第十八話
俺は覚悟を決め、拳を握った。
不思議と、いつの間にか震えは収まっている。きっとマリルとリアナが近くにいるからだろう。二人を危険な目に遭わせるわけにはいかない。
メラさんの身体を包む炎がさらに勢いを増す。熱気だけで肌が焼けそうだった。
「マリル! リアナ! ここは俺がなんとかするから逃げて!」
我ながら格好いいことを言っている。
だが同時に、昔見た映画のワンシーンが頭をよぎった。仲間を守るため、暴漢に立ち向かう主人公。あの姿には憧れたものだ。
……ただし、その主人公は直後にあっさりやられた。
(この台詞、死亡フラグじゃないか……?)
冷静になるほど、三人で戦ったほうがいい気がしてくる。
「え?」
マリルとリアナが顔を見合わせた。
次に来る言葉は予想できる。
――なに言ってるの!? そんなことできるわけないじゃない! これだ
しかし、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「そうね。光魔法のホーリーなら、なんとかなるかもしれない」
なるわけがない。
マリルが慌てて口を挟む。
「新人君、無茶だよ! 三人で戦おう!」
(その言葉を待ってた!)
心の中ではそう叫んだ。だが口から出たのは、映画の主人公と同じ台詞だった。
「いいんだ。俺なら大丈夫だから」
(終わった……)
俺は攻撃に備え、身体を固くする。
この世界に来てから、何度「死ぬかもしれない」を経験しただろう。
だが――いつまで経っても炎は飛んでこない。
それどころか、メラさんの炎が徐々に弱まっていった。
「え……?」
ついに炎が消え、メラさんは深くため息をついた。そして周囲を見回しながら言う。
「もうそろそろいいでしょ? おじいさま」
「うむ、そうじゃな……」
気まずそうな声とともに、木陰からおっさんが姿を現した。
枝や草が髭に絡まっている。どうやら隠れるのに失敗したらしい。
「おっさん!?」
「さっきぶりじゃな」
「これはどういうことだよ!?」
思わず声を荒げる。
するとメラさんが口を開いた。
「私が説明しよう」
その場の空気が少し引き締まる。
「お前ら三人には、これからチームとして合宿に参加してもらう」
「合宿!? いきなり!?」
「そうだ。魔法士認定試験まで時間がない。そこで、お前らに本当に受験資格があるのか試させてもらった」
「いやいや、急すぎません!? 学校はどうするんですか? そもそも合宿って何するんですか?」
「色々とうるさいやつだな。学校は問題ない。合宿は休みの日に行う」
メラさんは腕を組み、続ける。
「そして合宿では、お前らを試す刺客を用意しておく。学生ではない。本物の魔法士だ」
「えぇっ!?」
「本来、お前らを今回の試験に出すつもりはなかった。対抗戦を見て、無謀だと判断したからだ」
(ごもっともです。ぜひそうしてください)
だが、メラさんは不満そうにおっさんを見る。
「しかし、おじいさまがどうしてもと言うのでな」
(余計なことを……!)
リアナがようやく状況を理解したように呟く。
「じゃあ……私たちを試してたってことなんですね」
緊張の糸が切れたのか、その場にへたり込んだ。
「あの程度の魔法で逃げ出すようなら、試験に出す気はなかった」
おっさんがこちらを見る。
――お前は逃げようとしていたがな。
そんな視線だった。
「じゃあ、“機嫌が悪くて暴れてる”っていうのは?」
「機嫌が悪かったのは本当じゃ」
「おじいさまは黙ってて」
「うむ、すまん」
マリルが周囲を見回し、小さく呟く。
「……そういえば、草木が燃えてない」
確かに、あれだけ炎を放っていたのに、森は無傷だった。
「ここは昔、魔法士が訓練に使っていた場所だ。そんな場所を私が燃やすわけないだろう」
(いや、あんたならやりかねない)
もちろん口には出さない。
「でも、なんで俺たちがここに来るって分かったんですか?」
「それは、そのうち分かるじゃろ」
おっさんは意味深に笑った。
そしてメラさんが改めて俺たちを見る。
「お前ら三人は、対抗戦で最も課題が多かった」
嫌な予感しかしない。
「まずお前。圧倒的な魔力不足と、後先考えない短絡的思考」
「うっ……」
反論できない。
「マリルは精神的な弱さと状況判断能力の欠如。リアナは魔力にムラがありすぎる」
「はい……」
二人とも素直に落ち込んでいた。
「合宿の日程は後日伝える。それまでに、自分の課題を意識して鍛えておけ。以上だ」
そう言い残し、メラさんは森の奥へ消えていった。
しばらくして、リアナがマリルに頭を下げる。
「……ごめんなさい。あなたのこと何も知らないのに、酷いこと言った」
「ううん、私のほうこそ、ごめんね」
二人が仲直りした様子を見て、俺はほっと息をついた。
「よかった……」
すると、おっさんがニヤニヤしながらこちらを見る。
「お主はそろそろ帰るか?」
「うーん、そうだな――」
その時だった。
リアナとマリルが、少し恥ずかしそうにこちらへ歩み寄ってくる。
「あのね、ホーリー」
「どうした?」
「さっき、私たちを守ろうとしてくれた時……すごく格好よかった」
「なっ……」
「これからは同じチームなんだから、頑張ろうね」
「う、うん……」
恥ずかしくなって思わず目を逸らす。
だが分かっていた。
マリルも、きっと同じことを言おうとしている。
「うん、新人君、かっ――」
その瞬間、俺の身体は突然まばゆい光に包まれた。




