8話 招かざる客
カフェの前の通りには、桜並木が淡いピンク色の花を咲かせている。
窓を開けると、時折、風に乗って花びらが舞い込む。
季節は春になっていた。
平日のランチタイムが終わり、ソラはカウンターでまかないのランチを食べている。
会計をする若い女性客から「ソラくん、かわいい」なんて、黄色い声を浴びていた。
ソラの中性的な魅力は男女問わず効果抜群で、客足は確実に延びていた。
たとえば、ソラがテラス席でコーヒー片手にのんびりする。それだけで通行人が吸い寄せられるように店に入ってくることもあった。
まるで看板猫、そんな感じだ。
「ねぇ、ケイ。追加でパスタも食べたい」
本当に食欲旺盛だな。あの細い身体のどこに入るのか。
「野良猫だって、もう少し遠慮するよ」
俺が苦笑しながら答えた、そのときだった。
カフェのドアがカラン、と軽やかな音を立てて開いた。
「いらっしゃいませ!」
俺が声を上げると、そこに立っていたのは意外な人物だった。
隣でパスタを啜っていたソラの動きが、ピタリと止まる。
「兄さん……」
品の良いスーツに身を包んだ、俺の兄の隼人だ。そして、その後ろにそっと控えていた女性がひとり。
「こんにちは」
梨夏は顔を上げると静かに言った。
身体のラインに沿った細身のスーツ、タイトにまとめられた黒髪。
先日、ここで酒を飲みながら笑っていたときとは、まるで別人のようだ。
只ならぬ殺伐とした雰囲気に、ソラがフォークを置き、じっとこちらを窺っている。
「なにか、急用でも?」
俺は驚きを隠せずに尋ねた。
隼人と梨夏が一緒に店に来るなんて、初めてのことだ。
それに、兄を含め実家とは何年も連絡を絶っていたから。
隼人はガラガラの店内を値踏みするように一瞥すると、冷たい笑みを浮かべた。
高そうなな革靴の音が、静かな店内に不愉快に響く。
「仕事中に悪いな。用件を伝えたらすぐに失礼する」
有無を言わせぬ声が店内に響く。
隼人が梨夏に軽く視線を投げると、彼女は無言でバッグから封筒を取り出し、カウンター席にそっと置いた。
「これは――」




