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現実に主人公はいない  作者: 薪焚灯火


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009 極彩色の極楽と無地の死地

 今日は不思議な出会いをした。

 僕は拠点に戻ってから、ずっと同じことを繰り返し考えていた。

 始まりはなんて事はない、仲間からの一本の連絡だった。内容は二つ目の街モーリスにて、用途不明のアイテムを入手したと言うもの。最初聞いた時は、そんな物はさっさと持ち帰って活動拠点内(ここ)で見せれば良いではないかと思ったが、どうやら事態はそんな簡単ではなさそうだと知り、僕は自ら出向くことにしたのだ。

 数時間前、僕は仲間たちとモーリスの一つの居酒屋にいた。

 まさか酒でも勧める気かとも思ったが、メンバーの顔を見るからにそうではないと悟った。仲間が見せたがっていた例のブツの名は<シカムシロの鎖片>と言う、不思議な鎖の一欠片だった。

 アイテムの効果はようとして知れなかったが、そのアイテムテキストに記載されていた一文で、僕はそれがどんな物かを想像の域ではあるが解明した。

 それは、どこかに隠されている聖遺物を入手するために使用する物だった。

 あとはどこを探すのかと言うことになるが、これは一度持ち帰って、中央図書館で調べるしかないと言う結論に至った。

 仲間の一人、木こりのジョージーは「この街で見つかったんだから、どこか近くのはずだ」と言ったが、この辺りにあるのは、西のミミド山か東のトグルオークロック針林(しんりん)。北は街道でモーリスから北東に位置する三つ目の街につながっていて、探すにはあまりに寂しい。

 南も同様、最初の街に続いているばかり。山か林の中を探すには、少々エリアが広すぎる。

 目星くらいはつけるべきだと僕の発言で、一同は帰宅する事となった。

 その道中、今度は別の仲間から、はぐれ街に用事があった仲間から連絡が入り、結局針林を突っ切りその向こう側に広がる砂漠地帯に踏み込んだ。

 彼と出会ったのはそこだ。明るい金の瞳に同じ色の髪、その他は特徴のない平均的な顔立ち、身長体格で、一見パッとしない青年だった。しかし、こちらの副リーダーcustom33を一撃で殺しかけるその手癖の悪さが、僕の好みにドンピシャリ。胸に突き刺さった。

「初期型のプラグの入眠者(ユーザー)だったなんて……神様は意地悪だ」

「神を信じるタイプには見えないが?」

 一時的に無抵抗になる<気絶>の状態にかかっていたタムさんから、いらぬツッコミが入って来た。

 ほっといてくれ。こっちはフられたばかりなんだから。

「明日どこで見つけるつもりだ? あの鎖の場所を特定するために仲間を図書館にやったって事は、明日にはそこを目指すんだろう? 見つける時間なんかあるのか? まさか、運命だとかいうんじゃないだろうな。それは恋愛漫画の読み過ぎだ」

