雅樹はヒーロー?
雅樹がスーパーで働く裏側で香奈は瞬を連れて都心の高層ビルに向かう。
~第五話~
場所が変わり、ここは都内でも高層ビルが建ち並ぶエリア。
スポットライトが当たる人物は二人…
香奈と瞬である。
『急がせてごめんね、約束の時間、もうすぐなんだよ。』
そう瞬に伝えながらも歩く速度は変わらない。香奈よりも若い瞬もなんとか香奈の歩調について行く。
歩く事5分程で香奈の目的のビルに到着したようだ。
『か、香奈さん、このビルってテレビでよく出てくるビルですよね?IT関連や大きな企業、有名企業が入ってる…』
『よく知ってるわね~、今日の目的地の一つはココです!』
とエントランスを突き進む香奈。エントランスでガードマンが立ち塞がると思いきや、
長身の男性が香奈を見つけると穏やかな笑顔で迎え入れる。
『英様、お待ちしておりました!本日は御足労頂きましてありがとうございます。』
『専務さん、わざわざお出迎え頂いて申し訳ございません。』
香奈に専務と呼ばれた男性はさらに笑顔になり、嬉しそうに言葉を返す。
『いえいえ、英様には大変お世話になりましたので、ご連絡頂いてすぐに動ける様に準備しておりました。では、こちらへ。』
と専務と呼ばれた男性は香奈と瞬を連れて専用エレベーターに向かうのだった。
エレベーターはあっという間に高層エリアを登り、三人をフロアへと誘う。
エレベーターを降りるとそこには法律事務所の看板が掛かっている。
専務と呼ばれた男性に連れられて二人は都内の景色が一望できる応接室へと向かうのだった。
『香奈さん、法律事務所はわかりましたが、こんな凄い所とどんな繋がりがあるんですか?もしかして香奈さんって社長さんとかですか?』
『社長なんかじゃないわよ、私はただの兼業主婦、ちょっと有名な企業で働いてるだけよ?』
『いや、ちょっとのレベルじゃないですよ…。
僕の家も同級生の中ではそれなりに裕福でしたけど、こんなビルって入った事もないし、ましてや専務さんが出てくるなんて…』
『まぁ、ウチは働き手が3人だから少し余裕があるのかもね?専務さんは私の職場のクライアントってのもあるけど、専務さんとのコネは雅樹なのよね。』
『えっ?雅樹さん?』
『そう、昔警備員やってたのよ。雅樹。その時のツテだって。』
応接室のドアがノックされ、入口とは別の重厚なドアが開くと先程の専務ともう一人の男性、そしてロングヘアを揺らす女性が現れる。
専務が同行者の紹介を始める。
『英様、大変お待たせいたしました。本日当事務所の代表も同席させて頂きます。そして、こちらは本件の担当をさせて頂きます、小林可鈴です。』
代表と呼ばれた男性は恭しく頭を垂れる。
『英様の奥様、ご無沙汰しております。以前ご主人に助けられて以来ですね。あれから皆様お変わりないですか?』
『まあ!代表さんまでいらしてくれたんですね!主人、雅樹も平常運転で楽しそうにやってますよ(笑)』
『お元気そうで何よりです。雅樹さんがいなければ私も専務も生きていなかったですから。』
『雅樹は職務を全うしただけですから。本人なんてそんな事忘れてますよ。』
『あの時だってお礼も何も受け取って頂けなかったですから。私共としては大変心苦しかったですよ。』
ここで可鈴も香奈に挨拶を交わす。
『奥様、その節は大変なご迷惑を、おかけいたしました。あの時、雅樹さんが代表と父、小林専務を助けてくださいました。今でも雅樹さんは私のヒーローです。私も人を助けられる強さを持ちたく、弁護士になりました。今回はよろしくお願いします。』
香奈は懐かしむように答えた。
『あの時、雅樹が病室で言ったんですよ。お礼の為に助けたいって思ったんではない。って言った言葉、今でも私も誇りに思います。身内贔屓でお恥ずかしいですが。』
ここまでさっぱり話しが見えてこない瞬…その様子を察したのか側に付き添った可鈴が口を開く。
『橘瞬様、はじめまして。今回私がご依頼の件を承ります。小林可鈴と申します。瞬様は話しが見えてないようですね?』
と可鈴はクスリと笑う。
『過去のお話、瞬様にしても宜しいでしょうか?』
と、三人に確認をする。
香奈、代表、小林専務は口をそろえて簡単に、簡潔にと
可鈴は許可を得たのが嬉しかったのか、瞳をキラキラさせながら語り始めた。そう、雅樹は憧れでもあり、可鈴の遅めの初恋でもあった。
父である小林専務も知らない秘密である。
ただ、香奈は気が付いた様であるが…
『今から15年位前にまだこの事務所が別の場所にあった時の話しです。当事務所の入っていたビルが放火にあいまして…その時に施設の警備に英雅樹さんが隊長として勤務していたんです。』
火災…この一言で可鈴は恐怖を思い出したかの様に瞳をギュッと閉じる。
