10話 似てない兄弟
突然の介入者に、隼人は少し戸惑った様子だ。
「――えっと、君は?」
「ケイに拾われて、一緒に暮らしてます」
「ひ、拾った……」
隼人の眉間に、これまでにない深い皺が刻まれた。
「おい、ソラ。ややこしくなるから、今はちょっと……」
俺が慌てて訂正しようとしたが、ソラは俺の言葉を遮るように、隼人に向かって愛想良く笑った。
とびきり可愛い、媚びるような笑顔。
「よろしくね、お兄さん」
「圭人が彼女と同棲中だったとは、知らなかったな」
「え?」
隼人はソラを女性だと誤認したようだ。
確かに、俺のダボついたパーカーを着ているソラは、はたから見れば『彼氏の服を借りている彼女』的な、可愛さがある。
「兄さん、そうじゃなくて……」
視界の隅で梨夏がうつむいた。
微かに肩が震えている。……なるほど、笑いを堪えているらしい。
「わぁ、やっぱりご兄弟ですね」
ソラは楽しそうに彼女役を演じ始めた。
「は?」
「お兄さんとケイ、目元のホクロの位置まで同じだ。顔も似てるもん」
「そうだろうか?昔から似てない兄弟だと言われたが……」
不本意だと言いたげな隼人。それはこっちのセリフだ。
「あ~そうかも。性格はずいぶん違うみたいだし」
「なに?」
「ケイは、人を傷つけるようなことを言わないよ。絶対にね」
その言葉には一切の悪意がなかった。
「ケイは優しい人だから」
あまりにストレートな物言いに、隼人は一瞬、毒気を抜かれたような表情を浮かべた。
「それに――、夜はもっと優しい」
「ソラ、もう黙ってろ!」
俺が叫ぶと、隼人は大きく息を吐いた。
「てっきり梨夏とお前が、関係を持っているのかと思ったよ」
「笑えない冗談だ」
隼人はチラリと梨夏を見たが、冷たい目で射抜かれ、肩をすくめた。
「……まあ、いいか」
そしてネクタイを少し緩めると、俺に一言だけ告げた。
「とにかく、結婚式には必ず参列するように」
それだけ言い残し、隼人は踵を返して足早にドアへと向かった。
「今度はランチを食べに来てね、お兄さん」
ソラは隼人の背中にヒラヒラと手を振る。
隼人は振り返ることなく、通りに停まった黒い車に乗り込んでいった。
「うちの上司、わからず屋で困るわ」
梨夏はようやく感情の戻った顔で、俺とソラを交互に見た。
「うちのアニキ、わからず屋で悪いな」
俺の言葉に、小さく笑う。
「待たせると機嫌を損ねるから、もう行くわ。ソラくん、ありがとう。あなたに助けられちゃったわね」
梨夏はヒールの音を鳴らしながら、隼人の後を追いかけた。
嵐が去り、店のドアが静かに閉まった。
店内に再び訪れた沈黙の中、俺はソラを睨みつけた。
「お前は、余計なことを……」
俺の言葉に、ソラはきょとんとした顔で首を傾げた。
「えー? 僕、何か変なこと言った?空気が悪かったから、和ませてあげたのに」
ソラは食べかけのパスタをつっつきながら、「ちょっと冷めちゃったなー」とぼやいた。
無邪気な横顔に、俺は思わず肩をすくめた。
梨夏の言う通り、ソラの介入がなければ、あの場はもっと、救いのない結末になっていたかもしれない。




