雅樹、瞬の担任との出会い
瞬の実家の栃木に到着した英家一同。
学校にて瞬の担任、大場と対面する。
~第8話~ その二
目的地の都市に到着した英家、学校とのアポの時間までかなり余裕があるため、先に瞬の案内で瞬の自宅へと向かうことにした。
『ソコの角を右に曲がって、突き当たりの家です。』
『OK!じゃあ家の前に車を停めるよ。』
車から降り立った一同は思い思いに身体を動かす。
瞬はポケットから自宅の鍵を取り出すと玄関の鍵を開ける。
カチャっと小さな音がドアの解錠を告げる。
瞬は一瞬目を閉じ、スゥっと息を吸い込み、覚悟を決めた様に目を開き一言…
『ただいま…』
それはもしかしたら両親が帰ってきているかもしれない…そうであって欲しい瞬の祈りにも似た願いだった。
無情にも祈りが届くことはなかったが…
橘家から瞬の荷物を引き上げ、車に積み込むと…
甲高い声の年配の女性が声をかけてくる。
『瞬ちゃん!瞬ちゃんじゃないの!アンタ何処にいってたの?』
瞬はこの年配の女性が苦手な模様で戸惑いながら返事を返す…
『あっ、あの…』
『ご両親もいなくなったし、アンタまで急に何も言わずにいなくならないでよ!どんだけ心配したと思ってるの!』
言い方はキツいが瞬の事を心から心配しているのが見て取れる。
『はじめまして。私は英雅樹と申します。こちらは妻の香奈、娘の由香です。実は瞬の遠縁に当たりまして瞬は私を頼ってくれまして…』
『そうなの?親戚いないって聞いてたから、瞬ちゃんどうするのか気になってたのよ~。
このままなら瞬ちゃんは施設に行かざるを得ないって聞いてたから、ウチに来てもらおうかって旦那と話してたのよ~。でもここから離れるのもいいわね。』
コレは瞬の身の回りの出来事を把握していると判断した。それでも瞬を迎え入れる気概を見せてくれた女性に感謝の気持ちを抱く。
香奈も話を併せる。
『瞬君、あまりにも久しぶりにあったので大きくなってビックリしたんですよ~。瞬君の身の回りの話を聞いて、ウチに来てもらおうって話をしてたんです。それで転校の話もしに来たんですよ』
本当に悲しそうに女性が俺達に頭を下げる…
『お願いだから瞬ちゃん助けてあげて。この近所の人も好き放題に噂を鵜呑みにして…誰が一番傷ついてるって瞬ちゃんなのに…』
『おばさん、ありがとう…落ち着いたら、両親が帰ってきたら僕もここに帰ってきます。』
『アンタは自分の幸せを考えなさい。英さん、よろしくお願いします。』
口うるさそうな感じはするものの瞬を大切に思ってるのが伝わってくる。
そうこうしているとアポの時間が近づく。
学校に向かうとするか…あの担任、大場は個人的に許せん…
学校に到着すると大場が待ち構えていた。
『改めてご挨拶しますね。私は橘の担任をしてます、大場と申します。』
『急な対応、ありがとうございます。改めて英と申します。今日はよろしくお願いします。』
と互いに心のこもっていない社交辞令の挨拶を交わす。
しかし、この担任目の前に生徒である瞬がいるのに関わらず何も声を掛けてこない。電話でもしばらく登校してなかったと言っていた…
コイツ…
担任は俺達を指導室に案内する。中にはパイプ椅子と折りたたみの長テーブルがある。
着席を促されると素直に席に着く。
『それでは早速ですが、瞬の転校について話を…』
『その前に、橘のご両親の承諾はあるんですか?
