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第8話 迎撃

匪賊崩れの襲来を告げる報せが再び届いたのは、それから二日後の夜のことだった。


「見えたぞ! 松明の明かりが、こっちに向かってきている!」


見張りに立っていた若者が、土塀の上から声を張り上げた。村中に緊張が走る。


蓮は、村長や李と共に、土塀の内側で息を潜めていた。強化を終えた猟銃を抱えた村の男たちが、それぞれの持ち場についている。手には、以前とは見違えるほど鋭さを増した鎌や大刀を握った若者たちの姿もあった。


「本当に、これで勝てるのか……」


李が、緊張した声で呟いた。蓮自身も、確信があるわけではなかった。強化した道具の性能は確認できている。だが、実戦で、それがどこまで通用するのか――それはまだ、誰にも分からないことだった。


「大丈夫です。この道具たちなら、きっと」


蓮は、自分自身に言い聞かせるように、そう口にした。


***


松明の明かりが、次第に村に近づいてくる。夜目にも分かるほどの人数――三十人はくだらないという報せは、決して大げさなものではなかったようだ。統率された動きではないが、その分、荒々しく、容赦のなさが感じられる集団だった。


「村の者ども、聞け! この村を治める権利は、これより我らにある! 大人しく物資を差し出すなら、命だけは助けてやる!」


先頭に立つ、頭領らしき男が、しゃがれた声で怒鳴った。あの荒野で蓮を捕らえていた集団の頭領と、同一人物だった。


「答えろ! それとも――」


頭領の言葉が終わるより早く、土塀の内側から、乾いた発砲音が響いた。


村の老人の一人が、震える手ながらも、強化された猟銃の引き金を引いたのだ。放たれた弾は、驚くべき精度で、匪賊の一人が構えていた大刀を弾き飛ばした。


「な、なんだと……!?」


匪賊たちの間に、動揺が走る。


「かかれ! ただの村人どもだ、ひるむな!」


頭領の号令で、匪賊たちが一斉に土塀へと殺到してきた。


***


戦いは、蓮の想像していたものとは、まるで違った様相を呈した。


土塀の上から放たれる強化された猟銃の弾は、これまでとは比較にならない威力で、匪賊たちの得物を次々と弾き飛ばしていった。時には掠っただけで、相手の握っていた武器そのものが、まるで粘土細工のように砕け散ることさえあった。


「な、なんだこの村は……! 武器が、化け物じみてやがる!」


強化された鎌を手にした青年たちも、土塀に取りつこうとする匪賊たちに立ち向かっていった。恐怖に足がすくむ場面もあったが、手にした道具の圧倒的な性能が、彼らに勇気を与えているようだった。刃こぼれ一つしない鋭い切れ味は、匪賊たちの粗末な武器を、面白いほど簡単に打ち払っていく。


蓮自身は、土塀の陰に身を潜めたまま、震える手で戦況を見守ることしかできなかった。剣は握れず、銃も撃てない。強化した道具を手渡すことはできても、それを戦場で振るう役目は、蓮以外の誰かが担うしかなかった。


(俺は、何もできない。ただ、道具を強くすることしか……)


自嘲めいた感情が、胸の奥をちくりと刺す。だが同時に、その道具によって、村人たちが匪賊たちを押し返していく光景を、蓮は確かにこの目で見ていた。


「くそっ、退け! こんな村、割に合わねえ!」


頭領の声に、統率を失いかけていた匪賊たちの何人かが、算を乱して後退し始めた。それが引き金となり、集団全体の動きが、みるみる崩れていく。


「今だ! 押し返せ!」


李が声を張り上げ、村の男たちが一斉に前に出た。強化された武具の威力を前に、匪賊たちはもはやまともな抵抗さえできなくなっていた。


***


夜明け前、戦いは決着を見た。


匪賊崩れの集団は、大きな損害を出すことなく――少なくとも、村人たちが望んだ形で――算を乱して荒野の彼方へと逃げ去っていった。土塀の内側に残されたのは、興奮と安堵に沸き立つ村人たちの姿だった。


「勝った……! 俺たちが、勝ったんだ!」


「陳蓮殿の道具のおかげだ!」


歓声が、夜明けの空に響き渡る。蓮は、その輪の中心で、呆然と立ち尽くしていた。


「……勝った、のか?」


自分自身の口から漏れた言葉が、どこか他人事のように聞こえた。剣も振るわず、銃も撃たず、ただ道具を強化しただけの自分が、この結果にどれほど関わったと言えるのか――蓮の胸の内には、まだ実感の伴わない戸惑いが残っていた。


だが、村人たちの喜びようは、そんな蓮の戸惑いなど気にも留めない、心からのものだった。李が駆け寄ってきて、蓮の肩を勢いよく叩いた。


「陳蓮殿、あんたのおかげだ! 本当に、ありがとう!」


「いえ、俺は……」


言いかけた言葉を、蓮は途中で飲み込んだ。今この瞬間、村人たちの喜びに水を差す必要はないと、直感的に思ったからだ。


夜明けの光が、東の空からゆっくりと差し込み始めていた。土塀の外に広がる荒野を、朝焼けの色が静かに染めていく。


蓮は、その光景を見つめながら、自分の手のひらに視線を落とした。剣だこ一つない、ごく普通の、非力な手だった。


---


(第9話「『俺は何もしていません』」へ続く)


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