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魔法少女は暴虐すぎ。戦うべくして生を受け、美を求めて戦場に咲く  作者: 摩訶凜香


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第三十七章:魔王降臨

「一人でいらしたのね、お嬢様」キャンプ場で、ジェニーは焚き火の中から今朝釣り上げた魚を取り出し、口へと運び始めた。


「思っていたよりも優雅な暮らしをしておられますのね」マリはジェニーの隣に腰を下ろすと、手近な竹串を取り、マシュマロをいくつか突き刺した。火の上でクルクルと回転させて狐色に炙ると、そのまま口へと放り込む。


「お嬢様、あなたは本当に特別な存在ね。世の中のほぼあらゆる出来事が、あなたを中心に回っているかのようだわ」ジェニーは冷ややかに笑い、脇に置かれていた薪を火の中へとくべた。


「特別……ええ、あたくしは生まれながらにして群衆の中で特別な存在ですわ。特別な家柄、特別な立場、そして勿論……特別な美貌を備えておりますもの」


「それもそうね。……『もう一人のあなた』も、同じことを言っていたわ。マリ・ロザリア」ジェニーは立ち上がり、その表情をにわかに引き締めた。


「幼い頃、おじい様はよく壊れたオルゴールを手に、あたくしをあやそうとしてくださいましたわ。けれど、あたくしは毎回どの歯車が壊れているのかを正確に言い当ててみせたのです」


「『神はお前に、真実を聴き分ける魔法をお授けになられたのだよ、マリ』……おじい様はあたくしにそう仰いましたわ」


「この世界に、あたくしの目を誤魔化せることなど何一つありませんのよ」マリも立ち上がり、ジェニーに向けて不敵な笑みを浮かべた。


「ついて来なさい」ジェニーが指を鳴らすと、彼女の背後に次元の亀裂が出現した。ジェニーが踵を返してその中へ姿を消すと、マリも迷いなく後に続いた。


頭上には容赦ない太陽が照りつけ、大気中の魔力濃度は他のあらゆる異界を遥かに凌駕していた。視界の限り一面に広がるのは、白い砂漠の世界だった。


「ここは……?」マリはすぐさま魔法少女の姿へと変身を遂げると、音波を用いて周囲一帯の索敵を開始した。砂漠の底深くには、広大な廃墟の街並みが埋もれていた。


「魔法少女たちが産み落とされた世界よ。彼女たちが誕生した時には、この世界はすでにこのような姿に成り果てていたの」ジェニーもまた魔法少女へと変身を遂げ、剣と大盾を構えた。その佇まいは、交戦の覚悟を物語っていた。


「お嬢様は、魔法少女が何のために誕生したのだと思うかしら?」ジェニーが剣を振り下ろし、マリへと襲いかかる。金属と金属が激しくぶつかり合い、眩い火花が散った。


「もう少し涼しい場所を選んで戦えませんの!?」マリが大剣を疾風のごとく薙ぎ払い、生み出された衝撃波が周囲の砂塵を巻き上げた。


猛烈な砂嵐がジェニーの鎧の隙間へ滑り込み、その肉体を容赦なく引き裂く。瞬間、血煙が舞い散ったが、ジェニーはびくともせずその場に立ち続けていた。


「お嬢様、どうやらお気づきのようね」ジェニーが身ぶるいすると、彼女の肉体に刻まれた無数の傷口が、肉眼で見て取れる恐ろしい速度で塞がり始めた。


「『兵器』……どうやらどの世界でも、考えることは同じようですわね。資源が枯渇すれば、最も手っ取り早い手段は略奪と植民。そのためには兵器が必要不可欠ですもの」マリの動きは苛烈を極めていた。大剣が誇るリーチの優位性を存分に活かし、ジェニーに大盾を構えさせて後退を余儀なくさせる。


「やはりね……あなたはこの世界の支配者たちと同じ思考回路をしているわ」ジェニーは大盾をしならせてマリの大剣を弾き返すと、目にも留まらぬ突きを放った。


しかしマリは体を低く沈めてそれをかわすと、そのまま距離を詰めて大剣の柄頭でジェニーの胸元を力任せに打ち据えた。鎧に亀裂が走るが、それも瞬く間に修復されてゆく。


「貴族とはそういう生き物ですのよ。まさかあたくしをわざわざこんな場所まで連れ出しておいて、そんな説教を聞かせるつもりではありませんでしょうね?」


数歩後退したジェニーを見据え、マリの表情に怒りの色が混じり始めた。


「使徒こそが、あなたの破滅よ」ジェニーは再び剣を固く握り直した。


「破滅? あんな醜悪な化け物が、あたくしの最期の姿だと仰るのですの?」マリは失笑した。初めて使徒と遭遇したあの瞬間から、己がいずれあのような姿へ成り果てる可能性について、幾度となく思考を巡らせていたのだ。


「ドゥーさん……あなた、一体何者ですの?」マリは足元の砂を蹴り上げて視界を奪うと、渾身の一撃を叩き込んだ。ジェニーの大盾を一刀両断し、そのまま勢いを殺さずに彼女の剣をも切り落とした。


