第六章 ②龍神カップルの馴れ初めって?
所沢市緑町。
赤煉瓦ベル。
凛花とノア。
それからコン太。
いつもの三人が食卓を囲んでいる。
いつものように和気藹々。
夕食を終えた。
ふと凛花が問いかける。
「あのね……?
ネット配信のドラマを見ていたんだけどね?
恋って、どんな感情なの?
全然わからなくて……」
コン太が返す。
「ああ!
輝章くん脚本の純愛ドラマかい?」
「うん……」
「ときめきが止まらないっ!
大評判らしいねえ?」
「そうみたい。
だけど恋愛したことがないからかな?
ストーリーに共感できなくて……」
「ふむふむ。
なるほどなるほど」
「だからね。
ふたりの馴れ初め、聞かせてくれる?」
おまかれあれ!
コン太は即座に諾う。
ジェスチャーを交えて饒舌に語り出す。
「おいらとノアとの出会い……。
それは神在月の出雲大社!
全国の神々が参集する『カミハカリ』の一日目だった。
九島の真珠色龍神は絶世の美龍らしい。
風の噂で聞いていた。
おいらは『絶世の美龍』とやらを大げさに想像していた。
ところがところが!
真珠色龍神の美しさは想像以上だった!
ノアを目にした瞬間!
おいらは恋に落ちていた。
あまりに麗しいその姿!
おいらの体温はグーンッ!
急上昇した。
そしてドッキドキ!
動悸が激しくなった。
さらにはクラックラ!
激しい眩暈に襲われた。
つまり。
一瞬でハートを撃ち抜かれてメロメロになったんだ」
凛花は前のめりになる。
「うんっ!
ノアには見惚れちゃう気持ち。
……わかる!」
「イヒヒ(照)……。
それからなりふり構わずの猛アタックさ!
おいらは朝、昼、晩!
昼夜問わずに熱い求愛を続けた。
そうしてだいたい半年後!
ノアが『諾』と応えてくれた。
まあつまり。
根負けして恋人関係になってくれたってわけ」
ノアは笑って補足する。
「コン太からのアプローチ、凄まじかったのよ?
神出鬼没に現れて。
何度も何度も求愛してくるの。
正直言うとね。
あまりのしつこさに。
初めのうちは少し困惑していたの。
だけど不思議と憎めなくて……。
たまに任務が立て込んで会えない日もあってね?
そうしたらなぜか寂しくて……。
いつの間にか。
コン太を待ち焦がれている自分がいた。
それでやっとわかったの。
ああ、そうか。
これが恋なのかって……。
それに真珠色の龍体とは対照的な呂色の漆黒色が素敵でしょう?
そこに堪らなく惹かれたの」
「うっ? うへっ?
うへえええええっ……!」
ノアの率直な言葉にコン太は身悶えする。
激しくデレた。
コン太はしみじみ語る。
「同じ時空を生きていること。
偶然でも必然でも出会えること。
ましてや心が通じ合うなんて。
奇跡だよな!
だからおいらは龍神界一の果報者ってわけ。
まあだから要するに!
恋ってのは良いもんだ。
恋をすべきだ、ってことさ!」
凛花は大いに納得した。
目の前にいるのは最高にお似合いのふたりだ。
「うんっ、恋って素敵だね!
聞かせてくれてありがとう」
凛花は立ち上がる。
台所で食器洗いをはじめた。
ノアとコン太は静かに憂う。
……凛花は清貧だ。
物欲や金銭欲が少ない。
もっと欲ばっていい!
そう伝えたことがある。
そのとき凛花はこう答えた。
「龍使いに任命されて生きる意義を与えてもらえた。
そしてノアとコン太がいつも傍に居てくれる。
私は贅沢すぎて幸せすぎる。
これ以上求めるものなんて何もないの……」
龍神と龍使いの間に打算や駆け引きは通用しない。
龍神と龍使いの友情に階級は存在しない。
不可欠なものはふたつ。
お互いを許容する広大無辺の『尊敬』。
見返りを求めない甚深たる『愛』。
日々、龍使い・凛花から柔らかな癒しを与えられている。
ノアとコン太は切に願う。
……どうしたら凛花が幸せになれるのだろうか?
もしも叶うなら。
凛花に恋をしてほしい。
ときめく心を知ってほしい。
過去の出来事に囚われて。
恋愛を諦めてほしくない。
凛花が誰よりも大切な存在だからこそ!
その慈愛と深慮に応えたい。
同等の真心を返したい。
誰よりも幸せになってもらいたい……!
シュンッ…………!
突然。
『転瞬メッセージ』が届いた。
それは『貴き御方』からのテキスト影像だった。
ノアは驚きすぎて呼吸が止まった。
コン太は動揺しすぎて腰を抜かした。
スー、ハー……、
深呼吸して心を鎮める。
遥か高き場所から届いた影像を確認した。
ふたり脳裏に。
『或る男性』が映し出された。
ノアとコン太は目を瞠る。
震えながら顔を見合わせる。
龍神カップルは畏敬してひれ伏す。
貴き『下命』を受け取った。
そして確信する。
凛花はそう遠くない未來に。
誰かと『恋』をするだろう…………。




