笑顔のブリザード
英家に到着した二人は妻香奈と娘の由香から歓迎される。
~第三話~
瞬の身の回りの品を揃えて帰宅する。
ココは都内だが、都心に近く、交通のアクセスもそこそこ恵まれていて、自然が多い。
まだ新しいとも言えるエントランスのオートロックを解除し自宅へと進む。
エレベーターに乗る時、瞬の緊張した顔がチラリと伺えた。
『ただいま~。さぁ瞬君、遠慮せずに入って入って』
『お帰りなさい。さっき由香も帰ってきたわよ。』
『ママただいま。こちら、俺を訪ねて来てくれた瞬君。瞬君、ウチの奥さんの香奈だよ。』
『はじめまして、雅樹の妻の英 香奈です。』
『あっ、はじめまして栃木から来ました橘 瞬です。急に来てしまってごめんなさい…』
瞬は急な来訪だけでは無く英家に泊めてもらうことを申し訳なさそうに頭を下げる。
それを察した香奈。
『こちらこそ、この人強引だったんじゃない?逆にごめんなさいね』
柔らかな笑顔を瞬に向ける。
『瞬君、上がって、お茶でも飲まない?すぐに用意するわね?』
香奈に促されてリビングに通される瞬。
ダイニングテーブルの椅子に座るが居心地が悪いのが伝わる。
『瞬君は10年前まで都内にいたんだよ。そこでご両親と一緒にウチのお店によく買い物に来てくれてて、笑顔が素敵な子だなって思ってたんだけど何より自分からご両親のお手伝いをする子だったんだよ。だから凄い思い出深くって。』
急に褒められた瞬は先程より居心地が悪くなる。
『あら~、偉いわね。ウチの由香なんてお手伝い全くしかかったわよね?』
『そうそう、買い物に行くと真っ先にお菓子売場へダッシュ…』
香奈は楽しそうに思い出を語りながら紅茶を煎れ始める。
すると廊下からカチャッと音がし、その直後ガラガラとバスルームの扉の音がした。
『ちょっと!はじめましての人に私の過去を笑い話で伝えないで!』
普段なら女性特有の身支度で中々姿を現さない我が家の一人娘、由香が焦って飛び出してきた。
『瞬君、だらしのない格好だけど、ウチの娘、由香だよ。』
『だらしないは余計!あんな話しするから髪も乾かしてないし、何もせずに出てきたんだから!』
瞬は俺と由香のやり取りを見て少し緊張がほぐれたような顔をする。
『あらためまして、英由香です。今年で25です!社会人3年目!よろしくね!』
由香は明るく自己紹介を進める。
その姿に瞬は圧倒される…
『あっあの、橘瞬です、17歳…学生…いや、学校には行っていません…』
『まだ夏休み中だよね?学校の事は夏休み中に考えればいいと思うよ?夏休みかぁ~、懐かしいなぁ~。社会人になると取れても3日とか長くて1週間なんだよね~』
『ほらほら、由香も座ってお茶にしましょ?』
俺からある程度の瞬の事情を聞いている香奈がやんわりと話しの方向性を変える。
『そうだな、さっき駅でシュークリーム買ってきたんだよ。折角だから食べよう。』
『え~?これから食べたら太るじゃん!』
『そうか?なら由香の分は俺が食べるよ』
少しだけ意地悪く由香に問い掛ける俺。
『食べないって言ってないけど!』
親子のやり取りを見て瞬はクスっと笑う。
『賑やかな親子でしょ?だから瞬君も遠慮なんてしないでね?遠慮なんてされたら私悲しいわぁ~』
あえておっとりと香奈が言う。
『それで、瞬君は何でこんなおじさんに会いに来たの?ウチのパパなんて何処にでもいる普通のおじさんでしょ?』
『普通のおじさんだから会いたくなったんだよな?瞬君。』
事情は俺の口から話すべきではないと判断しおどけて由香を躱す。
しかし、瞬は覚悟を決めた顔付きに変わり、自分と両親に起こった出来事を話し始める。
『…事故現場で…
学校の…
捨て子…
両親を殺害…
最後の望みで遠い記憶の俺を思い出して訪ねてきたんです。英さんにご迷惑なのは十分分かってたんですが…』
瞬の話しを香奈と由香は真剣に聞き入っている。
俺には解るが、香奈はウン、ウンとや穏やかな優しい笑顔で頷くがこれは香奈が激怒していると長い夫婦生活で察した。
涙ぐみ、嗚咽を漏らしながら全てを話した瞬…
分かり易く怒りを露わにした由香が叫んだ!
