主人公補正
突然ですが、更新を二日に一回とさせていただきます。
筆がのったときは、一日で投稿することにはなると思いますが、ただいま同時進行で書き溜めている作品があるため、少しばかり不定期になります。
ご了承ください。
ちなみに、書き溜めている作品は「救世の最強勇者は成り下がりたかった。」です。
何ヶ月後に上げる予定です。
「単刀直入に言う。俺は昨日の朝、トラックに撥ねられて死んだんだ」
完全無欠に俺は死んだんだ。
昨日はこのことを里見に信じてもらえなかったが、これを信じてもらわないと話が始まらない。
「えっ‼︎‼︎」
「うん…………そう言っていたね」
リーナは初めて聞いたことだろうから、目を見開いて驚いていて、それと打って変わって里見は冷静だ。
「リーナちゃんを庇ってトラックに撥ねられて死んだんだよね」
「そうだ」
「で、でも、ダーリンは…………」
「ああ、俺は生きている」
なおも目を見開いているリーナはおばけでも見ているように、俺を指差して言った。
「神様に蘇らされたんだ、って言ってたけど」
「ああ、その通りだ」
「……………………ごめんだけど、神様なんて信じられないよ?」
里見が初めて見せるような冷たい目で俺を見据えて言う。
が、それが探りを入れているのだとわかり、怯まなかった。
「それもしょうがないだろうな。俺も始めは信じられなかった。だが、それを信じざるを得ないことが起きたんだ────神が降ってきたんだ」
「はっ……………………?」
「神が降ってきたんですか、ダーリン?」
「ああ、お前と下校して別れた後すぐにな────そこにいるだろ」
怪訝そうにする二人に俺は妹と絵本を読んでいる神様を指差して言うと、
「「えっ‼︎‼︎」 ……………………って、あの女の子が神と言いたいのかい? た、確かに可愛さは神がかってるけど」
「あの可愛い女の子が神様だったのですか……………………」
二人は一度飛び上がるほど驚いてから、俺の指差した方を向いたが、エリーを見た瞬間反応が微妙なものになった。
ただ、エリーを見る二人の目が少し熱を帯びているように見える。
「てっきり、妹さんとのっ…………いえっ、なんでもありませんっ!」
「? まあ、いいか。おいっ、エリー、こっちに来てくれ」
「? うむっ、わかった」
リーナが何か言ったような感じたが気の所為のようだ。
妹に相手をしてもらってる見るからにただの幼女を呼び寄せた。
「ん? なんだ?」
「二人に自分が神であることを証明してくれないか」
とことこ、と俺のそばまで来たエリーに言った。
しかし、小さいな。
椅子に座っていても、見下ろすほどに背が低いんだが、これは神としては許してもらえるのか?
まあ、エリーは気にしていないようだからいいか。
「うむっ! 今では、神の名は剥奪されておるが、その力の残滓は残っておるぞ」
「それを見せてやってくれ」
服を切るようなデモストレーションをやってもいいが、今回の相手は身内じゃない。
どれほど信頼できていても、家族と親友ではその隔たりは厳然としてあるのだ。
だから、ここはエリーにそれこそ神じゃないとできないような神の御業を披露してもらおうではないか。
「よかろうっ! 驚くなかれ……………………妾は九九ができるぞっ‼︎︎」
「あら、可愛い……………………じゃないわっ‼︎‼︎ もっと他に神っぽいことできるだろ‼︎‼︎」
なんでよりにもよって九九なんだよっ‼︎‼︎
見た目年齢通りのことしてどうするんだよっ‼︎‼︎
だが、そんなことを言いながら得意顔になるエリーが可愛く感じるようになった俺はすでに何かに毒されているのだろうか?
