第二話
クラスの喧噪を断ち切るように、担任がわざとらしい咳払いをした。
「オホン! よし、ホームルーム終了! お前ら気をつけて帰れよー!」
椅子を引く音が一斉に鳴り、教室がざわつきながら帰り支度を始める。
その中で、前の席の竹口明が振り返り、やけにしつこく声をかけてくる。
「なぁ! おい! ホーリー! ホーーリーって!」
「おわっ!? え、ここは……?」
「なにビビってんだよ。お前、俺の話聞いてたか?」
――そうだ。
俺は“あの日”に戻ってきたんだ。
じゃあこのあと、花火大会の予定が決まる……。
「えっと……なんだっけ?」
「おいおい、大丈夫かよ。みんなでカラオケ行く話だろ?」
「カラオケ……!」
その言葉で、記憶がぶわっと蘇る。
「あれ、メンバー誰だっけ?」
「はぁ!? 寝てんのか?
俺とお前と、お前の大好きな桜田志帆ちゃんだろ。
お前が必死で頼むから、俺が色々調整してなんとか取り付けたんだぞ?」
「わ、わるい……そ、そうか、確かに」
「で、今日お前、誘うんだろ?」
「え?」
「明日の花火大会だよ。俺も誘うぜ?」
「はぁ!? なんでお前が誘うんだよ!」
「なに怒ってんだよ。お前は志帆ちゃん、俺は梨華ちゃんって話してただろ」
――そうだった。
志帆ちゃん一人じゃ来ない。
だから竹口の好きな梨華ちゃんも誘う……はずだ。
でも。
花火大会の“その日”、竹口はいなかった。
つまり、竹口は――断られる未来にいる。
このテンションのまま突っ走らせていいのか……?
いや、友達として止めてやるべきじゃ……。
「だからさぁ、俺らダブルデートの日も近いかもしれないよな!」
「え? あ、あぁ……そうだな……」
「そしたらよ? 俺ら二人とも彼女持ちだぜ?
こんなイケてる高校生活あるかよ!」
浮かれる竹口の後ろ姿を見ると、胸が痛む。
可哀想な奴だ……
自分がこれからフラれるともしらずに。
意を決して、俺は椅子を蹴るように立ち上がった。
「もし……」
「竹口!!」
「な、なんだよ。梨華ちゃんはダメだぞ?」
「いや、そうじゃない。今日誘うのは……やめておけ」
「はぁ? なんで?」
「……お前は、断られるからだ」
ニヤけていた竹口の顔が一瞬だけ真顔になる。
だが次の瞬間にはまたへらっと笑って、含みのある目をした。
「さては……お前、俺に先越されるのが怖いんだろ?」
「は?」
竹口は俺の肩に手を置き、妙に優しい声で言った。
「安心しろよ。俺に彼女できても、お前とは友達だからよ」
――ヤバい。
止めるどころか、ひっぱたきたくなってきた。
唇を震わせながら、なんとか返す。
「……あ、ありがとな」
「よし! じゃあカラオケ集合な! 行くぞ!」
これから確実にフラれに行く男の背中を見つめながら、
俺はため息をつきつつ教室を後にした。




