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第五話

「付き合ってほしいんだ……俺と」


花火大会に誘うだけのつもりだったのに、口から出たのは告白だった。

自分の声を疑う日が来るなんて思いもしなかった。


付き合ってほしい!?

なに言ってんだ俺は!!


まさかと思って後ろを振り返ると、竹口おっさんがあくびをしながら右手をこちらに向けている。

心の声が漏れる魔法でもかけたに違いない。よりにもよって、あの悪夢の再現かよ。


「おい、トイレ行ったんじゃないのか。それに、こんな状況で笑えない魔法かけんなよ」


竹口はニヤリと笑い、右手を向けたまま顎で桜田を指した。


「覚えてろよ……」


捨て台詞みたいに言い捨てて、俺は再び桜田のほうに向き直る。

気まずすぎて顔が見れない。

モニターの赤い光は怒っているみたいで、青い光は悲しんでいるように見えた。


終わった……。


「ごめん、急に変なこと言って……」


視線を落として、俺は絶望した。

後悔しているのは告白じゃない。

怪しい魔法使いになんて頼った自分がバカだったということだ。


「……私でよければ」


たしかに、そう聞こえた。


「うん、そうだよね……え?」


「恥ずかしいから、同じこと言わせないでよ」


女子の満点リアクションすぎる。

桜田は本当に恥ずかしそうに体をすぼめ、ちらちらと俺を見る。

初めて見る表情だった。可愛すぎて脳内が桜田で埋め尽くされる。


「それって、つまり……オッケーってこと?」


確認すると、桜田は視線をそらし、もう一度恥ずかしそうに目を合わせた。


「うん……いいよ」


「ちょっと! あんた、やったじゃない!」


宮上が興奮して背中を叩く。

痛みはあまり感じなかったが、反射的に「イタッ!」と声が出て、頬をつねる。


普通に痛い。夢じゃないらしい。


「ちょっと、どんな魔法使ったのよ!」


宮上の言葉に、浮かれていた俺の胸に疑念が生まれる。


「よかった、よかった」と後ろから他人事みたいな声。


「まさか……」


振り返ると竹口おっさんが眠そうにあくびをしていた。


「これで成功じゃな」


「ちょっとごめん」


俺はおっさんの腕を引っぱって廊下に連れ出した。


「おい……まさか桜田の心まで操ったんじゃないよな?」


「はて?なんのことじゃ?」


「桜田がオッケーしたのって……おっさんの仕業か?」


「そ、そんなわけ……」


おっさん、わかりやすすぎるほど動揺して目をそらした。


「やっぱりか……」


「すまん、ショックか?」


「そりゃそうだろ。でも気持ちは嬉しいよ。だけど、こんな形で成功しても意味なんてないんだ」


「どういうことじゃ? お前さんは告白成功のために頑張ったんじゃろ?」


「でも桜田は魔法で“好きになってるだけ”だろ。本当の気持ちじゃない。そんなの望んでないよ……」


竹口おっさんは、生えていない髭を触るしぐさをし、少し間を置いて言った。


「ふむ。そう言われたらそうかもしれん。でものう、お主が花火に誘ってオッケーされても、最後はどうせフラれていたぞ?」


「もういいよ。魔法とはいえ成功させてくれてありがとな。俺も諦める決心がついた。花火に来てくれたのも、きっと気まぐれだ」


「あきらめるんか?」


「ああ。今までありがとう。……戻ろう」


泣きそうだった。


部屋に戻ろうとしたとき、「待てい」と呼び止められる。


「なんだよ」


「お主じゃ、あの子は無理じゃよ」


「わかってるよ……だから諦めるって言ってるんだろ」


「いや、わかってない。今のお主では無理なんじゃ」


「うるさいな! わかってるっての!」


叫んだ声が廊下に虚しく響く。


「そうやけになるな」


「なってねぇよ。ただ……」


悔しかった。おっさんに“無理”と言われて、納得してしまっている自分が情けなかった。


竹口おっさんは咳払いし、改まった声で言った。


「今のお主では無理、という意味じゃ」


「今の俺?」


「そうじゃ。運動だめ、勉強だめ、性格スケベ。これでどうやって成功するんじゃ?」


「スケベはいいだろ別に……」


「わし、気づいたんじゃ。このままじゃ、何度時間を戻しても無駄じゃ。原因は“過程”ではなく“お主本人”にある」


「それは……」


「そこで、わしに考えがある」


「もういいよ。魔法は——」


「違う。わしの世界で鍛えてやろう」


「お断りします」


即答した。もうこいつとは関わりたくない。


「まぁ話を聞け、迷いきった子羊よ」


「うるせぇよ」


「この世界での暇つぶしも飽きたし、そろそろ帰らんといかん。ついて来い」


「一人で帰れよ。なんで俺まで——」


「お主!!」


おっさんは声を荒げた。


「な、なんだよ」


「いいのか、このままで……?」


「そんなの……俺だって、この自分が情けないとは思ってるよ」


「じゃろ。答えはもうわかっとるはずじゃ」


「で、でも魔法使いの世界なんて……どこにあんだよ。学校もあるし……」


「呆れてものも言えん。今まで何をしとった?」


「……あ、そうか」


「そうじゃ。時間を戻せばいい。わしの世界で修行し、成長し、今度こそ告白を成功させてみせよ」


「……わかった。やるよ。絶対成長して、告白を成功させる」


「ふっ……」


「は?」


おっさんは鼻で笑い、咳払いして呪文を唱えた。


「その意気じゃ。戻りたまえ、我が家に!!」


おっさんが竹口の格好のままなことに気づく暇もなかった。


「あ!ちょっと待て!竹——!」


白い光が、俺とおっさんを包み込んだ。

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