。
イージスが狂乱の眼光でそれを識別し、腕を振り下ろそうとする。だが、遅い。
「命ごと溶けやがれぇぇぇぇ化け物がああああぁぁぁッ!!」
ドガアァァァァンッ!!
フルオリーンの機体が、イージスの胸腔——剥き出しになった核心部へと直接突き刺さり、全身のエネルギーとフッ素燃料を全解放した。
超高熱と強烈な化学反応が、イージスの体内炉を直撃する。
肉体が内側からドロドロに融解し、激しい白光が戦場全体を覆い尽くした。
「ギガアアアアアアッ……!?」
イージスの叫びは、己の肉体が内側から爆破される轟音によって掻き消された。
爆煙が激しく吹き荒れ、焦土に静寂が訪れる。
フルオリーンの機体は、跡形もなく消滅していた。
そして、過熱した白光が収まった中心部には——仲間たちの命をかけた全反応を受け、絶対の防壁を完全に失い、露出した最後の核、あの忌々しき脳と心臓が完全に姿を現した。