『ちょっと!なんなのそれ!大人は何してたの!』
ああ、由香は俺の娘だと改めて思う。
だって怒ってる内容、俺と一緒なんだから…
『由香、落ち着いて?近所迷惑よ?』
のほほんと香奈が由香に釘を刺す…
『瞬君。よく頑張ったわね。偉いわね~。しっかりお話できて…大変だったわね。でも、ご両親はきっと無事よ。だって優秀な日本の警察が何も見つけられなかったんだから。さぁ、瞬君お風呂に入って、今日はゆっくりやすんでね?』
瞬の背中を優しく抱きしめ香奈は言った…
瞬は少しだけ照れたような顔をして風呂へと向かう。
瞬が風呂に入ったのを確認して席に戻る俺。
『パパ、思ったより大変な話しだったわね。流石に驚いたわ。最初は家出少年が困ってパパに会いに来たって思ってたんだけど…』
香奈は真剣な顔で呟いた。
『それより瞬君、そんな所に帰せないよ!』
由香が再び吼える。
『当たり前だろう!俺だって腸が煮えくりかえる思いだよ。大将の所で飯食ってたから女将さんに気付かれて収められたけどな…』
『流石女将さんねぇ。きっと大将は大泣きしてたんじゃないの?』
まるで見てきたかの様に香奈は俺に尋ねる。
『煮魚作りながら号泣してたらしい。』
『で、女将さんも大将もウチがダメなら自分達が引き取る!くらい言ったんじゃないの?』
まるで見てきたかの様に話す香奈。
笑顔である…確かに笑顔であるが…その笑顔は美しいのだが、部屋の温度が一気に下がる…迫力のある笑顔である。
香奈のこの笑顔は本気で怒っている証でもある。
『瞬君の意志にもよるけど、これからはウチで一緒に暮らしましょう。だと…転校の手続きも必要ね?パパ、明日瞬君の学校に連絡してね?それからパパのお休みって月曜日よね?そこで瞬君の学校とお家に荷物を取りに行きましょう。そうだ!レンタカーも手配してね?』
『月曜日、私も休みを取るよ!』
『そうね。家族の一大事ですもんね?流石私の娘ね。明日は私が休みだから法律とか確認してくるわね?瞬君も一緒に行くわ。そうだ、由香のお店のショッピングモールのレストランに行きましょう!由香も行くわよね?』
『勿論だよ。絶対に休みを勝ち取る!』
我が家の女性陣の強さを垣間見る。
『ちゃんと学校にはアポを取ってね。わかりました?』
そう聞かれ俺は香奈の圧に気圧されて頷く事しか出来なかった…
『パパ?聞いてました?お返事は?』
下がった部屋の温度が更に下がる…香奈の後に見えてはいけない何かを感じると俺はすかさず、
『はいっ!必ず実行しますっっっ!』
と軍隊の様に敬礼をして返事を返した…
結婚して27年、香奈には一切勝てた記憶がない…まぁ、それも俺の幸せの一つだが。
ガラガラと風呂場の扉が開き、瞬がタオルで髪を拭きながら戻ると部屋の温度が戻る。
『瞬君、今冷たい麦茶を出すね?』
少しだけお姉さんぶった由香が冷えた麦茶をコップに注ぐ。
瞬は麦茶を受け取る。
麦茶を一口、二口と飲むのを見計らい俺は問う。
『瞬君、落ち着いた?これからの事なんだけどさ、瞬君は家に戻りたい?それとも戻りたくない?』
『僕は…僕は…もう戻りたくないです…』
17歳の少年は必死に自分の心に問い掛ける…悲痛な程、悔しそうに言葉を絞り出す。
『じゃあ、ウチに引っ越そう。学校も転校してココから学校に通えばいい。』
『賛成!私、弟が欲しかったんだぁ~、これからはお姉ちゃんって呼んでね。』
『いきなりお姉ちゃんってねぇ?』
『みなさん、なんで僕なんかにこんなに優しくしてくれるんですか…捨て子や親を殺したって言われてる僕なんかに…』
俺は再度静かな怒りがこみ上げる…
『瞬君は捨てられてないだろ?両親が大好きなんだろ?俺は今の瞬君が好きだなぁ。だから誘ってるんだよ。』
『英さん…』
『それにパパは信じた人には兎に角お人好しなんだから』
香奈が冗談ぽく笑いながら話す。
『お人好しはママも…』
由香の一言は最後まで発する事が出来なかった
部屋の温度がまた下がったのだ…
笑顔で由香を見据える香奈…
『それじゃあ話しがまとまったから、明日は私とお出かけしましょ?ちょっとだけ大変かもしれないけど、瞬君の転校の手続きだから。そしたら美味しいランチを食べに行きましょ?だから今日は早く寝ましょうね。大変な一日だったから疲れたでしょ?』
『はい。明日楽しみです!』
瞬はうれし涙を浮かべながら返事を返す
香奈のブリザード出ました!




