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第十一章:まさか優子先輩、将来は昆虫学部でも受験なさるおつもり?

マリの自宅にある広々とした剣道場の中。


優子は一人、薙刀なぎなたを黙々と振るい、マリはそれを傍らで眺めていた。


道場の太い柱に背を預け、両手を胸の前で組んだその視線は、まるで誰かの個人公演ソロステージを値踏みしているかのようだった。


「変身ななさなければ、先輩も心音以外は普通の女の子と大差ありませんのね」


優子の動きを見つめながら、マリは意地の悪い笑みを浮かべ、 挑発を含んだ柔らかな声調で言葉を投げかけた。


マリの記憶が確かであれば、優子の学校での体育の成績は、せいぜい「普通」の域を出ないものだったはずだ。


優子は応えず、ただ次第に荒くなっていく呼吸のまま、実直に薙刀を振り続けた。その一挙手一投足は一絲乱れず、まるで目の前にいる見えない敵に対して、一撃一撃を叩き込んでいるかのようだった。額に張り付いた前髪から、汗がとめどなく流れ落ちる。


「武器を扱うコツなんて、実のところ走り高跳びと大して変わりませんわ。位置の移動によって動力を生み出し、その動力を敵へと叩き込む。それだけですもの」


それから十分ほどが経過した頃、優子はついに限界を迎え、両脚の力を失ってその場にへたり込んだ。

畳の上に力なく落とされる薙刀。だらりと垂れ下がった両腕、全身から噴き出す汗、誠に激しく上下する胸元。


「どうぞ」


マリは傍らに用意しておいたスポーツドリンクを取り出すと、優子の前に半蹲しゃがんで差し出した。


「おやおや、先輩の心臓にも、まだそんな生理的な変化が起こるのですわね」


珍しい生物でも観察するかのように、マリはその姿をまじまじと見つめた。


「私はまだ人間だよ」


ドリンクを受け取り、口元の汗を拭った優子の口調は平坦だったが、その眼差しには未だ揺るぎない光が宿っていた。


「あたくしの友人が言っていましたわ。危うくあの地下芸能事務所の被害者になるところだった、と。警察もすでに多くの被害者を確認しているようですわね」


マリはポケットからスマートフォンを取り出し、画面をスクロールさせた。視線はニュース画面に落とされたままで、その声調は淡々としている。


「ご覧になって。悪質な連続殺人事件。現場からはやはり、銃器の形跡が一切見つかっていませんわ」


彼女はスマートフォンの画面を優子の前に差し出した。


「先輩は、他の魔法少女に会ったことはおあり?」


「生きている者なら、あたくしもあなた以外にはお目にかかったことはございませんわね」


マリは肩をすくめ、まるで冗談でも言うかのように笑った。


「これほどの芸当が可能なのは魔法だけですわ。蝿や蟻の戦闘効率では、近代銃器の足元にも及びませんもの。……それにしても、先輩はなぜそれほど虫を使った戦闘にこだわられますの? まさか優子先輩、将来は昆虫学部でも受験なさるおつもり?」


「私たちが使徒や異界への根本的な対抗策を見つけ出す前に、内輪揉めで魔力を消耗するのは、非常に愚かな行為だ」


優子は平淡な声で告げ、右手で無意識に薙刀の柄を転がした。


「内輪揉め、ですか。対話で解決できるならそれがベストですわね。それに、彼女を誘い出すことくらい、あたくしにとっては大した難事ではございませんわ」


マリは優子を振り返った。その声調は軽快なままだったが、その瞳の奥には針のように鋭い光が宿っていた。


「自分自身の正義感を満足させる、という意味か」


優子は静かに応じた。マリの言葉の裏にある動機を、確かめるかのように。


「率率直に申し上げて、あたくしも道徳的な立場においては彼女を支持しておりますわ。何しろ、彼女が殺したのは悪党ですもの。女の子の青春をただの道具扱いし、消費し尽くしたらゴミのように投げ捨てる、そんな連中クズですわよ」


「……君にも共感能力というものがあったんだね」


優子は新種の生物を発見したかのように彼女を見つめ、眉先を微かに動かした。


「あたくしだって冷血動物ではございませんわ。それに、Opa(おじい様)とOma(おばあ様)が毎日それはもう心配なさって、あたくしに『他人とは五メートル以上の距離を保ちなさい』って口酸っぱく仰るのですもの」


マリはそう言いながら、五本の指を一本ずつ数えるようにして優子の目の前に突き出してみせた。


「五メートル?」


優子は眉をひそめ、額から一滴の汗が流れ落ちた。


「人間が刃物に対して反応できる限界の距離、ですわ。ですが、あたくし足が速いですから。それに、催涙スプレー(ペッパースプレー)はアイドルの良き相棒(お友達)ですのよ?」


マリは楽しげに笑いながら、スプレーを撒き散らすようなジェスチャーをして、その場でくるりと一回転してみせた。翻る制服の裾。その語尾には、どこか悪戯めいた跳躍感が混ざっていた。


「君が以前言っていたはずだ。『普通の女の子が刃物を手にしたところで、本物の兵士には敵わない』と。それは魔法少女にも適用される」


心拍数が平穏を取り戻したのを感じ、優子は再び立ち上がって薙刀を強く握り直した。


「――なぜなら、もしあたくしが彼女の立場なら、もっと鮮やかに(手際よく)仕留めてみせますもの」


優子は一歩を踏み出した。

今度の斬撃は、技術的にはまだ稚拙であったものの、先ほどとは比べ物にならないほど、鋭く、鋭利な一撃だった。

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