最終話 猫の幸せ
そして1年後――。
俺のカフェ『POCHITTO』は、そこそこ繁盛していた。
さらに、カフェの2階からは、猫の鳴き声と、人々の笑い声が聞こえてくる。
猫カフェ『MIKKETA』だ。
夜の世界から卒業したソラは、保護猫の居場所として猫カフェを作った。
空き部屋だった2階と行き来できるよう、内階段を作った。かなり大がかりなリフォームになったが、オーナーである梨夏も応援してくれた。
カフェで買ったドリンクを手に、2階へ上がっていくお客さん。
可愛い猫たちと幸せのひとときを過ごす。
保護猫ばかりなので、希望すれば里親になることもできる。
「みんなのお家が見つかりますように」
ソラは、かつて自分自身が求めていた居場所を、今度は自分の手で作り出しているのだと実感する。
その姿を見るたび、俺の胸は静かに満たされていった。
「ありがとうございました」
ランチタイムが終わり、客足が途絶えるつかの間の休息時間。
賄いのパスタを作っていると、匂いを嗅ぎつけたのか、ソラが2階から降りてくる。
「やったぁ! ナポリタンだ!」
日差しが柔らかく差し込む中、二人で遅いランチを食べていると、俺のスマホがメッセージを告げた。
「梨夏からメールだ」
「あ、久しぶりだね」
ソラが嬉しそうに言う。
梨夏は自由気ままに世界を旅して、全然帰ってこない。
「わぁ、イケメンだ」
スマホの画面には、南国の海を背景に、楽しそうな梨夏が写っていた。
その隣には、少し日焼けした優しい笑顔の男性が立っている。
『新しいお家を見つけました』
短いメールだったが、その言葉に梨夏らしい強さと優しさが滲んでいた。
「笑ってるな、梨夏」
「妬ける?」
少し拗ねたような声。
ソラが俺の肩に頭を預け、上目遣いで覗き込む。
「まさか」
「浮気なんてしたら――、上の猫たちと全員で噛みつくからね」
「よく言うよ。昨日だって散々噛みついてきたじゃないか」
「ベッドの中は別です」
何度も噛みつくようなキスの嵐。
俺の身体中には、ソラの愛の痕が残っている。
「俺にはソラ1匹いれば満足だよ」
「にゃーん」
ソラはそう言って、俺の腕に頬をすり寄せた。
指先が少し触れただけで、胸の奥が温かくなる。
「幸せそうだね、梨夏さん」
「そうだな。でも――、幸せなら俺も負けてない」
ソラの頬を指先で軽く小突く。
「ケイ、キスしてよ」
ピンク色の唇を尖らせ、ソラが可愛く囁く。
「だめ」
「なんでだよ」
「営業中だから」
ソラのおでこをツンと指で押した。
すると、ますます頬を膨らませる。
「甘えるのは、夜だけにしてくれ」
「今夜も、してくれるの?」
「ダメって言って、ソラが言うこと聞いた試しがあるか?」
ソラは毎晩、ベッドに潜り込んでくる。
もはや、クッションの壁なんて作らないけれど。
「猫は我慢ができないからね。夜も、昼も、いつだって、したいときにするんだよ」
言うが早いか、ソラはかすめるように俺の唇を奪った。
「あ、コラ!」
「にゃーーん」
穏やかな午後の光。
俺たちの新しい日常は、優しいコーヒーの香りと、猫たちの鳴き声、そしてささやかな愛の言葉に包まれていた。
本編はこちらで完結です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
後日、ソラの視点で描いた番外編を2話投稿する予定です。
そちらもぜひお楽しみに。




