砕けぬ拳
ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
三度目の死を超えたプロメテウスから、もはや咆哮すら上がらなかった。
代わりに響いたのは、全身の細胞が異常膨張し、過密な爆縮を起こす不気味な軋み音。
黒褐色に硬化した肉体は、文字通り『歩く超巨大爆弾』へと変貌していた。生体砲身はすべて消失し、代わりに全身の皮膚が無数の高熱亀裂となって脈動している。一回叩けば、半径数キロを焦土に変える威力の自爆エネルギーがその内側に充填されていた。
地表の酸素が強烈な熱量で瞬時に奪われ、視界が歪む。
爆発のカウントダウンを刻むように、黒褐色の表皮の下で不気味な赤黒い肉塊がうごめいていた。
言葉通りの生ける特攻兵器。知性も生存本能も捨て去り、ただ周囲の生命ごとすべてを爆滅させるためだけに組み替えられた終末の姿だった。
理性は完全に消失。ただ眼前の生命をすり潰すためだけに駆動する、四度目の最終暴走形態。
「……ハッ、要塞そのものが自爆覚悟で襲ってくるようなもんか」
プロテアが大口径多連装機関砲『ギガント・バスター』を構え直す。だが、限界を超えた連続射撃により、砲身は真っ赤に焼きつき、弾倉の残弾カウンターは『00』を示して虚しく明滅していた。
カチッ、カチッ……。
虚しく乾いたトリガー音が響く。何千発という巨弾を放ち、プロメテウスの肉体を削り続けてきた相棒が、ついにその命運を尽かした瞬間だった。
「弾切れかよ……手厳しいねえ、おい!」
プロテアは豪快に吐き捨てると、愛用してきた巨砲を冷たい泥の中に放り投げた。
「プロテア、引け! 弾がないなら前衛は張れない!」
グロリオサが叫ぶ。彼の『ブラスト・ストライカー』も装甲が歪み、油圧システムから黒いオイルが漏れ出していた。
「バカ言え、グロリオサ! 誰が引くかってんだ!」
プロテアは生傷だらけの顔を歪め、ガハハと地鳴りのような笑い声を上げた。
「バックギアなんて最初から積んじゃいねえんだよ! 仲間が順番に命を投げ打って繋いできたこのバトンを、手ぶらになったからって落とせるか!」
泥と血をぬぐい去り、彼は立ち上がる。ブルースターの肉壁、ガーベラの決死の滑走、カサブランカの狂熱の拘束――そのすべてを間近で見てきた男の背中には、散っていった戦友達の魂が重なっていた。
「俺はプロテア……『王者の風格』なんだよ! 弾がねえなら、この肉体と骨で壁になるまでだ!」
プロテアは重装甲パワードスーツの出力リミッターを力任せに打ち抜いた。背部の巨大スラスターが狂ったような爆音とともに青白い火柱を噴き上げる。
プロメテウスがその巨躯を狂暴に揺らし、残されたグロリオサとデルフィニウムへ向けて、自爆覚悟の突進を開始する。すれ違う空気すら灼熱で蒸発させる質量の暴力。
大気を震わせる地鳴りが接近する。一足ごとに大地が陥没し、灼熱の波がプロテアのバイザーを焼き焦がす。突進の余波だけでパワードスーツの耐圧アラームが鳴り響くが、プロテアは足を踏みしめ、全身の推進力を一点に集中させた。
「来いやァァァ、バケモノォォォッ!!」
プロテアは正面から飛び込んだ。
両手を広げ、重装甲の肩と腕をプロメテウスの剥き出しの生体砲身跡――高熱の亀裂へと強引にねじ込む。
ガシャアァァァァンッ!!!
重厚な金属音と断骨音が同時に響き渡る。
プロテアのパワードスーツが歪み、内部の肉体が激しい熱で焼き焦がされていく。だが、彼は血吐く口で笑いながら、プロメテウスの肉体に超硬合金のスパイクを深く打ち込み、その動きを力づくで完全に固定してみせた。
「グハッ……! 捕まえたぜ……! 動きは止めた!!」
プロテアの全身から黒い煙と血が吹き出す。彼は後ろを振り返ることなく、叫んだ。
「グロリオサ! 隊長! あとは頼んだぞ……! 俺たちの、人類の意地を、あいつの喉元に届けてやれぇぇぇッ!!」
「プロテアァァァァッ!!」
プロメテウスの全身から溢れ出た超高熱の熱流が、プロテアの肉体を呑み込んでいく。
豪快な男の生命反応が、戦術バイザー内から静かに消滅した。
巨砲も弾薬も失った男が、文字通り自らの肉体そのものを楔として怪物の動きを停止させた。彼が焼き尽くされながらも打ち込み続けたスパイクとパワードスーツのフレームが、プロメテウスの自爆突進を強引に受け止め、その胸部に決定的な亀裂を生み出していた。
残されたのは、グロリオサとデルフィニウムの二人。
満身創痍の二人の前で、プロテアが命懸けで固定した敵の胸元――最後の『核(脳と心臓の起点)』が、剥き出しのまま僅かに覗いていた。