「ひっ!」
「あっ、な、泣くなっ! 俺が悪かったっ! じ、じゃあ、テレパシーはできるんじゃないのかっ! ほら、よくあるだろっ、『今あなた脳の側頭葉の聴覚中枢に直接語りかけています』」
あまりに大きな声で突っ込んでしまったせいで涙目になったエリーをなだめるようにして提案した。
その間、里見とリーナからジト目を向けられ、我知らず口調が早くなる。
「そんな言い方はせんわっ、たわけ! しかし、九九じゃ不満か? 言っておくが、テレパシーは今では無理じゃぞ」
「できないのか」
「うむ。その上、できたとしても規約に違反するからできん」
「規約、ってなんだよ」
てか、神は規約になんかに縛られているのかよ。
「前までは直接語りかけておったが、今では神と信じるより、幻聴と信じるやつが多くて、病院送りにしてしまうのじゃ。妾が神失格になったのも、テレパシーを勝手に使ったからなのじゃ……………………」
「ああ……………………」
こんなところに爆発的な技術革新と現実主義のしわ寄せが……………………。
「な、なら念力とかは? 海を割るとか」
「その力も剥奪されてできん」
「なら何ができるんだよ」
「だから、九九────」
「九九は、わぁ〜〜偉いねで終わるだろうがっ‼︎ なら、もういい。その服を貸せ」
「わ、妾を剥いて何をするつもりじゃっ‼︎‼︎」
「剥かねぇよっ‼︎‼︎ もう、わかったから、そこでじっとしてろ」
幼女かと思えば変なところでおませな野郎だっ‼︎
あっ、野郎ではないな。
まあ、そんなことはどうでもいいんだ。
エリーが神っぽいことができないのなら、俺がするまでだ。
俺は台所に向かうと、適当に選んだ包丁を片手に机に戻った。
「ひ、火脆木君、そ、それ」
「だ、ダーリン…………」
「ああ、包丁だ。まあ、見てろ。エリー椅子の上に立て」
不安げな顔をする二人に俺はあくまで落ち着いた声音で言って、エリーを隣の椅子に立たせる。
「っ‼︎‼︎」
そして、カウントダウもせずにエリーに力を加減して包丁を突き立てた。
「……………………刺さってない?」
思わず悲鳴を上げかけた里見が、異常に気がついて目を凝らした。
血は勿論、服さえも突き破られていない。
「う、うむ、さ、刺さっとらんぞ」
ただ、突然包丁を突き立てられたエリーは腰に両手を当てていたが、涙目だった。
「お前らもやってみろ。刺せとは言わないが、服を切ってみろ」
「う、うん」
包丁の柄を里見に向けて渡すと、エリーのところに行き、恐る恐る裾の端を摘んで、切り取ろうとした、が
「切れない……………………」
当然切れない。
マジックでも見せられたように里見は目を見開いてただただ驚いていた。
「えっ、私にも貸して……………………切れない」
それを見て、放心状態だったリーナが歩み寄って同じように試して同じ結果に終わった。
「これで、信じられるだろ」
「確かに……………………言われてみれば、のじゃロリだし……………………それにこの髪も……………………かつらじゃない」
「当然だっ! 妾は禿げとらんぞっ‼︎‼︎」
「それに……………………か、可愛いっ‼︎‼︎」
「ふのぉっ‼︎‼︎‼︎」
里見がついに抑えがきかなくなったように、エリーに飛びついて、
「こんな妹欲しかったですっ‼︎」
それに釣られるようにリーナが飛びついた。
「ちょっとっ、うちの子に触れないでくださいっ‼︎‼︎」
「あっ‼︎‼︎‼︎ いいじゃないですかっ‼︎‼︎‼︎ 少しぐらいっ‼︎‼︎‼︎」
しかし、里見のときは何も反応しなかった妹がその途端に割って入ってエリーを奪取する。
そして、予定調和のごとく始まるバトル。
「それにしても、本当だったなんてねっ……………………いいなっ、火脆木君はっ‼︎」
「………………………………全然いいなんて思えないんだが」
それを尻目にして俺と里見は話し始める。
「なんだってっ‼︎‼︎ 勿体ないよっ‼︎‼︎ 火脆木君は選ばれた人間なんだよっ‼︎‼︎」
「いや、選ばれなくていいから、平穏をくれ……………………」
「……………………そうだったね。火脆木君はそういう人間だったね」
「ああ、俺はこういう人間だ。世界が俺のような人間で埋め尽くされれば、きっと世界は良くなる」
「なんか嫌な人類補完計画だね、それ……………………」
「何が嫌というのだ? 人生平和が一番だろ?」
飢えるものはいなくなり、蔑まれるものはいなくなり、リストラがなくなり、戦争がなくなり、貧富の差がなくなり、その他もろもろ全ての不幸が地球上から消え去れば、みんなが幸せだろ。
「それはそうだけど、世界が火脆木君みたいな人だけになったらと思うと、怖いんだよね。『201X年、世界は火脆木君に包まれた! ATフィールドは消失し、自身と他者を隔へる「心の壁」が死滅したかのように見えた。だが、そげぶは死滅していなかった!────世紀始救世主伝ここに始まる』、とかいう混沌としたクロスが始まりそう」
「………………………………すまん。なんて言ってるかさっぱりわからん」
「だろうね。これからわからせていくから」
「………………………………お、おう」
なんだろうか。
里見の顔がすごく決意に満ち満ちた顔をしているのだが……………………。
「そんなことより、何があったのか詳しく聞かせてよっ」
次の瞬間には好奇心で一杯のキラキラした目で里見が迫ってきた。
「おう…………まあ、いいが……………………まず、俺はキャサリーナを庇ってトラックに撥ねられて神に蘇らされたところまではいいよな」
「うん。でも、なんか定番だね。本当にトラックに撥ねられたら神様に会えるんだね」
「そうなのか?」
定番ってなんの定番だ?
