第三十三章:黒船の双子
生き返った
学園祭の二日目。マリは昨日と変わらずメイド服に身を包み、優雅に来客をもてなしていた。彼女の所属するクラスは相変わらず黒山の人だかりで、まるで昨夜の壮絶な戦いなど何事もなかったかのような賑わいを見せている。
唯一変化したことと言えば、担任の教師が教育実習生へとすり替わり、周囲の人間を含めて「マリに散々振り回された記憶」が都合よく補完されていることくらいだった。
「ロザリアさん!」昼休みに差し掛かろうとする頃、一人の女子生徒が慌ただしく駆け寄ってきた。
「どうなさったのかしら?」マリはぱちくりと瞬きをして彼女を見つめた。相手の動揺ぶりは尋常ではなく、確か生徒会の幹部を務めていた生徒だったはずだ。
「あのね、さっきから校内で『変な外国人』を見たって生徒たちが大騒ぎしていて……!」焦りを隠せない様子で報告するが、学園祭に外国人が来場すること自体は別段奇妙なことではない。それに、マリ自身もこの学校で唯一の外国人留学生というわけでもなかった。
「外国人……ですの?」マリは小首を傾げ、不思議そうに瞳を丸くした。
「Wo ist unser liebes Schwesterchen?(僕たちの愛しい妹はどこかしら?)」突如、背の高い金髪の男女二人が優雅な足取りで教室へと足を踏み入れてきた。
男性の方は長身で仕立てのいいスリムなスーツを着用し、中性的な気品に満ちた麗しい美貌を誇っている。知性を秘めた鮮やかな青い瞳は、まるで高級ホストクラブのトップキャストを思わせた。
女性の方も背が高くスタイル抜群で、軽くウェーブのかかった美しい金髪をなびかせている。
軽やかなタイトスカートのドレスを身に纏い、男性と同様に中性的な美しさを誇り、夜の街を彩るドレスキャストさながらの華やかさを放っていた。
「ウィリアムお兄様、エリザベスお姉様……! どうしてお知らせもなしにおいでになられたのですの?」目の前の二人を見つめ、マリは信じられないといった表情を浮かべた。
「あら、メイドさん?」マリの姉・エリザベスが近づき、マリの装いを物珍しそうに眺める。
「違いますわ、腕利きの宮廷騎士ですのよ!」マリは背中の大剣をコンコンと叩き、二人をじっと見つめ返した。確か昨日の時点では、二人はドバイかどこかに滞在していたはずだった。
「僕たちはね、ちょうど日本で片付けなければならない用事ができてね。愛しい妹の顔を見に立ち寄ったのさ」ウィリアムは愛おしそうに手を伸ばし、マリの頭を撫でた。
「ただ、周囲の視線が少し痛いわね」
エリザベスは苦笑した。最近まで贅沢な国に滞在していたせいで、手元にあるワードローブといえばこういった派手なスタイルのものしかなかったのだ。
「すまないが、マリを少々お借りしても? クラスの皆さん」ウィリアムが振り返り、近くにいたマリのクラスメイトたちに声をかけた。
「ええ、大丈夫ですよ! マリちゃんも丁度シフトの休憩時間ですし」フロア担当のクラスメイトが快く応じた。備品の補充や清掃を行うタイミングでもあったためである。
三人は並んで校内を散策した。マリの兄姉にとって、アニメーションの中でしか見たことのない日本のアニメ的な学園祭の光景は、すべてが新鮮で興味深かった。
「これが噂に聞く『B級グルメ』というやつかい?」ウィリアムは焼きそばパンを手に取り、豪快に口の中へ放り込んだ。
「我が半身よ、歩き食いなど品性を疑われますわ」エリザベスが呆れつつも、紙ナプキンをウィリアムへ差し出した。