『あっという間の出来事でした。当時私は中学生で父である専務に会いに来ていました。火の手はあっという間にビルのフロアに燃え広がり、私は代表と父の手で脱出出来たのですが二人が取り残されてしまいました…』
『正直、私は二人は、もうダメだと覚悟をしていました…雅樹さんが、他に人はいないか!逃げ遅れた人はいないか!と…』
可鈴の瞳には涙が浮かぶ…
『まだ子供だった私は雅樹さんに助けを求めてしまったんです。今なら消防の人ではない、警備の人に頼んではいけないって理解出来るのですが当時はまだ子供だったんです。雅樹さんは《じゃあ、お父さん達を迎えに行ってくるかぁ》って簡単に言って燃えさかるフロアに消火器一つを持って突撃したんです。』
『雅樹さん…』
《僕が同じ状況になったら…出来るのか?》
可鈴はヒーローの姿を思い浮かべ嬉しそうに語る。
『雅樹さん何事もなかったかのように父と代表を助け出してくれたんです。父も代表も怪我もなく、無事に脱出出来たんですが、雅樹さん煙の吸い過ぎで一酸化炭素中毒で搬送されて…』
代表は当時を思い起こし、目を細める。
『後で聞いた話では雅樹さんが来てくれなかったら私達は生きてなかったと…』
その言葉に小林専務が続く。
『それで私達も病院に搬送されて無事が確認できた所で雅樹さんが同じ病院に搬送された事を聞きまして…お礼に伺ったんです。その時に奥様と娘さんとお会いして。』
代表が小林専務に続く。
『治療費や諸々受け持つと言ったんですが、お礼のためにやったんではないからと固辞されて…』
香奈は思い出したかの様に笑顔で答えた。
『今だから言えますけど、格好つけすぎなんです(笑)
あの後で治療費や入院費を見て言葉が出なかったんですよ(笑)』
『それなのに私共には一切何も言われなかったんですね…』
代表はあっけにとられながらも答える。
『主人、雅樹は退院後に自分で制度を調べて救助中の負傷に対する手当を自分で探し出して消防署とやりとりして全額回収しました(笑)』
『雅樹さんって…』
《普段から気の良い人ってだけじゃないのか…?》
可鈴は涙をふいて真剣な面持ちで襟を正した。
『それでは本題に戻しましょう。今回のお話、大筋は確認しております。瞬様の今後の件、瞬様はどのように、お考えでしょうか?』
不意に自分の事が話題となった瞬は緊張した面持ちで答えを探す。
可鈴は続けざまに瞬に問う。
『瞬様は今後どうされたいと願いますか?ご実家に戻られる事を優先されますか?それとも英様と一緒に暮らすことを選ばれますか?』
『僕は…僕は実家には戻りたくありません。雅樹さん、香奈さん、由香さんといたいです…』
《そう…誰も味方のいない、あそこには絶対的に戻りたくない…》
『養子縁組が一番簡単に話しが進むと思いますが…』
『待ってください、私達は養子縁組で結構、むしろ喜んで!ですが、ご両親と再会出来た時にどちらも悲しい思いをしてしまいます。なので保護者として瞬君を支えます。』
《僕の事をそんな風に思ってくれる…雅樹さん、香奈さん…》
可鈴は笑顔を見せる。
『そうですか、でもそれが皆様に取って最良かと思います。また、後見人も視野に入れさせて頂きます。それと、ご両親の財産ですが、今の所失踪扱いですので難しいかと…』
《そう、二人ともいなくなったから銀行口座にはお金があったけど手出しが出来なかったんだ…誰も助ける所か話しも聞いてくれなかった…》
『もちろん、お金はご両親が、見つかったら必要になるので手を付けなくて結構です。むしろ転校や住民票の異動にお力を貸して頂けないでしょうか?』
『それなら現在手続きを行ってる旨を書面にしますので少しお待ちくださいね。可能な限りの手段は講じますので!私は雅樹さんに一生掛けても返せない恩があります!この件は私の全力以上を出し切るとお約束します!』
可鈴は憧れの、そして彼女の初恋でもある雅樹の為、今の自分に出来る全ての力を出し切る。そんな覚悟を決めた顔を二人に向ける。
その可鈴を見た香奈は優しく可鈴を見守るのであった。
可鈴の言葉を聞き安堵する香奈と瞬であった。
各種書類を受け取り、法律事務所を後にする二人の足取りは軽い。
『じゃあ、瞬君ご飯行こうか?瞬君はデパートとかショッピングモールとかって大丈夫?雅樹は避けたみたいだけど、ムリなら言ってね?』
香奈は瞬の中にデパートやショッピングモールにトラウマがないかと慎重に聞く。
『多分大丈夫だと思います。』
『それなら良かった、もし近くに行ってダメそうなら言ってね?それじゃあ向かいましょう。実は由香の職場に顔を出すつもりなの~。瞬君も由香も驚くと思って~』
とイタズラっぽい笑顔をみせる香奈。
そしてあっという間に由香にメールを打ち終え由香の勤めるショッピングモールに向かうのだった。
少しづつ雅樹の過去が語られ始めました。まだまだ続きます。次回は雅樹の仕事に戻ります。




