第十五話
「え?……」
彼女はきょとんとした顔を浮かべる。
まずい。普通にまずい。
慌てて視線を空へ逃がす。
「あ、いや、その……素晴らしい天気、だなって……」
ベタすぎる。実に苦しい言い訳だ。
「天気?」
リアナもつられて空を見上げる。
ちょうどその瞬間、空気を読まない雲が太陽を隠した。
完璧なタイミングである。いや、最悪のタイミングだ。
(なんで今なんだよ……!)
「そ、そうね……いい天気ね」
彼女の微妙な笑顔が刺さる。
この空気、どこかで味わったことがある。
そう、隣の席の女子にノートを豪快に破って「俺の使えよ」と差し出したときの、あの地獄の間だ。
「それより、あんた名前なんていうの?
私はリアナ」
助かった。話題が強制転換された。
「あ、えっと……桐島鳳理」
「ホーリー?」
「それでいい。友達もそう呼ぶし」
と言っても、その“友達”は竹口くらいしかいないのだが。
「ふーん、友達……か。じゃあ私もそう呼ぶ。よろしくね、ホーリー」
リアナはなぜか嬉しそうだった。
(なんでそんな嬉しそうなんだ……可愛いじゃないか!)
俺の頭の中は「なぜ水着なのか」という謎で埋まっていた。
だが初対面でそれを聞く勇気はない。まだ死にたくない。
「リアナさんは、どうしてここに?」
とりあえず無難な質問を投げる。
「ホーリーに話しかけようと思って残ったの」
「俺に?なんで?」
思わず食いつくと、リアナはじっと顔を覗き込んできた。
「えっ……近い近い!」
(いや距離!!現実世界でもこうであれ……!)
「ほとんど魔力を感じない君が、あのゼファルドを倒しちゃうなんて、びっくりしちゃった」
「あれは……マジで偶然だって。やけくそだったし」
「あはは、偶然で倒せる相手じゃないよ」
「リアナはゼファルドのこと知ってるの?」
「う、うん……ちょっとね」
その一瞬、彼女の声が曇った。
踏み込むな、という空気。
俺は素直に話題を変えることにした。
「変なこと聞いてごめん。ここ、話しかけてくる人いないからさ」
「ううん、いいの」
リアナは首を振る。
「理由かぁ……好奇心、かな?ダメ?」
そう言って、わざとらしく上目遣い。さらに胸元を強調する角度。
(……魔法か?これ魔法か?)
男の本能に直撃するやつだ。危険物指定してほしい。
「好奇心か……俺なんてただの凡人だよ。むしろF素材だし」
「F!?嘘でしょ!?」
リアナが素で驚く。
「光魔法使えるのに?」
「うん……メラさんがそう言ってた」
「たしかに魔力はほとんど感じないけど……ホーリー、変だね」
(褒めてるのかディスってるのかどっちだ)
「リアナはマリルって子、知ってる?」
話を戻す。
「マリル?」
首をかしげるリアナ。
「ああ、さっき浮遊系の魔法使ってた子」
「あー……見たことはあるけど、話したことはないかな」
興味ゼロ、という反応だった。
やっぱりこの学校、ドライすぎる。
「ここの学校って、みんなギスギスしてるよな」
「そう?魔法士の学校なら普通じゃない?」
普通ってなんだよ。と心の中で突っ込む。
「俺の想像だと、学校ってもっとこう……友達作ってワイワイしてる感じなんだけど」
「変なの」
即答だった。
(まあそうなるよな)
「今の忘れて」
「じゃあさ」
リアナがにやっと笑う。
「ホーリー、友達ほしいんだ?」
「いや別にそういうわけじゃ……」
「じゃあ私が友達になってあげる」
「え?」
「嬉しいでしょ?」
「う……うん、ありがとう」
なんだこの流れ。
気づいたら友達ができていた。
「友達の証として、いいもの見せてあげる!」
リアナが手を上げると、水が噴き上がる。
小さな虹まで作っている。
「すごいな、水魔法か」
「そう。水の家系なの」
(だから水着なのか……いや、納得してどうする)
「私の魔法なんてまだまだ…… ホーリーの方がすごいと思うよ。光魔法なんて初めて見たし」
「才能ないけどな。マリルの居場所もわからないし。おっさんもすぐ帰るし」
「おっさん……? そういえば、ホーリーの近くにいた人……どこかで見た事ある気がするんだけど……」
「え? あ、ごめん。わからないよね。不審者兼保護者みたいな立ち位置だよ。名前はたしか……シルバ?っていったかな?」
「え、それシルバ様のこと?」
リアナの目が少し変わる。
「この国でも五本の指に入る魔導師だよ?」
「え、マジで?」
(やっぱりすごいんだな、あのおっさん……)
「すごすぎ!どおりで……
普通は話すことすらできないよ? 光魔法だし、ホーリーも只者じゃないよね」
リアナは笑う。
「ホーリーって、本当に変わってるね」
「そうか?」
「うん。でもいいと思う」
そして――
「じゃ、マリル探し、一緒に行こうよ」
「え、いいのか?」
「私も暇だし、帰ったら訓練しろって親がうるさいから」
(これ……)
隣で歩く女の子。
街へ二人で。
しかも友達になったばかり。
(これって……)
「どうしたの?顔赤いけど」
「いや、大丈夫」
「水かけようか?」
「それはやめて」
冷静に考える。
(これ、デートってやつじゃないか?)
心臓が少しだけ速くなった。




