第十六話
『ラジタニア王国・都市セルリム』
学校を出たあと、俺とリアナは街の中央にある広場へ来ていた。
そこには、魔法を使った大道芸人たちが集まっている。
火を操り、空中に文字を描く者。
風をまとい、空を飛ぶ者。
見渡す限り、魔法で溢れていた。
まさに“魔法の国”という光景だ。
「ねぇねぇ! あれ見て、綺麗!」
リアナが興奮した様子で俺の肩を叩き、空を指差す。
その先では、魔法によって星のような輝きが夜空のように散りばめられていた。
「き、綺麗だね」
「うん……。これだけでも、今日ここに来てよかった」
「そうだね……本当によかった……」
(……いや、だめだろ)
「…………」
なんだこの空気。
映画のラストシーンか?
これじゃ本当にデートみたいじゃないか。
ふと志帆ちゃんの顔が浮かび、謎の罪悪感に襲われる。
……いや待て。
よく考えたら、俺と志帆ちゃんはまだそういう関係じゃない。
「あっちで何かやってる!」
リアナは完全に大道芸に夢中だった。
――マリル探しはどうなったんだ。
そう思いながら少し目を離す。
するとリアナは、椅子に座って鏡を持つ怪しげな男に話しかけていた。
「あなた、何をしてるの?」
男はニヤリと笑う。
そして鏡をリアナへ向けた。
「え……」
リアナの表情が変わる。
鏡を見たまま、泣きそうになっていた。
映っていたのは、リアナの母親らしき女性だった。
しかも、ただ映るだけではない。鏡の中で動いている。
「お母さん……」
「すごいな……これ、どういう魔法なんですか?」
男に尋ねる。
「はい。この鏡は、今もっとも心に思い浮かべている人物を映し出します。ぜひ、あなたもご覧ください」
「それじゃ……」
俺も鏡を覗き込む。
次の瞬間。
「なにっ!?」
映っていたのは――服を脱ぎ始めている志帆ちゃんだった。
運がいいのか悪いのか判断に困る。
「あ、えっと、これは……」
「……誰?」
リアナの目が笑っていない。
「いや、その……友達だよ!」
慌てて鏡から離れる。
「ふーん……」
軽蔑するような目だった。
「なんで服脱いでるのよ。変態」
「いや、それは俺のせいじゃ――」
あたふたしている俺を見て、男がクスクスと笑う。
「この鏡は、“現在の姿”を映すんです。きっとお風呂に入るところだったのでしょう」
「現在の姿……?」
その瞬間、ひとつの考えが頭をよぎった。
「すみません、もう一度見せてください!」
「変態、最低」
即座にリアナが引く。
「違う! そうじゃない!」
俺がもう一度見たい理由は、断じて志帆ちゃんの入浴シーンの続きを見るためではない。
「この鏡が“今の姿”を映すなら……俺がマリルを思い浮かべれば、居場所がわかるかもしれないだろ?」
「あ……」
リアナがようやく理解したように声を漏らす。
「なるほど……」
「これで探せるかもしれない」
リアナは渋々ながらも納得してくれた。
男に頼み、再び鏡を向けてもらう。
すると――
「いた!」
鏡の中に、マリルの姿が映し出された。
川辺に座り込み、ぼんやりと川を見つめている。
その背中は、どこか寂しげだった。
「ここ……どこだ?」
「川辺みたいね」
川辺。
その言葉を聞いた瞬間、俺は気づく。
「あっ……ここ、多分わかる」
「知ってるの?」
「うん。俺が最初にメラさんと会った場所かもしれない」
「教官と? なんで?」
「説明すると長い。それより、どうやって行けばいい?」
男は鏡を使い、そこまでの道順を教えてくれた。
街外れではあるが、そこまで遠くはない。
「これで行けるわね」
「ありがとうございます。絶対また来ます!」
それは本心だった。
道中、リアナから、
「また鏡見に行く約束するなんて、よほどあの魔法気に入ったのね」
と嫌味を言われながら、俺たちは川辺へ向かった。
そして――
「マリル!」
声をかける。
マリルは驚いたように振り返った。
そのあとリアナを見て、さらに目を丸くする。
「新人君!? えっ、リアナちゃん!? どうしてここに?」
「私はホーリーの付き添い。だから理由は本人に聞いて」
「ホーリー?」
マリルが首を傾げる。
「新人君の名前。知らなかった?」
「し、知らなかったです……」
なぜかリアナが少し得意げだった。
妙な空気を感じ、俺は慌てて割って入る。
「そ、そんなことより! マリル、大丈夫なのか?」
「うん……大丈夫だけど。どうして?」
まだ少し動揺しているように見えた。
「対戦のあと、落ち込んでるように見えたからさ。つい気になって……」
「……ありがとう。やっぱり新人君は優しいね」
最初に会った時と同じ笑顔。
それを見て、少し安心する。
「でも、まさか新人君とリアナちゃんが来てくれるなんて思わなかった。私……魔法士向いてないのかも。強い二人が羨ましいな……」
「羨ましい? じゃあ、落ち込んでたのって負けたから?」
リアナが真っ直ぐ聞く。
「お、おい……」
マリルがうつむく。
「そういうわけじゃ……ないよ」
「じゃあ何? 故郷から逃げてきたから?」
「え……?」
空気が変わった。
「リアナ、それは言いすぎだろ……」
「ホーリーは黙ってて」
「う、うん……」
マリルの目つきが変わる。
リアナを睨んでいた。
初めて見る顔だった。
「逃げてないよ……」
「そう? 私、あなたの戦い見てたけど、自分から降伏してたわよね?」
リアナは淡々と続ける。
「それって戦いから逃げたってことでしょ? 故郷でもそうしてきたんじゃないの?」
止めなきゃ。
そう思って口を開こうとした瞬間――
マリルが立ち上がった。
「何がわかるの……?」
「え?」
「あなたに、私の気持ちの何がわかるの……?」
マリルは両手をリアナへ向ける。
「お、おい、やめろって!」




