第七話
「俺が魔導士に…、だって俺の能力はゼロなんだろ? どうやってなるんだよ?」
俺がそう言うと、髭をいじりながら、おっさんは気だるそうに答えた。
「んー、まぁ、なんていうか……才能ない君でも? なれる? それが魔導師? みたいな?」
「ムカつくな……なんだよその、一昔前のチャラ男みたいな話し方は」
「なかなかじゃろ? 人間の世界をあらゆる時代で観察して身につけたんじゃ。お主、知っとるか? 腰パン」
「死語だぞ、それ。そんなの身につけんなよ」
呆れた俺をよそに、メラさんが苛立ったように口を開く。
「燃やされたくなかったら、話を聞け。お前にはまず、三ヶ月後に控えた魔法士認定試験を受けてもらう」
「えっ!? ちょっと待ってくださいよ。俺、魔法使えないんですよ?
どうやって試験受けろっていうんですか。それに俺は、志帆ちゃんにふさわしい男になるために来たんであって、別にこの世界で魔導師になろうなんて……」
「ごちゃごちゃうるさいな、小僧。調子に乗るなよ」
「え?」
その瞬間だった。
視界が赤く染まり、次の瞬間――右手が燃え上がる。
「うわああっ! 火が……!」
反射的に川へ飛び込む。
水に叩きつけられながら、必死に火を消した。
やっと炎が消え、顔を上げた、そのとき。
――白い光。
気づけば、俺は元の場所に立っていた。
「……え?」
服は濡れていない。火傷もない。
「たしかに……燃えたはずなのに……」
「やれやれ、今のはさすがに疲れたわい……」
おっさんの方を見ると、ぐったりと腰を下ろしていた。
「時間を戻したんじゃ。老体に無茶させんでくれ」
「ちょっとおじいさま! なんでこんなやつ助けるのよ」
メラさんが不満げに言う。
「なんでって……ここで死なれちゃ、連れてきたワシの立場が悪いじゃろうが」
おっさんはゆっくりと俺を見る。
「よく聞け、少年。魔法は誰にでも素質がある。もちろん、お主にもな」
「……」
「それを開花させるかどうかは、お主次第じゃ。ここに来た理由、忘れたわけじゃあるまい?」
――好きな人を振り向かせるため。
「魔導師の道は厳しい。じゃが、その分だけ価値がある。お主が思う理想に、きっと近づける」
(理想の自分……)
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
(変わりたくて、ここに来たんだろ……)
「メラさん」
俺は顔を上げる。
「素質ゼロの俺でも、死ぬ気でやれば魔導師になれますか?」
「……」
一瞬、空気が張り詰めた。
「ええぞ、その目じゃ」
おっさんが嬉しそうに笑う。
メラさんは鋭い視線のまま、短く言った。
「それは、お前次第だ」
「……お願いします」
深く頭を下げる。
こんなふうに誰かに頭を下げたのは、いつ以来だろうか。
⸻
魔法とは、人間が持つオーラ――すなわちエネルギーを実体化したものらしい。
個人の性格や性質によって魔法は変化し、適性は実際に見てみないとわからないという。
「手を出せ。魔法の性質を見てやる」
「……はい」
正直、また燃やされるんじゃないかと怖い。
だが、そんなこと口にできる空気ではなかった。
メラさんが呪文を唱えると、俺の手が白く光る。
「おお……これが魔法か……」
「……なんと」
おっさんが立ち上がる。
メラさんも、わずかに目を見開いた。
「どうしたんですか?」
「お前、この魔法……」
「F素材の光魔法とは、面白いやつじゃのう」
おっさんが楽しそうに言う。
「いや、だからそれ何なんだよ。いいってことか?」
「当たり前じゃ! ワシと同じじゃからな!」
「…………」
正直、判断に困る。
ふっと、メラさんが笑った。
「どうやら、ただのゴミではなさそうだな」
「だから、ちゃんと説明してくださいよ」
「光魔法と闇魔法は“特殊魔法”だ」
「特殊?」
「私のような火や水、電気といった個性魔法は、その性質の力しか使えない」
メラさんは腕を組む。
「だが光と闇は違う。制限はあるが、他の魔法も扱える」
「……つまり?」
「万能型だ」
「チート魔法ってことか……」
「チート?」
「いえ、なんでもないです」
「……明日から訓練だ」
「え? 今からじゃないんですか?」
「ここでは限界がある。それと――」
メラさんは俺を指さす。
「少し魔力を与えておいた。街に出ても不審には思われないはずだ」
「あ、ありがとうございます」
「今日はもう帰れ」
おっさんが右手を向ける。
「いや、だから帰るってどこに――宿も取ってないんですけど」
その言葉を言い終える前に。
視界が白く弾けた。