 これだから男というやつは……。

「別にそんなつもりないよ。それに、明日はきっとあの辺りまで戻るはずだ」

「その根拠は?」

「運命」

「アホか」

 アホはどっちだ。ついさっき僕を揶揄った輩に、何故こちらの頭の中を晒すと思っているか。

「頭の中お花畑かよ」

「なっ! 人に当たんなよ」

 呆れたように肩を跳ねさせるタムさんを無視して、僕はラボへと足を進めた。メインロビーでぼんやりしていては時間の無駄だ。それに、やらなきゃいけない事もあるし。

「聖遺物<業拳ソラリスゲヘナ>か……」

 机の上に寝かされた一対の手甲、聖遺物が一つ<業拳ソラリスゲヘナ>。これの解析検証を行わなければならない。

 できる事は単純な火の操作だけなのか。

 ――否、そんな筈はない。

 この世界に十種しか存在が確認されていない聖遺物だ。そんな陳腐な能力であるはずがない。

「固有スキル、こゆうスキル、こゆうすきる…………」

 聖遺物には、それぞれに固有スキルが存在する。業拳ソラリスゲヘナに備わった固有スキルは、全部で三つ。

 一つは、固有スキル<灼熱拳>。

 その名の通り、焔を纏った拳で殴る物理スキルで、追加効果として特殊状態『燃焼』を相手に与える事ができる、らしい。

 燃焼とはその名の通り、相手の命を燃料に燃える。つまりは継続ダメージが入るという事だが、

「いや、どれくらいのダメージがはいるとか書いといてよ。そりゃあ、リキャストタイム無しは強いけどさ…………」

 ネックは相手の炎熱耐性のレベルによって、持続時間と与ダメージが異なるという点だろうか。

 リキャストタイム無視は強いが、世界に一つだけしかない武器にしては少々、いやかなりショボい。

「二つ目は<煉獄閃掌>……あれかぁ」

 確かにあの時の攻撃は中々に強力だった。がしかし、普通の武器で対応できるし何より、溜めに時間がかかり過ぎだ。

 最後の固有スキルは<焔纏イ>。焔を自分の体に纏わせるスキル。

「物理攻撃カット率80%……触れた相手に『火傷』と『燃焼』を付与……これは確かに厄介だけど……」

 わざわざ聖遺物にする設定だろうか。80%は破格だが、他二つが攻撃スキルで微妙なところにやや強の防御系のスキルがあった所で、戦況を覆すには少々火力不足ではなかろうか。

 聖遺物は、それ一つで軍隊を一つ殲滅できると謳っているのに。

「ハズレかなぁこりゃあ」

 この世界には現在、十の聖遺物が存在しいている。こんなハズレ枠があっても不思議じゃない。

「おうリーダー、そいつは使えそうか?」

 焔を宿した宝玉の埋め込まれた鉄の塊を両手にはいてラボから出ると、扉の前にはこの両手について知りたがっていた仲間たちが壁に耳を当てて待っていた。

「調べ終わったら伝えるつってんのに、なに無駄なことしてんの」

 僕のラボは遮音性抜群で、そんなことしてもくしゃみの音ひとつ聞こえやしない。

「これはハズレ。誰でも手に入るような難易度だったんだろうね。こんなもの見せびらかす奴の気が知れないよ、まったく」

「とか言いつつ、ちゃっかり装備してんじゃないっスか」

 黒紅の鬣の数少ない女性プレイヤー、シグレが茶化して行って来た。

「これの唯一の利点は、装備していても追加で武器を握れるところにあるの」

 素手で殴るのは馬鹿のすることだ。

「武器にスキルを共有できるって事か?」

 虹色のウニヘルメットを被った世紀末衣装のトッピン。相変らず目に優しくない見た目に、衣装に合わせたCDディスクのような虹彩を纏った隕鉄パイプに体重をかけてこちらに手を振って言って来た。

「いやそれは無理っぽい。スキルで防御高めつつ、武器奪られた時に牽制するのがまぁ、ベストかな」

 固有スキル<焔纏イ>をメインで使うのがきっと最適解なのだろう。

「リーダー、今日はもう何もなしですかい?」

 茶髪にそばかすの素朴な青年アバターのタントンが、三下ムーブで聞いて来る。そりゃあそうだ。まだ覚醒まで二時間はある。これだけあれば、お隣さんのクランを潰す事くらいはできる。

「そうだねぇ、性能テストがてら喧嘩売りたいけど……どっか手頃なクランあったっけ。ねぇ、タムさん?」

 情報収集は副リーダー兼頭脳担当のタムさんの役割だ。僕にはできない事をしてくれる、ありがたい存在なのだ。

「最近右肩上がりで名声を高めてるクランが一つあったな」

「あぁ。聖騎士なぁ」

「あいつら、自分たちがこの世界の主人公だって思ってそうだもんなぁ」

「リーダー、軽くシメてやりやしょうぜ!」

「聖騎士?」

 それぞれに盛り上がりかけた仲間たちの間に差し込んだ僕の言葉に、タムさんが言う。

「一カ月前から名前を聞くようになった新しいレギルスクランだ。クラン名はアリオーン」

 タムさんの指先が宙で何かを描き、それに従い目の前に一枚のウィンドウが表示された。

 『クラン:<神示の蹄鉄(アリオーン)>

  リーダー:ミヅキ

  人数:10

  ランク:C』

 クランの詳細が記されたウィンドウには、クラン名にリーダー名、参加人数とクランランクが表示されている。そしてその下には、長いブーツを履いた人間の後ろ足で立ち上がった馬を逆さまになった蹄鉄が囲んだクランシンボルが。