「感謝するよ、半身」ウィリアムは口元を拭い、三人は射的の露店へと足を進めた。
「半身、何か欲しいものはあるかい?」ウィリアムは店番の生徒にお金を支払うと、エアーガンを手に取った。
二人が互いを『半身』と呼び合うのは、日本のアニメの影響もさることながら、「双子である自分たちの間にわざわざ上下関係や長幼の序を設けるのは奇妙だ」という独特の感覚によるものが大きかった。
「そうね、あの特大のウサギのぬいぐるみが欲しいわ」エリザベスが一番大きなウサギのぬいぐるみを指差した。
だが通常、エアーガンのプラスチック弾の衝撃程度で、あのような大型のぬいぐるみを落とすことなど不可能なはずだった。
「同感だ。だが、それには少々助けが必要だな」ウィリアムは追加の代金を支払うと、二丁目のエアーガンを購入してエリザベスへと手渡した。
「ええ、任せて、ウィリアム」エリザベスは手慣れた手つきでエアーガンを受け取ると、二人同時にウサギのぬいぐるみへと銃口を向けた。
店番の生徒は内心でほくそ笑んでいた。あのぬいぐるみは客寄せの看板に過ぎず、エアーガンで落とせるわけがないとタカをくくっていたからだ。
しかし次の瞬間――パンッ! と引き金が同時に引かれ、二発の弾丸が完璧な同調でぬいぐるみの両肩を打ち抜くと、その衝撃でぬいぐるみは見事に棚の上から転がり落ちた。
「な……!?」
店番の生徒は目を丸くし、呆然としながらウサギのぬいぐるみを手渡した。
「ウィリアムお兄様、エリザベスお姉様! すごいですわ、最高ですの!」
マリは燦然とした笑顔を浮かべ、パチパチと手を叩いた。
「これ、マリにあげるわね」
エリザベスは受け取ったぬいぐるみを、優しくマリへ手渡した。
「噂で聞いたけれど、最近『堀町』とかいう一族に嫌な思いをさせられたそうだね。だが安心していい、オーパ(おじい様)がすでに彼らに十分なお灸を据えておいたからね」ウィリアムが優しくマリの頭を撫でた。
「かなりの人間が巻き込まれたようね。動画も見たわ。本当に腹立たしかったけれど……歌声で気高く反撃するマリの姿、私たちもしっかりと見届けたわよ」エリザベスもマリの頭に手を置き、愛おしそうに目を細めた。
「君は僕たちの誇り高き妹だ。その背中の鉄剣についた無数の傷跡……相当な時間を鍛錬に費やしたのだろう?」ウィリアムは微笑みながら、マリの背中の鉄剣を指差した。
「ええ……本当にとってもたくさんの時間を鍛錬に捧げましたわ」マリは笑みを浮かべた。魔法少女の秘密だけは、絶対に隠し通さねばならなかった。なぜならこの概念が世に明かされた瞬間、世界を滅ぼす災厄が降り注ぐことになるからだ。
「今度会う時は、心からの本物の笑顔を見せて頂戴ね」エリザベスはマリの手を強く握り締め、温かな眼差しで見つめた。
「……どうやら時間がないようだ」ウィリアムは腕時計に視線を落とし、少し眉をひそめた。
「『ロザリアの家訓』……覚えているかしら、マリ?」エリザベスが背筋をすっと伸びやかに正すと、ウィリアムも同様に背筋を伸ばした。
「勿論覚えておりますわ!」マリは燦然とした笑顔を浮かべ、二人と同じように凛と背筋を伸ばした。おじい様がご存命だった頃、口酸っぱく教え込まれた大切な言葉だ。
「戦うために生き、美のために戦う。人生とはすなわち、舞台なり!」三人声を揃えて叫んだ。幼い頃、幾度となく一緒に叫んだ懐かしい合言葉。――もっとも当時、彼らがこの言葉を熱心に叫んでいた本当の理由は、ある熱血アニメの名シーンに深く感銘を受けていたからなのだが。




