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迷い猫系年下男の甘い誘惑がとまらない!「お礼は身体で返すよ」甘い牙を隠した美青年に執着されるカフェ店長の話  作者: はなたろう


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20/21

20話 深夜の電話

その夜、夕飯の時間帯になっても、予想通りソラは帰って来なかった。


眠れないまま、時計の針が動く音だけが、耳障りだった。



深夜0時を過ぎた頃、スマホに知らない番号から着信があった。



「はい、もしもし」



不審に思いながらも電話に出ると、聞き慣れない男の声が聞こえた。



「夜分に失礼します。LUNATIQUEルナティークの鈴木と申します。圭人さんでしょうか」



記憶にある店の名前にドキッとした。前にソラを追って見つけた『恋人代行クラブ』の店名だ。



「ソラが、あなたに連絡しろと聞かなくて」


「まさか事故にでも?」


「いえいえ。飲み過ぎて泥酔状態です」



電話の相手は淡々としている。


ソラは酒は強いはず。ワインを1本空けるくらいでは顔には出ない。そのソラが酔いつぶれたって?



「わかりました。すぐに迎えに行きます」



考えても仕方がない。

言い終わるより早く、上着をつかむと玄関を飛び出した。




◆◆◆




タクシーはネオンが眩しい歓楽街へ着いた。


雑居ビルの2階でインターフォンを押すと、スキンヘッドの男が出迎えてくれた。



「圭人さんですね。わざわざすみません。どうぞ、お入りください」



電話をくれた鈴木という男だろう。



店内は一見、落ち着いたバーのようだ。


ただ、薄暗い空間の奥からは、粘りつくような甘い笑い声が聞こえてくる。理性を溶かすような、独特の居心地の悪さがそこにはあった。



「あちらです」



男が指差した。


ボックスシートのソファー席。ソラはぐったりと横たわっていた。その顔は青白い。



「ソラ」



俺は駆け寄り、彼の肩にそっと触れた。



「ん……、ケイ……?」



焦点の定まらない瞳が、ゆっくりと俺を捉える。俺は背後の黒服に視線を投げた。



「夕方、街でソラを見かけました」


「そうでしたか」


「上品なスーツの男性と一緒にいた。あれが、ソラの客ですか?」


「羽振りは良いのですが、少々クセの強い方でしてね。ソラも今夜は骨が折れたようです」



黒服は意味ありげに口角を上げた。胸の奥に、チリリとした痛みが走る。



「代行恋人――でしたね」


「当店になにか?」


「ソラは男ですよ」


「ええ、ソラは男性のお客様にも大変人気ですよ。相手が求める『理想の恋人』を完璧に演じきる、当店のナンバー1ですから」



黒服はにこやかに答えたが、すぐに薄い唇を引き結んだ。



「――ですが、今夜で最後だと言うんです」


「最後?」


「その理由は、たった今わかりましたがね」



男は俺を品定めするようにじっと見つめ、フッと微笑んだ。



「あなたもキレイなお顔立ちだ。ソラとはまた違った色気がある。どうです?うちで働きませんか。優遇しますよ」


「冗談だろう」


「ええ、冗談です」



人をイラッとさせるのが趣味らしい。



「あなたはあまりに真っ直ぐすぎる。恋人を『演じる』には、その瞳では難しそうだ」



出会って数分、本質まで見透かされたようで、苛立ちを覚えたが、今はそれどころではない。



「ソラを連れて帰ります」


「ええ、どうぞ」



男は微かに微笑む。



「お預かりしていたソラの心も、一緒にお持ち帰りください」



長くソラを見続けてきた男にとっても、ソラの「最後」は、単なるビジネスの損失以上の意味があるのかもしれない。ソラの孤独の少しが、この男により少しは和らいでいたのだろうか。



俺はソラの膝裏に腕を通し、その細い身体をそっと抱き上げた。



「ソラ、帰るぞ」


「う……ん」



ソラは吐息を漏らし、吸い寄せられるように俺の首に腕を回してきた。


熱を帯びた身体の重み。柔らかい髪が俺の首筋をくすぐり、甘いアルコールの匂いが鼻を掠めた。



「お気をつけて」



黒服に見送られ店を出る。


雑居ビルから一歩外へ出ると、夜の蝶たちが艶やかな視線を投げかけてくる。



「あら、素敵なお姫様抱っこ。今夜の王子様は彼なのね」


「人気者ねぇ、ソラちゃん」



煽るような嬌声を背に、俺は足早に通りを抜けた。


腕の中のソラは、安心したように俺の胸に顔を埋めている。その無防備な重みが、堪らなく愛おしく、同時に胸を締め付けた。



タクシーに乗り込み、自宅の住所を告げる。



「お兄さんたち、随分と仲が良いんだね。今の時代、それもアリだよ」



バックミラー越しにニヤリと笑う運転手。



俺は窓の外を流れるネオンを見つめていた。腕の中で眠るソラの指先が、俺のシャツをぎゅっと掴んでいる。


その確かな体温だけが、この狂おしい夜の唯一の真実だった。


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