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第十三話

再び異世界に戻ってきた俺は、思わず目を疑った。


フードを被った男が、パチンと指を鳴らす。

その瞬間――闘志をむき出しにしていた対戦相手の様子が一変した。


怯え、震え、頭を抱えてうずくまる。

さっきまで戦士のように勇敢だった男が、見る影もない。


「あの少年の戦いを、よく見ておくんじゃ」


隣のおっさんが低く言う。

その意図は分からなかったが、言われるまでもなく目が離せなかった。


「……怯え方が普通じゃない。何が起きてるんだ?

 あいつ、魔法を使ったのか?」


「うむ。あれは闇魔法――“黄泉よみ”。古い魔法じゃ」


「闇魔法!? 光魔法と同じ自由魔法って、メラさんが言ってたやつか」


「そうじゃ。あの少年は、相手の五感――視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。

 そのすべてを奪ったのじゃ」


「なっ……!? そんなこと……」


言葉を失う。


「光魔法は与える力。安心、希望、勇気――人に恵みをもたらす。

 じゃが闇魔法はその逆。すべてを奪う。

 今あの男は……完全な闇の中におるじゃろうな」


想像しただけで、背筋が凍った。


フードの男が、つまらなそうに口を開く。


「なんでそんなに弱いの?

 魔法士を目指してるんじゃないの?」


一瞬間を置いて、肩をすくめる。


「……ああ、聞こえないか。もういいや」


ぼそぼそと何かを唱える。


その直後、対戦相手の足元の影が浮かび上がり――

首を締め上げ、そのまま宙へと吊り上げた。


「ぐっ……あ……た、すけ……」


男の体が空中で痙攣する。

顔は青ざめ、涙がこぼれていた。


「おい! 止めなくていいのかよ!?

 あのままだと死ぬぞ!」


「うむ……そうじゃな……」


だが、おっさんも職員も動かない。

いや――動けないのか。


恐怖に顔を歪めている者すらいる。


「くそっ……なんで誰も助けねぇんだよ……!」


気づけば、俺は叫んでいた。


「おい!! やめろ!!」


フードの男がゆっくりとこちらを向く。


――光のない、青く冷たい目。


ゼファルドの時とは違う。

本能が告げる、底知れない恐怖。


「やめる? なんで?」


「なんでって……そいつ、殺す気か!?

 これはただの対抗戦だろ!」


「関係ないよ。弱い奴は、どうせ死ぬ。

 それが“今”だっただけ」


宙に浮いた男が、泡を吹き始める。


「くそっ……!」


俺は目を閉じ、拳に光を纏わせた。


それを見て、フードの男の目がわずかに開く。


「へぇ……それが光魔法か。さっきも見たけど――

 君、僕と同じで、まだまだ強くなるね」


「そんなことどうでもいい!

 いいからやめろって言ってんだよ!!」


踏み出そうとした、その瞬間――


炎が降り注いだ。


影が弾けるように消え、男は地面に崩れ落ちる。


(……メラさん!)


胸を撫で下ろす。


フードの男が、ゆっくりとメラさんを睨みつけた。


「もう勝負はついている。殺すことは許さん」


「へぇ……じゃあさ」


口元が歪む。


「教官、僕と戦ってよ。

 勝ったら、言うこと聞いてあげる」


「貴様……!」


メラさんの体が炎に包まれる。

本気で怒っているのが分かる。


同時に、フードの男の足元も黒く染まっていく。


――ぶつかる。


そう思った瞬間。


「そこまでじゃ」


強い光が場を貫き、炎も闇も一瞬で消し飛ばした。


「おじいさま……」


「メラ。お主は教官じゃろう。生徒相手に熱くなってどうする」


「……申し訳ありません」


メラさんが視線を逸らす。


老人はフードの男へと目を向けた。


「お主もじゃ。じゃが……なかなかの素材じゃな。

 この先、さらに強くなるじゃろう。

 じゃが――そのままでは、いずれ限界がくる」


「限界?」


「魔法は本来、弱き者を救うためのもの。

 今のような使い方をしておれば、いずれ魔法に呑まれる」


フードの男は、静かに笑う。


「僕は救ってるんだよ。

 弱いまま生きる方が、よっぽど悲惨だからね」


「……闇魔法。

 お主は、あの男にそっくりじゃな」


(あの男……?)


その言葉に、フードの男の表情が変わる。


「……それ以上しゃべるな」


足元の闇が再び蠢く。


「やはり知っておるか。

 あやつは未熟ではあったが……芯は強かった。

 少なくとも、今のお主ほど弱くはなかったぞ」


「……僕が、弱い?」


「そうじゃ。

 あやつどころか――ワシの隣のこやつにも及ばん」


「……は?」


嫌な予感がした。


「ん? 隣って……俺しかいないんだけど?」


「お主以外に誰がおる」


「…………」


視線が突き刺さる。


体が、動かない。


「へぇ……そうなんだ」


フードの男の足元で、黒い影が渦を巻く。


「ちょ、ちょっと待ってください!!」


攻撃を覚悟した――が。


闇は、すっと消えた。


「……まあいいや。

 君のこと、気に入ったし」


口元に笑みを浮かべる。


「対戦は楽しみに取っておくよ」


そう言って、元の位置へと戻っていった。


「……た、助かった……」


隣では、おっさんがとぼけたように口笛を吹いている。


俺は「あとで話がある」とだけ告げた。


「次は誰だ! 前に出ろ!」


メラさんの怒声が響く。


空気はまだ張り詰めたままだ。


「……わ、わたし、いきます!」


声のした方を見る。


恐竜のぬいぐるみが、ふわふわと少女の背後に浮かび――

彼女を見守っていた。

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