第一話
「んじゃ、やり直すぞ」
謎の男は顎髭をさすりながら、当然のように言った。
魔法なんて信じたことはない。
だが、今の状況はどう見ても“魔法”そのものだ。
もし本当にやり直せるなら――。
「ちょ、ちょっと待てって。今やり直しても、結果は同じだろ?」
男は「ふむ」と考えるふりをして、首をかしげた。
「うーん……それもそうじゃな」
「だろ? それに“やり直す”ってどっから――」
「そうじゃ!」
男の顔がぱっと明るくなる。
「心の声がそのまま口から出る魔法をかけてやろう!」
名案だと言わんばかりに、満足げな笑みを浮かべている。
「心の声!? いやいや無理無理! 恥ずかしすぎるだろ!」
「お前さんの、あの口下手な告白のほうがよっぽど恥ずかしいわい。
女の子はの、口先より“心が伝わる言葉”のほうが嬉しいんじゃよ。
お前さんが本気で思っとることを言えば、きっと気持ちは通じる!」
なぜか、この男の言葉には妙な説得力があった。
「……なるほど。じゃあ、その……お願いします」
「うむ。では――時間よ、戻れ。戻りなさい」
「なんだそのユルい呪文」
その瞬間、男の体が白く発光し始めた。
光は一気に強まり、視界を真っ白に染める。
⸻
気がつくと、あの男はいなかった。
周りを見回した瞬間、胸に響く重低音。
――ドンッ。
「綺麗……」
彼女の呟きが聞こえた。
そこでようやく理解する。
俺は、告白する前に戻ってきたんだ。
次の花火が上がり、夜空を照らす。
「あのさ……」
「どうしたの? 花火見ないの?」
「実は……伝えたいことがあって」
「なに?」
心の声をそのまま言う魔法。
逃げ道はない。
「花火よりも綺麗な君の隣は、僕だけの特等席だ。この夜空に永遠を願ってる。あと胸が……」
「えっ? き……」
『ご来場のみなさまに申し上げます――市民花火大会にお越しくださいまして誠に――』
タイミング最悪のアナウンス。
そして――
「ププ……」
背後から、こらえきれない笑い声。
「おい……」
振り返ると、例の男が腹を抱えていた。
「ぎゃははは! なんじゃおぬし、そんなこと考えとったんか。思わず女の子も“きも……”」
「言うな! てかこれはあんたが提案したんだぞ! 責任とれ!」
「いやいや、すまんすまん。ププ……胸好き特等席くん」
「こ○すぞ」
「わ、悪かった悪かった。確かに、いきなり告白の場面からやり直すのは酷じゃな」
「最初からそう言ってるだろ……。どうすんだよ、巨大な黒歴史作らせやがって」
男は顎髭をひねりながら、「ふむ」と頷いた。
「しかし不思議じゃのう。告白しても無理な男のお主と、なぜ彼女は二人きりで花火大会に……?」
「それは……俺にもわかんないよ。誘ったら、その……嬉しそうに……」
「それじゃ!」
男の顔がぱっと輝く。
「彼女と花火大会に行く約束をした日に戻れば、なにかわかるかもしれん!」
「……確かに。でも、そんなことできるのか?」
「可能じゃ。わしは魔法使いなんじゃから」
「…………」