「蹄鉄…………へぇ、面白いじゃん」

 同じ馬をモチーフにしたクラン。そして分類は、ウチはアウターで、向こうはレギルス。これは、喧嘩を売られているのと同じ事だ。

「準備は?」

「できてるに決まってるっしょ」

「で、作戦は?」

 タントンからの質問に、僕は火の粉を弾けさせながら高らかに宣言する。

 心地良い、つものセリフである。

「遊ぶよ、全力で!」

 レギルスクラン<神示の蹄鉄>の活動拠点は、中央都市ロートスの東区画にある。

 商業施設が多く集まった区画でもある東区の、一番背の高いビルの最上階を根城にしている為、攻めるのは容易ではない。

「さてさて、先ずは小手調べ~」

 どこかで楽しんでいる自分がいるのは、まぁ御愛嬌。

 全部で七十階もある背の高いビルの一階裏手に燃え盛る掌を押し付ける。

 青白いネオンライトに照らされた黒光りする一本の円柱塔の根元が赤々と照り出した。中々の高温だ。

 まさか、建物に使用される全属性に高い抵抗力を持つロンメル鉄筋を溶解させられるとは、聖遺物様々だ。

「そろそろ出て来る。対処ヨロシク」

「了解リーダー」

 裏手の扉が開かれ、左方向から黒鎧をまとった銃騎士が九人、飛び出して来た。それをこちらの面々が同じく銃で迎え撃つ。

 僕は空の両手を塔に当てているから動けない。

「タムさん!」

「あいよ」

 こちらに向けられた電鉄の銃口の間に、一匹の鼠男が入り込む。灰色の外套を翻し、タムさん愛用の実体銃剣<ツィンベルグ>を構え、即撃を打ち込んだ。

 紫電が迸り撃ち込まれた弾丸が一人のレギルスプレイヤーが穿たれ、黒鎧を真っ二つに砕く。

「フゥ! 流っ石、紫電の鼠!」

「こっちは抑えられるが、そろそろ来るぞ」

 タムさんの言葉を合図にしたのか、頭上に敵意が現れた。

 まさか、最上階から!?

 命の危険を察したからか、意識が身体を巡るよりも速く、身体は自然とビルから一歩離れた。足元の発電タイルを砕いて膨らんだ煙が、衝撃によって風船のように破裂する。

「アンタがクランリーダー、で合ってる?」

「そういう君は、アウタークラン<黒紅の鬣>リーダー、シナで合ってるよな」

 金の髪に、金の瞳の好青年。

 見た目の色は近しいのにどういう訳か、とっつきやすそうな雰囲気を放つ青年には、一切の感情が動かなかった。

 この男は、殺したいと心の底から思えない。あの時の青年はそうではなかった。

 殺したい、どんな手段を使ったとしても。あの時サンドワーム・レッドフッドから助けた青年に対しては、心の奥底からそう思えた。そう思えたからこそ、そのプレイヤーを、人間を、僕は仲間に引き入れて来た。

「アンタは違う」

「は?」

「……別に、こっちの話」

「そう。それじゃあ念の為、クラン<黒紅の鬣>、おとなしく武装を解き降伏しろ」

 男は名も名乗らずにそう言った。

 ああ、やっぱりだ。この男は違う。この男は、ぼくにとって背景と何ら変わらない。色鮮やかに着飾ったこの世界にある、ただのポリゴンの集合体でしかない。だから殺そう。殺したいわけじゃないけれど、殺して死体になったその時、僕は目の前にいる背景の一つが、僕と何ら変わらない、一人の人間だと証明したいんだ、きっと。

