拒絶の進化
ドクン、と焦土を揺らす不快な重低音。
砕け散り、焦げ付いていたはずのイージスの肉塊が、泥のように蠢きながら集束していく。削り取られた頭部と胸腔が、禍々しい朱色の脈動とともに再生・肥大化を果たしていく。
度目の死――それが異形にとっての「進化の種」だった。
「全員、距離をとれ! 警戒を怠るな!」
カーボンの警告と同時に、再誕したイージスから超高圧の衝撃波が全方位へ放たれた。地表がめくれ上がり、爆風がリアクターの機体群を打ち叩く。
「へっ、復活したところで、もう一度同じように溶かしてやれば――」
フルオリーンがプラズマ兵器を構え、再び肉薄しようとした瞬間。
ズヂヂヂッ!
イージスの体表から湧き出した漆黒のフィールドが、フルオリーンの放った高熱波を完全に「中和」し、虚空へと拡散させた。それだけではない。ガリウムが叩き込んだ浸透粒子すらも、表面の抗体細胞が強烈に拒絶し、一切の侵入を許さない。
「なっ……!? 私の粒子が……弾かれた!?」
ガリウムの余裕に満ちていた声が、焦りに跳ね上がる。
「嘘でしょ……拒絶反応!? 一度死んだ死因(熱量と脆化)に対する抗体エネルギー場を獲得したっていうの……!?」
「くそっ、前回の攻撃パターンが完全に学習されている……!」
絶望的な耐性の獲得。前回の成功体験はすべて過去のものと化していた。
攻略の糸口を失い、一瞬の停滞が生まれたその隙を、イージスは見逃さない。
「ガアアアアアアッ!!」
狂乱の咆哮とともに、イージスの肩部から放たれた不可視の圧搾波が、後方で分析を続けていたキセノンの解析機体を狙い撃ちにした。
ドガァンッ!!
「しまっ――あがぁっ!」
「キセノン!!」
爆煙の中、キセノンの機体が大破して吹き飛ぶ。
通信機から漏れるのは、彼女の苦悶の喘ぎと、激しく鳴り響くシステム警告音。高精度センサー群は砕け散り、彼女のモニターはノイズの海と化していた。
「……ふぅ。……センサー、全滅。敵の……周期データ、受信用アンカー……消失……」
血を吐くようなキセノンの声。敵の防御を破る第一工程である「可視化」が封じられた。それは、リアクターの「元素反応」という方程式が完全に崩壊したことを意味していた。
「……これじゃ……カーボンも、みんなも……攻撃できない……」
イージスが巨脚を上げ、動けなくなったキセノンの機体へ向かって踏み下ろそうと歩みを進める。
「足止めだ! ガリウム、フルオリーン、キセノンを救出するぞ!」
カーボンがスラスターを全開にして突撃しようとした、その時。
「――来ないで、カーボン」
キセノンの声から、いつもの眠たげなダウナーさが消えていた。そこにあったのは、冷徹なまでの決意。
「私の役割は……解析。敵の穴を……見つけること」
「何を言っている! 離脱しろ、キセノン!」
「私だって……高電圧をかければ、闇を穿つ光になれる……」
壊れかけた機体のコックピットで、キセノンは血で汚れた手で非常用オーバーロードスイッチを叩き割った。
機体残存バッテリー、全開放。ジェネレーター過給率、400%突破。
「カーボン……ガリウム……フルオリーン……繋いで……」
「やめろおぉぉぉッ!!」
カーボンの絶叫を掻き消すように、破滅的な光芒が爆発した。
キセノンの機体そのものが巨大な発光体となり、至近距離からイージスの顔面へと直接叩きつけられた。全高エネルギーを強引に励起させた、命を懸けた『極限キセノンアーク』。
「ギガアアアアアアッ!?」
イージスが初めて苦悶の悲鳴をあげる。中和フィールドが力づくで焼き切られ、過負荷によって敵の肉体に刻まれた新たな「弱点の周期」が、焦土の夜空に眩い閃光となって強烈に浮かび上がった。
光の中心で、機体のコックピットが超高熱に包まれ、キセノンの瞳から光が失われていく。
焼き切れる視界の最後、彼女の唇が静かに動いた。
(……見えたよ……カーボン……)
ドス黒い爆炎とともに、キセノンの機体が沈黙した。
「キセノン……ッ!!」
歯が折れるほど噛み締め、溢れる血を拭う間もなく、カーボンは牙を剥いた。彼女が命と引き換えに遺した、一瞬の「可視化データ」。それを無駄にすることなど、絶対に許されない。
「ガリウム! フルオリーン! 合わせろぉぉぉッ!!」
「……よくも、よくも私の可愛いキセノンをやってくれたわねぇぇッ!!」
狂気と激怒で顔を歪ませたガリウムが、焼き切れた防壁の隙間へ残存粒子を限界を超えてねじ込む。
「地獄へ落ちろ、化け物がああぁぁッ!!」
フルオリーンの叫びとともに、限界突破の超高熱波が、キセノンの遺した光の痕跡を正確に撃ち抜いた。
ドカァァァァンッ!!
二度目の爆砕。
イージスの巨躯が再び崩れ落ち、頭部が吹き飛ぶ。
しかし、立ち込める黒煙の中、カーボンの胸を支配していたのは勝利の歓喜ではなく、圧倒的な喪失感と、さらなる絶望の予感だった。
仲間を一人失って、ようやく二度目。
残る命は、あと二つ。




