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不幸からの……

それから間も無くして私は会社を辞めた。

これからどうしようか……。

一人アパートの部屋に引きこもり、この先の事を考えるが、中々考えがまとまらない。


「職探ししなきゃなぁ……」


一人呟き立ち上がった。


働かなければ食べてはいけない。くよくよしていても始まらない。

そうと決まればと鞄からスマホを取り出し職探しを始めた。



何件かの会社にメールを送り後は返信を待つだけだ。

その間に新しいスーツを買おうか。

贅沢はできないけれど、やはりスーツは必要だし、今持っている物も少ないし……。


取り敢えずは買い物へ行こう。


ささっと着替え、鞄を持ち部屋を後にした。




「やっぱりデパートは高いなぁ……」


何件かデパートを周ったけれど、やはりお値段が高い。

諦めてアウトレットへ行こう。

新しく就活するならそれなりにと思ったけれど、身の丈に合わない行動はするものではないな。


少し憂鬱な気持ちでデパートを出て、駅に向かう為に信号を渡った。



その瞬間、ドン!とした音と共に身体に衝撃がはしり、私はアスファルトに打ち付けられた。


「う、痛い……」


言葉にしたつもりがどうやら声になっていなかったらしい。自分の耳に届いたのは呻き声だ。



「だ、大丈夫ですか! しっかりして下さい!」


アスファルトに横たわった私を誰かがゆっくり起こし、慌てた声でまくし立てた。


「今救急車を呼びます! 何処が痛みますか⁈」


余りにも切迫したその声に何とか答え様とするのだけど、上手く声にならない。


どうやら私は車に跳ねられたらしい。で、運転手さんだと思われる男の人が私に向かって必死に声をかけている。

うっすら目を開けば男の人が二人。

もう一人の人は私を見ながらスマホを片手に話をしていた。



暫くして救急車のサイレンが聞こえ、私はゆっくり意識を手放した。


ああ……。このまま私はお父さん達の所に行くのかなぁ。

恋愛も結婚も仕事も、何もかも叶わぬままだったなぁ。


そんな事を思っていたら、誰かに呼ばれているのに気が付いた。


「しっかりしろ! おい!」


誰?私を呼ぶのは……。お父さんじゃない。親戚の人でもない。知らない人の声。


手を握られている?何だか温かい。


ぼんやりと目を開けた先に、男の人の顔が見えた。

さっきスマホを手にしていた人だ。


私。ああそうか……。


ゆっくり周りを見渡せば、どうやら病院らしい。

身体を動かそうとしたけれど、痛くて無理だった。



「気が付いたか。分かるか? 此処は病院だ。救急車で運ばれた。君はうちの車に跳ねられたんだ。怪我の状態は右手と左手足首の捻挫。後は脳しんとう。それに腰の打撲だそうだ。骨折はしていないし、脳にも異常は見当たらなかった」


余りにも早口で言われたから状況はよく分からなかったがとにかく比較的軽く済んだらしい。


「君の名前は申し訳ないが鞄を調べさせて貰った際保険証を見つけたので分かったよ。病院の手続きも行なった。ああ、俺は高槻海斗(たかつき かいと) これから君の面倒を看させてもらう」


え!面倒?どう言うこと⁈


「あ、あの!」


驚きのあまり起き上がろうとして止められた。


「良かった話せるみたいだな。身体はまだ痛いだろうから起きなくていい。もう暫くしたら迎えが来るからうちへ行く。今回は俺の運転手が申し訳ない事をした。お詫びと言ったら語弊があるが、是非うちに来て、怪我が治るまで面倒を看させて欲しい……」


真剣な眼差しで高槻さんがそう申し出た。


「君の事は悪いと思いつつ少し調べさせて貰ったよ。あ、込み入った事は調べてない。君は一人暮らしなんだな。この怪我では勿論不自由するだろう?それに慰謝料の件もあるし、どうかうちに来てくれないだろうか?」


嫌とは言わせない様な雰囲気になってしまった……。

ここは従うべきだろうか。確かに一人暮らしだから生活に困るし。でもいくら加害者だからっていいのかな……。



「何か不安な事が? 男と暮らすのに抵抗が? それは大丈夫だ。通いだが家政婦がいるし、部屋は勿論、風呂やトイレは別になる。食事は一緒になるがそれ以外は別だ。当分色々介助させてはもらうが」


何だか大丈夫なのかな……?私の事調べたりかなり不安はあるけれど、生活圏は別らしいし……。

ああ、きっとまともに頭が働かないのかな。



「よ、宜しくお願い致します……」


気がついたらそう返事をしてしまっていた……。





それから暫くして、私を跳ねてしまったという運転手さんと、恰幅の良いおじさんが病室に入って来た。



「本当に申し訳ありませんでした‼︎ お詫びしても仕切れません‼︎ 被害届けなら直ぐに提出して下さい!」


高槻さんより少し年上っぽいその人は、私の前で土下座をした。


「そ、そんな……。顔を上げて下さい! 私は軽い怪我で済んだし、元は私がぼんやり歩いていたから……」


「そうはいきません! 大事な身体に……」


「本当に大丈夫ですから……」


そんなやり取りをしていたら、「慰謝料をお支払いしたいのですが、どのくらいで……」


恰幅の良いおじさんが話始めた。


「おい、橋野。怪我の状況は分かったが治るまではその話はするな。それから各務。お前の不注意だが、今は怪我をしたばかりだ。休ませてやれ」


高槻さんが二人にそう言うと私に向かい直り、

「君はどうしたい?」


そう言葉を投げかけた。




結局示談で事故は済ます事にして、慰謝料等は私の怪我が治ってからにしてもらった。


かなり甘いかも知れないけど、高槻さんにお世話になるのだからと思ったし、色んな手続きをしたくなかったからだ。

高槻さんの弁護士の橋野さん。恰幅の良いおじさんにお任せした。




そしてその後……。


私は所謂高級マンションの前にいる。高槻さんのお住まいだそうだ。

私の荷物は高槻さんの秘書と名乗る青木南さんという女性の方が取りに行ってくれたり、当面の生活雑貨等揃えてくれたらしい。

仕事が早い……。



「今日から此処が君の家だ。寛いでくれ。部屋はさっきの所で、風呂はここ。トイレは向かい側にある。リビングは勝手に使ってくれ。君の身の回りの世話は昼間は家政婦が看てくれる。明日紹介しよう。何か質問は?」



底層マンションの最上階のお部屋は全て高槻さんのおうちだそうで、玄関を入って廊下を進むと奥に物凄い広いリビングが広がっていた。


廊下にあるいくつかの部屋はゲストルームにあたり、トイレとお風呂も部屋の奥にあった。


リビングを渡った先に、高槻さんのプライベートルームがあるらしい。


かなりのお金持ちなんだな。等、呑気な事を考えてしまったのは、頭を打ったからだろうか……。


しかしこれから始まる私の生活は一体どうなるのだろうか。

今更ながら少し後悔が頭をよぎった。

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