保護者と証明出来る物は…』
コイツ…いけしゃあしゃあと…
『こちらが、ただ今各種手続きを行っている証明です。我々の証明も兼ねて、こちらの弁護士さんと連絡を取って頂いても結構です。』
おお!香奈から殺気が…
『先程、大場先生は承諾と、おっしゃってましたが瞬の両親が現れなかった場合瞬をどう扱うかお聞きしたいですね。』
『それは…行政とも連絡を取り合ってですね…』
『その行政の担当部署は?担当者の名前も教えてくれますか?』
『いえ、まだ何も…』
『何故ですか?現状、瞬は、にっちもさっちもいかない状態ですよ?まともな生活も望めない…それなのに周りの大人は何をしてたんですか?』
俺は静かに大場に問いただす。
俺と香奈の後に控える由香は大場を射貫く様な目している…由香も我慢の限界か?
逆に瞬は下を向き両膝の拳を血が滲む位に強く握りしめている…
『いえ、橘から助けて欲しいと言われなかったので…』
『そうでしょうね。貴方方の瞬に対する行動、発言を聞いたら助けを求められない、信用できないって思うのは当然ですね。』
『いや、橘から何を言われたか解りませんが…』
『そうですか…実は先日の電話、《何故か間違って録音されてた》んですよね…。大場先生がおっしゃっている、瞬の評価再度確認しますね。』
俺は録音を再生し始める。
途端に担任の顔色が悪くなり、指導室の温度が急に冷え込むのを感じた…
室温を下げた張本人の香奈が怒りを抑えて俺に静かに問い掛ける。
『この録音の話し、私は何も聞いてないんですけど…?』
実の所、俺は瞬の話を聞き、大場先生の人間性を疑っていた為、あらかじめ録音をしていたが、あくまでも偶然と言い放つ。
強い怒りと共に香奈の表情から笑顔が消える…
由香は母親が完全に怒り狂っているのを表情から察した。
そして普段の父親が見せる事がない、暗く冷たい笑顔を浮かべている…
《パパが真っ黒な蛇が見えるよ…こんなパパ初めて見る…》
『後で怒られるのは覚悟上で、あえて伝えなかった。そうでなければ香奈は話し合い所ではないから。
さて、ここからは大人同士の話し合いかな?大場先生もその方が宜しいのでは?』
『は、はい…』
『それじゃあ瞬君、由香を学校案内してきてくれるかな?』
俺の一言に大場が反応する。
『そっそうですね、橘君、そちらのお嬢様も一緒に学校を案内してあげてくれるかな?』
大場は今すぐにでも逃げ出したい気持ちが透けて見える…俺や香奈も圧が出ているだろうが、娘の由香は殺気が漏れ出している。
この気の弱そうな大場なら怯えているだろう。
そんな《教師》の姿を《生徒》の瞬に見せたくないと、プライドがそう言わせたのは簡単に想像できる。
大場から声をかけられた瞬はこの場の空気の重さ、この場の支配者でもある雅樹に少し怯える。
『は、はい…それじゃあ、由香さん行きましょう…』
瞬の動揺を感じ香奈が優しく瞬に伝える。
『そうね、瞬君も転校する事になるでしょうからお別れを兼ねてゆっくり見てきなさいね?』
この言葉で二人は退席する事となる。
その後、学校を見て回るこの二人が更なる騒動を巻き起こす事は誰も予想していなかった…
さて、二人とも行ったかな?
ここから先は瞬には聞かせられない。
チラリと香奈を見るが笑顔が消え、無の表情だ…
香奈の表情から怒りの感情しか感じられない。怒りのあまり、言葉すら出てこない。
こんな香奈をみたのは極わずか…
次回は俺自身に向けられない事を祈ろう…
(しかしこの後しっかりと怒られる俺なのであった…)
『で?大場先生、何か言いたい事はありますか?』
大場は真っ青な顔をして止まることのない脂汗を流し続ける。
『………』
大場は必死に言葉を探すが何も出て来ない…
普段の俺なら相手の逃げ道を塞ぐ言い方はしないのだが…
『たまたま録音されたこの音声、先程大場先生がおっしゃっていた事と矛盾してますが?』
俺は淡々と笑顔で質問を繰り返す。
その状況はさながら取調室のようであった…
その三に続く
瞬が学校で受けた仕打ちにどう立ち向かう?
普段の雅樹からは想像できない怒りが…
栃木編は長編ですが、お付き合い下さい。




