〈番外編〉猫の気持ちをわかって ※ソラside
〈ソラside〉
昼の出来事が、頭から離れない。
シャワーを浴びたケイは、ソファでアイスを食べていた。僕は腕を組んだまま黙ってその姿を見ている。
この視線にケイは気づいているのかいないのか、のんきに鼻歌なんて歌っている。
……もう、全然わかってない。
今日来たあのお客さん。絶対にケイを狙っている。
長い髪にスラっとした脚の綺麗な女の人。ちょっと、梨夏さんに似てたな。
楽しそうに話しているのが、2階から丸見えだったんだ。あんな顔、僕にだって滅多に見せないくせに。
アイスを食べ終え、ケイがようやく僕を見た。
「どうした?」
「別に」
「怒ってる?」
「全然」
僕はソファの背もたれに手をついたまま、ケイをじっと見下ろす。ケイは少しだけ眉を寄せた。
「あ……。もしかして、昼の客のことか?」
図星を突かれて、僕は小さく笑った。なんだ、自覚はあるのか。だとしたら、それも面白くない。
「ねぇ、ケイ。知ってた?僕だって男だよ」
「ソラのタイプだった?」
「違う」
僕の恋人はなんて鈍感なんだ。
ゆっくり身体を近づけると、ケイが少しだけ身を引いた。
「俺はソラを女扱いしたつもりはない。女の代わりだなんて思ってない」
「本当に?」
「ああ」
「じゃあ、たまにはいいよね」
「なにが――?」
言葉の途中で、ケイの身体がソファに沈んだ。僕がその胸を力任せに押し倒したからだ。
「……ソラ?」
少し驚いた顔。僕はケイの上に膝をつき、至近距離で顔を覗き込んだ。
「僕だって、好きな相手を抱きたい、そう思う夜があるんだ」
ケイの喉仏が、小さく上下に動いた。
「え、どういう……っ」
僕はくすっと笑って、耳元に顔を近づけた。熱い吐息を吹きかけながら、一番効果的な言葉を囁く。
「めちゃくちゃにしてあげるよ、ご主人様」
ケイの耳が、目に見えて真っ赤になった。
あ、かわいい。
こんなに動揺するなんて。僕はそのまま額をくっつけて、勝ち誇った気分で微笑んだ。
「安心して。はじめてでも痛くないように、ちゃんと優しくしてあげるから」
「ま、待て、ソラ!」
ケイが身体をよじる。でも、離してなんてあげないよ。そのときだ――。
「にゃーーん」
ソファの背もたれから、茶トラの猫が僕らの間に飛び込んできた。
「ちょ、コラ!邪魔するな!」
僕の意識が茶トラに逸れた隙に――。
「え?あ、っ……!」
僕の身体がフワリと浮いた。
「誰が、誰を抱きたいって?」
ケイの低い声が、鼓膜を震わせる。
「ケイ!」
気づけば、僕がソファに押しつけられ、ケイに覆いかぶされていた。
「ちょ、待って!僕が攻める番じゃ……っ」
「残念だったな」
ケイの指先が僕のシャツの中に忍び込み、熱い唇が首筋を塞ぐ。
「ずるいっ!ケイのばか……、あ……っ!」
あっという間に形勢逆転。
主導権を握り直された僕は、熱いキスの嵐に溺れるしかなかった。
悔しいけれど、ケイの腕の中は抗えないほど気持ちいい。僕の一番欲しいところを可愛がってくれるから。
僕が満足するまで、たっぷりの愛をくれる。
僕らの夜は、ココアよりもずっと甘い熱に溶けてていく――。