「私は決めたのよ。あなたをあんな醜い姿になど、絶対にさせないってね」数歩後退するジェニー。マリの猛攻は彼女の予想を遥かに超えていた。


「あなた以前、現実世界で他人に擬態できる使徒を討ち取ったと仰っていましたわね?」マリは不敵な笑みを浮かべた。


現代の火器さえあれば、あの使徒を仕留めること自体はそう難しくはない。だが奴は恐ろしいほど執拗で忍耐強く、利用できるあらゆるリソースを駆使して追いつめてくる。


もし自身におじい様がおらず、貴族でもなかったならば、どこかの陰で自ら命を絶たされていたかもしれない。それほどまでに奴は追い詰めることに長けていたのだ。不法滞在者のような立場に過ぎないジェニー・ドゥーのような者なら、警察に通報するだけで容易く足すくいを掬えたはずである。


「あの使徒が口にしていた『救世主』とは……あなたのことですわね、ジェニー・ドゥー」マリは冷ややかに言い放った。それは確証のない、ただの推測に過ぎなかったが。


「流石はお嬢様ね。ええ、『狩猟の使徒』……彼女は現実世界で自由に暗躍できた唯一の使徒だった。生き残ったのがあなたたち数人だけなのも、彼女の『功績』によるものかもしれないわね」


「ならば、なぜあたくしに彼女の情報を流したのですの?」マリは大剣を砂地に突き立て、理解不能といった眼差しでジェニーを見つめた。目の前の相手が魔王であろうとなかろうと、自分に刃を向けた瞬間、彼女を抹殺することを決意していた。


この徹底した冷酷さこそが、優子や亜紀といった他の少女たちと一線を画するマリの本質なのだ。


「裏切り? ……いいえ、奴の言う救世主が私であることは確かよ」ジェニーは打ち砕かれた盾と剣を投げ捨てた。


「ならば……死になさい」マリが指を鳴らした瞬間、血飛沫が舞い、肉片が四散した。マリは電子レンジの原理のごとく超高周波で相手の体内の血液を直接振動させたのだ。――しかし、どこか違和感があった。ジェニーはまるで自ら進んで刃へと身を投げ出したかのようだった。


「けれど……私のやりたかったことは、あなたと同じだったのよ」吐き出された鮮血が紫色の結晶へと変わり、一瞬にして眩い白光が視界を埋め尽くした。光の眩暈の中で、マリは魔法少女の変身が解けたジェニー・ドゥーの姿を目撃した。


彼女の身体は清廉な白光に包まれ、その背には三対――六枚の潔白な羽翼が大きく広がっていた。


「我は第一の絶滅者にして、神を冒涜せし者――サタン。マリ・ロザリア、あなたがこの器(牢獄)を打ち砕いてくれたのよ」耳元で囁く声。ほんの一瞬の出来事だった。彼女はすでにマリの至近距離へと肉薄していた。


「あたくしが……こんなところで……討たれるとでもお思い……!?」腹部を灼熱の痛みが襲い、五臓六腑が激しく攪拌されるような激痛が突き抜けた。相手の光刃がマリの体躯を貫いていたのだ。だが、マリは最後まで不敵な笑みを崩さなかった。光刃が消え去ると同時に、その華奢な体が静かに砂地へと崩れ落ちた。


サタンは深く溜息をつくと、空を見上げ、次元の亀裂を抉り開いた。


「さようなら、女王陛下。あなたにお会いでき、今なおこの世界に愛されている姿を見られて幸福でしたわ。……あなたが絶望の果てにこのような姿へ堕ちてしまう前に、この手で罪を断ち切ることができて」


数年前、この世界へと降臨した際、彼女は大半の力を失い、ただの魔法少女へと身を落としていた。その後、狩りを重ねて少しずつ魔力を奪還し、残された行程はあと僅かとなっていた。強力な魔力を保持したまま死亡した魔法少女は、使徒へ……あるいは『魔王』へと変貌を遂げる。


その日、魔王がこの世へと降り立った。漆黒の夜空が昼間と見紛うばかりの閃光に包まれた――しかし、それもほんの一瞬の出来事に過ぎなかった。


「まさか……ね」六翼を揺らめかせる魔王は溜息をつき、目の前に立つ二人の少女を見据えた。


再び現世へと舞い戻ったその瞬間、待ち受けていたのは容赦のない弾幕の嵐だった。猛烈な爆炎と衝撃が収まった時、彼女が足をつけていたのは、無数のクレーターが穿たれた荒涼たる大地――月面であった。このような芸芸を成し遂げられるのは、優子と亜紀の二人をおいて他にいない。


「先輩、凄すぎますよ……まさかこんな仕掛けを考えておくなんて」


「いつかこの日が来ることを想定し、被害を最小限に抑えたかっただけよ」


優子が魔法書を開き、亜紀が重厚な銃口を魔王へと向けた。彼女たちこそが、この世界に残された最後にして唯一の魔法少女たちであった。

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