第六章 ③是の脚本家・輝章
輝章は飛躍していた。
ネットニュースに見出しが躍る。
【天才脚本家・彗星の如く出現す!】
シナリオコンクール『城戸賞」に入選した。
作品は映画化され、各方面から高評価を得た。
これを契機に。
演出家・劇作家としても活躍の場を広げていく。
学生時代に書き溜めていたシナリオまでもが日の目をみる。
幾つもの鮮烈作品を世に送り出す。
脚本家・輝章。
彼には言わずと知れた定石がある。
それは以下の通り。
◆無名俳優、新人俳優を積極的に起用する。
◆経験の浅い若手スタッフにチャンスを与える。
関係者は噂する。
……輝章の作品は縁起が良い。
取り立てられた俳優は目覚ましい躍進を遂げる。
スタッフは作品を起点として立身出世する。
必ず大成する……。
幸運にあやかりたい!
オーディションには応募が殺到する。
大物俳優までもが出演を熱望する。
プロアマ問わず。
大志を抱く者たちがこぞって押し寄せてくる。
輝章は『一流脚本家』として。
不動の地位を築き上げていた。
イタリア南西部・ソレント。
国際映画祭・受賞式。
ノミネートされたのは。
フランスのプロデューサーと合作した作品だ。
上映後。
スタンディングオベーション。
大喝采を浴びた。
記者会見を終えた。
ついに世界的評価を得た。
息つく暇もなかったが、ようやく一段落した。
滞在するホテルのガーデンエリアを散策する。
輝章は空を見上げる。
爽やかな青い空。
煌めく青のナポリ湾。
風にそよめく檸檬の木。
若いレモンがたわわに実っている。
……ああ、美しい。
この景色を見せてあげたい。
僕の活躍、喜んでくれているだろうか……。
ふと、視線の端に人影を捉えた。
それはアジア系の長身美青年だった。
「ゔぅっ?
ゔげえぇっっ」
快活そうな青年は顔をしかめて奇声を発した。
かぶりついた固いレモンが苦かったらしい。
視線がぶつかる。
ニヤリ、
青年は意味深な笑みを浮かべた。
そうして気さくに話しかけてきた。
「やあやあ、輝章くん!
偶然だねえ?」
「えっ? えっと……?」
「あっ、間違えた。
イヒヒッ、初めまして!
おいらは呂色九頭龍神在狼!
良かったら『コン太』って呼んでねえ?」
くるり、
青年は龍神の姿に変化した。
漆黒色の龍体。九つの龍頭。
金色に縁取られた龍眼。
鋭くとがる銀爪を妖しく光らせた。
輝章は呼吸を忘れて固まった。
呂色九頭龍神って……?
まさかっ?
どうやら僕は。
契約を違えてしまったらしい……。
輝章は腰を折り曲げる。
真摯に詫びる。
「日々、細心の注意を払っていたつもりでした。
しかしそれは『過信』だったようです。
至らず、申し訳ありませんでした!」
……凛花さんに喜んでもらいたい!
その一心で脚本を書いていた。
鬼ヶ城での『龍使いの言葉』を指針にして行動してきた。
それなのに!
気づかぬうちに緩みが生じていたらしい……。
嗚呼、情けない。
身に余る賛美の日々。
そのすべては実力ではなかった。
龍神界の力によって。
実力以上の評価と凄まじい名声が与えられていたのだ……。
くるり、
コン太は再び人間の姿に戻った。
「イヒヒッ!
潔くってイイ感じだねえ?
だけど安心して?
輝章くんは今でも『是』だよ。
ノー・プロブレム!」
輝章は安堵する。
スルリ、
コン太が耳元に囁きかける。
「ねえねえ輝章くん。
実はおいらに協力してほしいことがあるんだよ。
あのねえ、それはねえ…………」
「…………!」
安堵の人心地は消え去った。
瞬時に。
緊張へと置き換わってしまった。
コン太はニヒルな笑みを浮かべた。
輝章は『極秘依頼』を受諾する。
呂色九頭龍神と『密約』を交わした。
赤煉瓦ベル。
夜になりグリーンのカーテンが閉められた。
凛花はソファーに腰掛ける。
気づけば姿勢は前のめり。
今期最高視聴率の連続ドラマに釘付けだ。
凛花は涙があふれて止まらない。
……輝章さんが世界的評価を得ている。
グラビリズムとモアレリズム。
ふたつのリズムが最大値となった才能が見事に開花した。
そしてこのドラマ主題歌。
モアレリズムの契約者・ツボミさんだ。
透き通る歌声にドラマの感動は増幅する。
龍使い冥利に尽きる感激は何物にも代えがたい。
部屋から拍手と喝采を送る。
「輝章さん、ツボミさん!
すてき……」
キラキラキラ……、
瑞光オーラとフィールリズム。
凛花は光に包まれる。
日々の清福に感謝する。
親友のノアとコン太がいる。
宇和島と龍神界。
無二なる家族がふたつもある。
「ああ、幸せ!
こんなに幸せでいいのかなあ?」
遥か天空の彼方。
天上界のその上の遥か高き星。
貴き御方が人間界を見澄ましていた。
珠玉の心を有する『龍使い』を見つめていた。
その慈眼は真っ直ぐに凛花に向けられていた。
凛花の運命が動き出す。
極上の未來へといざなう『カミハカリの演算』が始まっていた。