「今のライトノベル・ウェブ小説を全部現実に起きていることだとしたら、多分何千人もトラックに轢かれて死んでるよ」
「まじか。トラックに恨みでもあるのか?」
「違うよ。それは諸説あるけど、最も有力なのがとある漫画による影響なんだね」
「そうなのか」
だけど、このご時世、軽トラにも自動ブレーキが搭載されているからな。
いつか、思い通りに殺せなくなるんじゃないか?
「そんなことより、続きはっ」
と、思ったところで、里見が急かしてきた。
「ああ、それで起きたら真っ暗なところにいてよ。突然上から声がしたんだ」
「ふむふむ、でっ、それが神だったんだね」
「その通りだ。だが、普通な思考の持ち主である俺は神だとは思わなかった。そのせいで、神だとわかった途端テンパって、わけがわからないまま能力与えられて異世界に送り込むって言われたんだ」
あのときは本当どうしようかと思ったぜ。
「……………………それで、能力を使って戻ってきたんだね……………………勿体ないな」
「はっ? なわけないだろ。俺はよっぽど意味のわからん異世界に飛ばされるより、こうしてお前といる方が幸せだ」
当たり前だろ。
わけのわからない世界で魔王と死闘を繰り広げるより、この世界でのんびり暮らす方がいいに決まっている。
もし、能力を与えられたにもかかわらず、いやいや異世界に送られたやつは、嫌がっているように見せかけて、実は異世界に行きたかったに違いない。
俺は、異世界なんかより、俺をきっと待っていてくれていたであろう友と家族を取ったのだ。
「なっ、な、ななななにを言い出すんだよ、急に‼︎」
「照れるなよ。これでも感謝してるんだ。お前のことを思ったからこそ戻ってこれたんだ────それと、夏海っ!」
言い合いをまだ続けていた妹を、口論を止める意味も含めて呼んだ。
「っ、な、何よっ」
「お前は俺のことを嫌っているだろうが、これだけは言わせてくれ。ありがとうな、それと、今更だが兄らしいことをしてやれなくてすまん」
これは、もっと早くに言ってやるべきだったんだろうが、俺もそこまで気が回せなかった。
「はっ⁈ ちょっ、い、意味わかんないしっ! というか、気持ち悪いっ‼︎ いきなりどうしたの、お兄ちゃん? まじで頭狂ったのっ? 本気で病院探した方がいい?」
「っ……………………そこまで言う必要ないだろ………………………………それと、エリーを離してやれ、死にかけてるぞ」
妹はリーナから庇うようにエリーを抱きしめていたのだが、力が入りすぎてエリーが顔を真っ赤にして断末魔のようにジタバタしてるぞ。
「ダーリンっ‼︎ 私は? 私は何もないのっ?」
すると、口論をやめたリーナが迫ってきた────が、
「……………………すまんがない」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜っ‼︎‼︎‼︎」
ないものはないのだ。
てか、現時点でお前はトラブル以外に持ち込んだものはないんだよっ!
