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最後の一人になっても  作者: アルファベット・あき蔵
第2章:第245小隊_ファントム・ブーケ

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焼尽の再起(しょうじんのさいき)

ドクン……ッ!


地響きのような脈動とともに、崩れ落ちていたプロメテウスの巨体が激しく痙攣した。

先ほどグロリオサが吹き飛ばした頭部から、どろりとした紫色の生体細胞が爆発的に噴出。瞬時に肉体を覆い直し、より強固な黒銀の耐熱甲殻へと変異させていく。


さらに、その全身の隙間から吐き出されたのは、周囲の空間すら歪ませる超高熱の指向性爆炎だった。


「キィィィィィィンッ――!!」


大気を焦がす不快な高周波音とともに、プロメテウスを中心に全方位へ向けて灼熱のショックウェーブが撒き散らされる。


「くっ……!? やはり通常弾頭が弾かれる! 実体弾に対する装甲が硬化しているぞ!」


プロテアが機関砲を叩き込み続けるが、黒銀の甲殻に弾かれ、火花を散らすのみ。プロメテウスは一瞬で撃破時のダメージへの「耐性」を獲得していた。


「キャッ……! 全身からの放熱量が桁違いだわ……! 近づくだけでアーマーが溶ける!」


カサブランカが眉をひそめ、後ろへ跳躍する。

プロメテウスは巨大な二本脚で力強く立ち上がると、強化された生体砲身を小隊の頭上へ向けた。充填される熱量は先ほどの倍以上。直撃すれば、部隊ごと一瞬で蒸発する。


「全員、私の後ろへ!!」


叫んだのは、衛生兵のブルースターだった。

彼女は小柄な体躯で前線へ駆け出すと、左腕の発生装置をプロメテウスへ向けて突き出した。


「限界駆動(オーバー・ドライブ)……! 展開(シールド・アップ)!!」


青白い電磁防壁が重なり合い、巨大な光の盾となって小隊の前方に展開される。

直後、プロメテウスから解き放たれた極太の熱線砲が、ブルースターの防壁に真っ向から衝突した。


ドバァァァァァァンッ!!!


狂暴な熱波と光が周囲を覆い尽くす。

防壁の表面で激しい火花が飛び散り、あまりの衝撃にブルースターの足元の焦土が粉砕されていく。


「ブルースター! 無茶だ、その熱量は防壁の許容量を超えている!」


グロリオサが叫び、手を伸ばそうとする。だが、ブルースターは歯を食いしばり、一歩も引かない。


「逃がしません……! 私が抑えている間に……敵の……敵の弱点を……!」


シールド発生装置から激しい警告音が鳴り響く。

『警告:ジェネレーター温度、閾値を突破。融解危険度98%』


ブルースターのバイザー内に赤い警告が乱舞する。防壁を伝ってきた超高熱が彼女の医療アーマーを焼き、皮膚を焦がしていく。激痛で視界が真っ赤に染まるが、彼女は血の滲む唇を噛み締め、両脚で大地を踏みしめ続けた。


「何があっても……誰も死なせないって……決めたんだからぁぁぁッ!!」


彼女の叫びが焦土に響き渡ると同時に、シールドの接合部から白いプラズマが噴き出した。

限界を超えたエネルギーが彼女の体を内側から焼き、生命維持装置がけたたましい警告音を刻む。それでも彼女の脚は寸分狂わず踏み留まっていた。


「見えた……照射時の冷却孔……胸部中央だ!!」


通信越しに途切れ途切れに届く、ブルースターの必死の報告。


「……そこだ」


ブルースターが命を賭して引きつけた一瞬。

後方の瓦礫の上で静止していたデルフィニウムが、冷徹に引き金を引いた。


ズ・ドォォォンッ!


対物狙撃砲から放たれた大口径の徹甲貫通弾が、プロメテウスが射撃のために露出させた胸部の中央――甲殻の隙間の僅かな生体組織を完璧に射抜いた。


「ガ、ァァァァッ……!?」


内部からの破壊。

プロメテウスの胸部が大きく破裂し、二度目の死を迎えて巨体が後方へと倒れ込む。


しかし、歓喜の声は上がらなかった。


「……ブルースター……?」


グロリオサが駆け寄る。

そこには、赤く焼け焦げた発生装置を構えたまま、膝をついたブルースターの姿があった。

暴走したジェネレーターの爆発的な熱風と過負荷を全身で受け止めた彼女のアーマーは完全に沈黙し、バイタルサインは、無機質な平坦線(フラット)を描いていた。


「おい……冗談だろ……目を開けろよ、ブルースター……!」


ガーベラが駆け寄り、彼女の肩を揺さぶろうとしてその手の甲の熱さに息を呑む。装甲は触れることすら躊躇われるほど過熱していた。カサブランカは力無くその場に崩れ落ち、プロテアはギガント・バスターを握りしめたまま、言葉を失って立ち尽くしている。


「……バカ野郎……『誰も死なせない』って……お前が言ったんだろうが……ッ!」


グロリオサの拳が、熱を帯びた泥を強く叩く。叩きつけられた衝撃で泥が弾け、彼の装甲の手甲にひびが入った。自分たちの盾となり、命を燃やし尽くした少女の横顔は、皮肉なほど静かだった。


「……泣いている暇はない」


狙撃砲のボルトを引くデルフィニウムの声が、僅かに震えていた。


「異形(プロメテウス)の鼓動が……また始まった。3度目の再起だ」


戦場に黒い絶望が満ちていく。

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