「固有スキル――」

「スキル――」

 同時に己の得意武器を構え、クランのリーダーが相対する。

「<灼熱拳>!」

「<鉱電石光(ボルテクス・ギア)>!」

 互いにスキルの名を叫び、覇気の籠ったその手を振るう。

 一方は焔を纏った拳を。もう一方は眩い光を放つサンライト・クリスタルを芯にした黒緑色のネクロ合金で形成された片刃の剣を振りかぶる。

 灼熱の炎が吹き荒れ、紫電が周囲を跳ね返り、戦闘領域と化した街灯の少ない高層ビルの裏手がより一層明るくなった。

 焔と蒼電がぶつかり合い、拳と刃の間でエネルギー反発による小爆発が生じて、周囲一帯を大きいくゆらした。

 根元が融解した高層ビルが傾き、ネオンライトは次々に破裂する。

 正面の通りを行き交うNPCは驚きその足を止め、事情を察する事の出来るプレイヤーたちは一斉に走り逃げた。

「クラン<黒紅の鬣>リーダー、シナ。お前は鎖を持っているか」

「鎖? 何それ」

 コイツ何が目的だ? 何故鎖の事を知っている?

「聖遺物の一つ、<聖剣ファキエス>を得るためのキーアイテム<シカムシロの鎖片>。持ってるんだろう」

「そんなの知らないって言ってん、じゃん!」

 インベントリからウィタム・フィニーレを取り出し、エネルギー形成の刃を振るう。

 それを剣で真っ向から受け止めた男は、人好きのするその顔に確信めいた笑みが浮かんだ。

「鎖を渡せ。そうすれば、お前の他の仲間も見逃してやる」

 見渡せば、いつの間にか包囲されていた。ウィンドウで見たクランの総数はたったの十人だったはずだ。最初に九人、その後僕の目の前にリーダーが一人。あの時見た資料ではこれで全員だったはずが、今包囲している黒鎧たちは見えただけでも三十人以上。

 これは…………。

「クランの偽装は、レギルスでは御法度のはずじゃなかった?」

 正義を遂行するためのレギルスは、いかなる不正も行ってはならない。この世界のルールの一つだ。

「これは偽装じゃない。合同クランは知っているだろう」

 合同クラン。その名の通り複数のクランが手を組み、同盟を結ぶ行為を指す。その長所はなんといっても、戦力の増強にある。

 一つのクランに所属させられる人数の最大は五百。これを越える戦力を有するには、二つのクランをまとめなければならない。

 五百を越える戦力が必要とすることのなかったこの世界において、合同クランなど争いの種にしかならないとして、誰も行っていなかったはずだ。

「合同クランを作る最大のメリット、それは戦力の分散にこそあるんだ」

「あぁそうか。クランのランクが低かったのもその為か」

 クランには、その戦力を示すランクが設定されている。

 クラン<黒紅の鬣>のランクはA。対するクラン<神示の蹄鉄>のランクはC。

 これを見たからこそ、僕はたった十人でここ一カ月でランクをCにまで上げたその実力に敵としての価値を見出した。だのに、蓋を開けてみればなんてことはない。合同クランによってランクを偽っていたのだ。

「本当に、君は殺す価値もない男だね」

 つまらない。背景以下の存在だ。まぁ、だからこそこの男は殺さなければならないのだけど。人間であると、僕自身が納得するために。

 目の前にいるのが、僕と同じつまらない無価値な人間であると証明するために。

「皆、僕の言いたい事分かるよね」

「おうさ」

「モチのロン」

「命令は一つ。だろ」

 皆が皆状況を理解し、それぞれに戦意を高め殺意を滾らせている。

 これだよ、これ。こういう奴らが、僕は殺したいと思えるんだ。退屈な問答も、つまらない小細工もない。純粋な殺意。これを宿らせることができる人間が、この世界にどれだけいるだろう。

 何もない現実の世界で表にすることのできない感情を、この世界は浮き彫りにする。だのに、原初から持ち続けたこの感情を、いつの間にか人間は忘れてしまっている。

 だから僕が思い出させるんだ。人間は人間を殺すために生きているのだから。

「スキル<桜花繚乱>!」

 桜の花びらが春風に誘われるように、鎌から放たれたエネルギーから生成された暴力が一つの嵐を呼ぶ。

 こちらを包囲する黒鎧の一団は、竜の顎のように凶悪な銃口を、一部の遅れもなく一斉に向ける。が、それを合図にタムさんたちが一斉に飛び出した。

「スキル<鉱光砲火(ボルテクス・ブレイズ)>」

 鉱合鉄剣で鋭い突きを繰り出したクランリーダーが、こちらにその切っ先を向ける。僕はそれを下から救い上げた鎌の刃で弾き上げると、体の回転に合わせて連撃をスキルと共に叩き込む。