褒められたいなら、なにか普通のものを献上しに来いっ‼︎
「………………………………ねぇ、火脆木君? ちょっと聞いていいかな?」
「うん? どうした?」
今度は横に立って俺らの掛け合いを見ていた里見が何やら思い詰めたような声で聞いてきた。
「そう言えばさ、能力まだ聞いてないんだよね」
「ああ、そうだったな…………てか、なんだったかな? おい、エリー、俺なんて言う能力もらったっけか?」
「うん? 何だったかのう……………………っ、そうだっ、『しゅじんこうほせい』だったなっ‼︎」
ああ、そうだった。
すっかり忘れていたぜ。
「おおっ、それだそれだっ。里見も知ってるだろ…………里見?」
「………………………………火脆木君……………………なんで、それにしたのかな?」
「っ、な、なんでって、ぱっと思いついた拍子に口が滑ってしまってよ」
なんだなんだ。
里見の笑みが途端に怖くなったのだが。
「ふーん。口が滑った、ね。それにしても、平穏無事を至高と崇める普通大好き人間が『主人公補正』をちょっとでも望むなんて、口が滑ったと言えども、おかしくない?」
「? ちょ、ちょっと、待ってくれ! 主人公補正というのはどんな危険が降り掛かっても都合よく乗り越えられることを言うんじゃないのか?」
あのラノベを貸してくれる前に説明してくれた主人公補正ってのは、こんなはずだっただろ。
だから、異世界に行っても大丈夫だと思いついたのだが。
「っ! くっ、そういうことね」
「⁇⁇」
何がそういうことなんだ?
「確かに、そうとしか説明してなかったね……………………実は主人公補正の権能はそれだけじゃないんだ」
「はっ?」
どういう意味だよ?
それに、権能ってなんだよ。
「驚かないで聞いてね」
「あ、ああ、わかった」
里見の真剣な顔に思わずつばを飲み込んだ。
「………………………………火脆木君はもう……………………火脆木君か望む普通の生活は送られないよ、その能力がある限りね」
「はっ‼︎‼︎ どうしてだっ‼︎‼︎」
「『主人公補正』というのは、勿論火脆木君が言った通りの権能がある。だけど、それだけじゃないんだ────それは、トラブルに否応なしに巻き込まれる権能もあるんだ」
「なっ‼︎‼︎‼︎ ん、だとっ‼︎‼︎‼︎」
そんなこと聞いていないぞっ‼︎‼︎‼︎
「『主人公補正』には確固たる定義はない。だけど、言葉にすると『作品の進行のために主人公が受ける補正』だと思う。アニメやラノベみたいにテンポを重視する作品だと、まずトラブルや事件が起きないと平坦で面白くないものになってしまうから、止む終えずそうなるんだよ。例えば、君も知ってるアニメの少年名探偵だって、家で閉じこもってろっていうぐらい行き先で人が死ぬよね。それと、同じなんだ」
「な、ななななんだと………………………………」
嘘、だろ。
しかし……………………そう考えればこの二日の怒涛のような展開も、納得がいく…………………………………………いや、やめろっ‼︎‼︎
そんなはずがないっ‼︎‼︎
俺から普通を取ったら何が残るというのだっ‼︎‼︎‼︎
「くそっ‼︎‼︎ なら、神が降ってきたのもっ、親が家を出ていったことも、そうだと言うのかよっ‼︎‼︎」
「えっ‼︎‼︎ 親が出て行ったっ‼︎‼︎」
「はい、と言っても北海道に赴任したというだけです」
混乱の坩堝にいる俺の代わりに、妹が答えてくれた。
「じ、じゃあ、この家にはっ」
「ええ、あたしとエリーとお兄ちゃんの三人です」
「っ‼︎‼︎‼︎」
「そんなっ‼︎‼︎」
里見と、ずっと話の内容に追いつけず、おどおどしていたリーナが顔を驚愕に染めた。
「っ……………………これは、ボクの責任だっ」
「さ、里見……………………」
「ボクがなんとかするから………………………………必ず」
「…………………………………………お、おう」
驚きからすぐに復帰した里見が、リーナと妹を一瞥してから強く歯を噛み締めながら、誓いを立てるように言った。
その鬼気迫るような姿に俺は思わず、混乱していたことも忘れて立ち尽くした。
結局、空気は冴えないまま、解散する運びとなり、俺は静かに二人を玄関まで見送ったのだった。




