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【コミカライズ・書籍化】聖女様をお探しでしたら妹で間違いありません。さあどうぞお連れください、今すぐ。【連載版】  作者: 伊賀海栗
③タルカークにて

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3-59 最後の戦いが始まろうとしています


 神官と王宮楽団によって音楽が奏でられる中、ハラーク公爵による挨拶の声が礼拝堂内まで聞こえてきました。


 彼は聖地タルカラおよび大神殿の守護者であり、聖職者でもありますから、その言葉のひとつひとつがありがたいお説教のような重みを持っています。


 礼拝堂には警備の親衛隊、係の神官、私とオルハン殿下とビビアナ殿下、そしてそれぞれの従者がいます。私もベアトリスさんに身だしなみをチェックしてもらいながら出番を待っているところです。


 そこにソニアがひょっこり顔を出しました。


「お姉ちゃん、もうすぐだね!」

「ソニア。さっきはありがとうね」

「今日はねー、朝から頭がスッキリして気分がいいんだ。だからなんでも手伝ったげる!」


 そんなこと、ブノワさんも言ってたなと思い出してホッと胸を撫でおろします。

 ソニアも同じことを言うんだから、きっとブノワさんの言うとおり薬の影響がなくなったんだろうと思うから。


「っていうか、よくここに入ってこれたわね。厳重警備中なんだけど?」

「親衛隊さんも神殿騎士さんも、みんなお友達だからね。見逃してもらっちゃったー」

「お友達でも普通はダメって言われるの。みんなソニアの言うことだけ聞くの、昔から不思議なのよね」

「可愛いからね!」


 まったくもう……。そりゃ可愛いけど、普通は美貌だけで決まり事を破ったりさせられないんですけどねぇ。関係者とみなされて通してもらえたって考えるのが一番しっくりくるかなぁ。ホントかなぁ。


 なんて首を傾げていると、オルハン殿下がふふふと声をあげて笑いました。


「王家やハラーク家には稀に、不思議なカリスマ性を持った人物が生まれることがある。妹さんは、もしかしたらそれかもしれないね」

「カリスマ性、ですか」

「うん。初代の王がまさにそれだったと言われているよ。見栄えに加えて、声の質というのかな……何か人の心に訴えかけるような声音を持つのだそうだ」

「なるほど……?」


 言われてみれば心当たりがないわけでもありません。

 初代の王って、ヌーラの子です。確かにあの子も人々を導く力が強かった。ソニアがあの子に似ているかと言われると、うーん、わかんないけど、可愛いです、はい。


 可愛いからもういっか、と難しいことを考えるのをやめたところで、扉のそばにいた神官に呼ばれました。


「皆様、そろそろ」

「はいっ!」


 私が白木の儀仗杖を手に立ち上がるのと同時に、オルハン殿下とビビアナ殿下も従者の手を借りながら立ち、それぞれに扉の前へ。


「がんばってね、お姉ちゃん!」


 背後でソニアが拳を振り、ベアトリスさんは深々と頭を下げています。みんなわかっているのでしょう。ここが決戦の場になるであろうと。


「ご列席の皆様へ申し上げる。王太子殿下ならびにビビアナ妃殿下のご出座である」


 ハラーク公爵が高らかに宣言して扉が開きました。


 薄暗い礼拝堂の中に真っ白な光が差し、眩しくて見えなかった会場は目が慣れるうちによく見えるようになって――。


 傍に控える神官の声すら聞こえないほどの歓声。雲ひとつない真っ青な空の下、広場を埋め尽くすたくさんの人と……キラキラ舞い踊る精霊たち。


 ああ、ビビアナ殿下はこの国に歓迎されている。そう思ったら自然と笑ってしまいました。


「行きましょう」


 この大歓声の中で届いたとは思えないけど、オルハン殿下とビビアナ殿下に声を掛けて一歩を踏み出します。


 私はおふたりを導くように礼拝堂を出て真っ直ぐ進み、ステージの中央へ。おふたりはさらに一歩前へ出て手を振ることで歓声にこたえました。


 私が自分の背丈と同じほど長い立派な儀仗杖の先端で床を叩くと、カツっと小気味いい音が鳴って一気に静かになりました。びっくり。あの歓声の中で杖の音が響くだなんて。


 それはそれとして、まずは教典の一節を読み上げなくてはいけません。


 この国は多民族国家であるがゆえに神を信仰する形式をとっているけれど、神の御使いとして精霊が存在するため、教典の中身もアルカロマで用いられるものと大きく変わらないので助かります。


「精霊曰く――もしわたしがどれほどの言葉を尽くしても、そこに愛がなければ鎖を打ち下ろすようにやかましいだけでしょう。もしわたしが――」


 愛について語られるのはタルカラの章です。大精霊様がヌーラとエドリスに祝福を与えてくれたときにいただいた言葉なのですが、それを今私が口にするなんて、なんだか不思議な気持ち。


 視界の片隅では、セレスタン様が神妙なお顔でこちらを見ていました。心配しなくても上手に神官のお仕事できるのに。


 その後、銀色のトレイを持った神官が両殿下の傍へ寄ると、おふたりは羽織っていたローブを脱いで神官に預けました。ローブの下にはキトン――大判の四角い布を巻き付けるだけの衣服――をまとっていらっしゃいます。

 遥か昔、ヌーラの時代よりさらに前から着用されていたその衣服に、ちょっぴり懐かしさも感じたりして。


 そしてまた別の神官が小さな水瓶を抱えてやってきました。小さいと言ってもヒトの頭ほどの大きさがあって、持ち上げるにはそれなりに力が必要です。


 儀仗杖を彼に預け、代わりに水瓶を受け取ります。


「オルハン、前へ」

「はい」


 私が呼び、オルハン殿下が私の正面へと進み出て跪きました。

 水瓶を傾け、その流れ落ちる水で彼はまず手を、そして額と胸を清めます。


 これが結婚の儀で行うべき沐浴です。昔はちゃんと泉に全身浸かっていたそうですが、時代とともに簡素化されて今にいたる、とか。


 タルカークの初代王の結婚を祝福したのはもちろんヌーラであり、つまり女性の神官でした。以来、この沐浴による祝福は女性の神官が行うこととなったのだそうです。


「次。ビビアナ、前へ」

「はい」


 オルハン殿下が元の位置へ下がり、次はビビアナ殿下の番です。


 同様に水瓶から流れる水で沐浴を済ませ、おふたりは再びローブを纏いました。私は空になった水瓶と儀仗杖を取り換えてもらいます。


 あとは、誓いの言葉を述べればビビアナ殿下は正妃として認められることとなります。もう少しです。


「あなたがたは今、ことばと水によって清められました。神はあなたがたに豊かな祝福をお与えになり――」

「異国の女狐なぞ認めてたまるかーっ!」


 会場のどこかで叫ぶ人が。

 ハッとして広場を見れば見物に集まった人々の半数近くが立ち上がっていました。


 ついに、恐れていたことが始まってしまったみたいです。




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