 周囲に満開した桜のカーテンが、こちらの動きに合わせて右へ左へ揺れ動く。花見客が揃ってこちらを伐採しようとするというのはいただけないが、それすら力に変換し、斧を手にした伐採者たちをポリゴンの塵へと帰す。

「鎖を使えば聖剣を手に入れられるって話だったよね」

 攻撃の合間に反撃を狙う男に対し、僕は声をかけた。敵の隙を作るのが目的ではあるが、ここで情報が得られるのならばという目論見ももちろんある。

「ああ。だが、持っていないんだろう?」

「ああ、持ってないよ。でも、何処で使えばいいかぐらいは知っておこうかなって」

「フンッ、話すと思っているのか?」

「思ってないよ。アンタには何も期待してないんだから」

 ゲームを遊んでいて背景に何かを期待するプレイヤーがいるとすれば、それは馬鹿か変態かの二択だ。僕はどちらでもない。

「勝手な事を!」

 怒気を滾らせた男の剣撃をさらに弾き返して、こちらは暴力を振りかざす。

「「スキル――」」

 一呼吸を開けて、停止した火花が舞い散り暴力のぶつかり合う。再度二人の声が重なり、獲物にエネルギーの渦が集中する。

 得意げに振り回すその武器、叩き割ってやるよ。自然と笑みが浮かび、無意識に舌なめずりしながらスキルの使用を宣言した。

「<枯葉転昇>!」

 得意の武器破壊スキルを発動させ、エネルギー生成の鎌へと力を込める。

「<帯電放刃(ボルテクス・バースト)>!」

 対して男の方は、芯の白光するクリスタルが高速で回転し、周囲を囲った黒緑合金の刃が光をエネルギーに変換、新たな刃を形成した。互いに一拍の溜を越えて、再度ぶつかり合った。

「これじゃアンタの拠点が無くなっちゃんじゃない?」

 武器の破壊ができない。なんで?!

 あぁ……これは、スキルによって武器の周囲に形成されたエネルギーの刃のせいだ。これを越えて剣身に触れられなければ、こちらのスキルは効果を発揮できない。

 ウィタム・フィニーレを左手に、空にした右の掌に焔を蓄えた。

「そうはならないさ。何故ならクランは、神示の蹄鉄は、この俺だからだ!」

「固有スキル<煉獄閃掌>!」

 気迫のこもった叫びと共に、上段から振り下ろされた光の刃が焔を放つ右手に食い込んだ。

 青白いポリゴンがこちらの体から噴出し、体力ゲージが一気に削られた。

 マズイ、このままだと切り落とされる。

 右腕の半分まで刃が食い込んだところで、愛武器<ウィタム・フィニーレ>を左手だけで構え力を溜めた。

「スキル<桜花――」

「<光塵(バースト)>!」

 こちらのスキル宣言よりも速く短いスキルの使用宣言が、間近に迫った殺意と共に首筋を撫でた。

 一層光を強めた刃が腕を切り落とし、タイルを焼き切った。それだけに止まらず、返した刃が下から上へと迫り来る。これは、避けられない。

 察した瞬間、スキルの発動を中断させて左手に握った両刃の鎌を横に差し込んだ。

「アンタ、名前は?」

 火花が咲き乱れたその外側で、互いの顔を見合わせた。翡翠と琥珀の視線がぶつかり合い、そこにも小さな火花が咲き誇る。

「ミヅキ。レギルスクラン<神示の蹄鉄>のリーダーミヅキだ。覚えておけアウター」

 ぁあクソ! 整った顔立ちに浮かばせた好感触を与えるだろうその薄ら笑い。マジで鳥肌モノだ。気持ち悪りぃ。

 視界の端に伸びた体力ゲージが瞬く間に空になり、体が崩壊を始めた。残る数秒で視線を回してみれば、どうやらタムさんたちは殺ってくれたらしい。人影は一つもなく、撤退に成功したと見える。

 まぁ、及第点かな。

「次は、僕らが勝つよ」

 そこで、僕の視界は真っ白に染まった。

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