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第十三章:魔女の鉄槌

魔法、それは一体何なのだろうか。


使徒を撃破した経験を持つ魔法少女である優子やマリですら、未だその全貌の片鱗を窺い知る(うかがいしる)に過ぎない。しかし、優子が確信していることが一つあった。


――「魔力」という名のこの新たな力は、あるいは完璧に近い、ということだ。


外見は十代の少女に過ぎない彼女たちを一晩にして神の座へと押し上げることもあれば、野心家たちを誘惑し、彼女たちに近づき利用するためにすべてを投げ打たせることもできる。


大国の権力闘争ゲームに巻き込まれるのは決して賢明な選択ではなく、下手をすれば魔法少女を標的にした不条理な条約を生み出しかねない。


それに、人類は魔力をどう運用するというのか? 発電所を建設するのか? それとも、毀滅的な兵器を鋳造するのか?


それらは、本物の使徒を前にした時、本当に役に立つのだろうか。国連の効率の悪さは、誰もが知るところであった。


さらに言えば、優子自身にも証明ができなかった――この力が普通の人類にとって安全なものであるかどうかを。なぜなら、数多の戦闘を経験する中で、彼女はある恐るべき事実に気づいてしまったからだ。


消滅させた異界の残渣ざんさの一部は……おそらく、かつて人間だったもの。別の世界の人類だったのではないか、と。


これらの懸念を総合し、さらに人類の歴史とマリの態度を鑑みた結果、生き残った魔法少女たちは、この世界から魔法の存在を隠蔽することを決意したのである。


「あなたのヒロイズムを否定するつもりはないわ。けれど、魔法少女として、あなたは些か行き過ぎている」


「行き過ぎ? あたしはただ、法律の届かない悪党どもを制裁してるだけ。あたしは、そういう英雄にならなきゃいけないんだよ!」


少女は男に向けて引き金を引いた。刹那、激しい銃声とともに鮮血が彼女の頬へと飛び散る。


彼女は迷彩柄の大衣オーバーコートを羽織り、内側には緑色のスカーフとスカートを合わせたセーラー服を身に纏っていた。黒紫色の長い髪はポニーテールに結ばれている。


「あなたが英雄として白日の下に晒されたその瞬間こそが、――【魔女の鉄槌】が編纂される時よ」


「ま、そーかもね。つか先輩、あんたが救いたいのは、こんなクズどものいる世界ってわけ?」


「そうではない。けれど、私には世界を救わねばならない理由がある。そして、君は私の邪魔をしている」


「ご立派な理由っしょ。悪いけど、あたしには無理。自分の戦いのせいで、一部のクズどもがのうのうと生き延びるとか、マジで無理だし受け入れらんない。」


「生き残りの魔法少女として、君はこの世界が何に直面しているか分かっているはずだ」


「そ。あの化け物どもが世界を蝕んでるわけ。であたしには世界を救う力があるし、神様からその責任ロールを授かったって感じ? ……でもさ、他の魔法少女なんて一人も見なかったし。先輩、ぶっちゃけどーやってあたしを見つけたわけ?」


「私には、引き出しの中にスカウトの名刺を山のように溜め込んでいる同伴者がいてね。その名刺の持ち主たちを魔法で追跡したら、君に辿り著いた」優子は面無表情に淡々と語ったが、その脳裏には、マリから渡された名刺入れの光景が浮かんでいた。元アイドルのマリは犯人の思考パターンをトレースすることができたため、これらの名刺を提供してくれたのである。


「なるほどねー。あんたのツレ、あたしのことマジで理解わかってんじゃん。」


「あいつは、およそ一般的な意味での『善人』からは程遠いけれどね」


「先輩、あんたには世界を救う理由がある。理想の崇高低なんて関係ない。あたしは自分の行動を続けるだけ」相手は銃口を優子へと向けた。


「理想が崇高とかマジ関係ないし。あたしは自分のやり方で動くだけだから。」彼女が引き金を引くと、無数の弾丸が優子に向かって噴き出した。


「やはり、一筋縄ではいかないか」


優子は白銀の巨斧を振るい、その斧面で弾丸を受け止めた。それは、かつての同伴者たちが遺した形見であった。あの日、逝ってしまった彼女たちに対し、優子は必ず世界を救うと誓ったのである。


「先輩の力って、そんなもんじゃないっしょ!」


少女はいくつかの小さな球体を投げつけた。刹那、部屋全体が目を灼くような強烈な光に包まれ、同時に金属の激しい衝突音が響き渡る。


「逃げないつもりか?」


優子は相手の銃剣バヨネットを受け止めていたが、膂力りょりょくにおいては僅かに圧されているようだった。


「ここでケリつける気だし!」


「……ならば、いいだろう」


優子は斧刃に力を込め、相手の銃剣を激しく弾き返した。しかし、その反動で優子自身も次の反撃への体勢を失ってしまう。


「ホントはさ、人なんか殺したくないんだよね。」


少女はポケットからマガジンを取り出し、第二次世界大戦期のものと思われる古い型の小銃ライフルへと装填した。


彼女がまさに引き金を引こうとしたその瞬間、電流が走ったかのような劇痛が彼女の身体を襲い、麻痺させた。見れば、彼女の足元には無数の蟻が這い回っていた。


「サシハリアリ(パラポネラ)。毒性を強化してある。死に至ることはないはずだ」


「あんたの前じゃ……あたし、ただの感情で動くガキってこと? マジウケる……」


彼女はその場に膝を突いた。蟻の猛毒による激痛で涙が止まらないというのに、その瞳には未だ強情な反骨の光が宿っていた。


優子が歩み寄ろうとした瞬間、足の裏に硬い感触を覚えました。


「ビンゴ(Bingo)」


少女が歪んだ笑みを浮かべた刹那、凄まじい大爆発が巻き起こり、彼女と優子の身体を同時に吹き飛ばした。激痛の中で、少女は辛うじて肉体の制御権を取り戻した。


「やはり……直接戦闘は私の専門外だな」優子は部屋の隅へと倒れ込み、その眼前には再び銃口が突きつけられていた。


突如、部屋のドアが粉々に打ち砕かれ、マリが悠然と足を踏み入れてきた。


燦然さんぜんたる屠殺者メリースローター、参上! ……あ、ちなみに周囲の人間は全員気絶させておきましたわ」


「あんたが、あいつのツレ……?」相手は銃を構え直し、警戒を露わにしてマリを睨みつけた。


「どうやら、あなたが例の『芸能界に強い怨恨を抱いている手合い』のようですわね。……あたくし、下手をすればあなたのファンだったかもしれませんわよ?」


マリは剣を掲げると、一気に突撃チャージを敢行した。それに応じるように、密度の高い銃弾の嵐が放たれる。


しかし、マリの放つ音波の障壁が銃弾の軌道を強引に偏転させ、さらにその鋭敏な聴覚は相手が仕掛けたトラップをも正確に探知していた。


剣刃が小銃の銃身ガンバレルへと重々しく叩きつけられる。直後、マリは流れるような動作で回し蹴りを放ち、相手を無残に床へとへし折った。接近戦において、マリの実力はほぼ圧倒的であった。


「強い……っ!」彼女は口から鮮血を吐き出し、床に倒れ伏したままマリを見上げた。


「あたくしが思うに、ここであなたを半殺しにしたところで、あなたはまた殺人を続けるのでしょうね。……何しろ芸能界というのは、それほどまでに人を憤慨させる場所(伏魔殿)ですから」マリは首を振ると、手にした剣をその場の床へと突き立てた。


「あんたに……あたしの何が分かんのよ……」


「あなたに足を止めろとは言いませんわ。ただ、もう少し『スマートな方法』をお使いになりなさい、と言っているのです。例えば……先ほど、あたくしがここへ来る途中で、刺青タトゥーを入れた怪しげな男たちが大勢こちらへ向かってくるのを見かけましたわ」


マリは弾痕の穿たれた死体へと歩み寄り、その男の懐からリボルバーを取り出すと、死体に向けて数発の銃弾を撃ち込んだ。


「後でここに火でも放っておけば十分ですわ」


彼女は一切の邪気のない、しかし酷く歪んだ悪い笑みを浮かべた。すべてが彼女の掌の上にあるかのように。


「何してんの、あんた……」


「魔法というものは、公にされてはならないのですわ」突如として、マリの表情から笑みが消え、厳粛な冷徹さが取って代わった。その瞳の奥には、黒い怒りの炎が静かに燃え盛っているかのようだった。


「あんた……」


「あたくしは、かつてある世界を見たことがありますの。そこでは人々が、自分たちを救った救世主を、自らの手で『反応炉』へと叩き込みましたわ」彼女は少女に向かってゆっくりと歩を進めた。


「それが……どーしたってわけ……?」


「この世界の人類も、間違いなく同じ選択をしますわ。それは必然であり、逃れられぬ宿命ですもの」突如としてマリは変身を解除した。彼女の身体を包んでいた魔力の光が霧散し、その下に隠されていた本来の姿が露わになる。


「変身したところで、変わらないものがいくつか存在しますの。発声の癖、心拍の周期、そして――身長ですわ」


「ですから、その怒りも少しは抑制なさいな。――亜記あき」マリは微笑みを浮かべ、床に倒れ伏す亜記に向かってそっと右手を差し伸べた。


「マリちゃん……なんで……っ!?」相手は驚愕に目を見開き、同時にその変身が解けていく。

そこにいたのは、マリがかつて共にステージに立っていたあの同僚――秋本亜記あきもと あきの姿だった。

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