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椿と雪柳と…

椿は頭を抱える。

先日、榊に言われた言葉を何度も繰り返す。

~18話~



ここは、とある企業の一室。

そこにはスーツ姿の椿がいる。

椿専用の立派な机…椅子にではなく机に軽く座り考え込む…

先日の喫茶店で雪柳と共に榊にやり込められた為か、普段余裕のある椿が苛立っていた…

椿は榊の言葉を思い出すと…独り言を呟く…


『私とした事が…剛と瞬を育てるではなく、導こうとしていたと言うのか…榊の言った通りだ。

足下の石を退ける…コレでは後進は育つ訳がない…か…』


椿は両手で頭を抱え更に呟く…


『英雅樹は全て解った上であの話し方か…敵わんな。ヤツの全てに私が劣っている訳ではない…だが…まだまだ私も青いな…認めたくないものだな…自分自身の若さ故のあや…』


コンコン…大きな部屋に響くノックの音。

椿は独り言を最後まで言えなかった。


『入りたまえ。』


静かにドアがひらく。そこには目つきが鋭い、若い女性が椿を睨む。


『やっと帰ってきたと思ったら、仕事はどうした?大体、《コレからの我が社に必ず必要な重要案件だっ!》と言って飛び出したと思ったら…帰って来るなり引きこもり…出勤扱いで休んでいた癖に報告書も出しもせず悩んでいるとはな!この給料泥棒め、恥を知れ!俗物が!』


『そう怒らんでくれないか?それにしてもいつから浜田…社長秘書は私よりも偉くなったのかな?』


浜田と呼ばれた女性は椿の一言に更に怒りの感情が燃え上がる…


『この会社が存続出来ているのは椿が遊び呆けている間、必死で動かし続けた私とお嬢様…いや、社長だ!腑抜けたお前に言われる筋合いは…ない!』


『酷い言い草だなぁ。私も会社の為に動いていたんだがな…』


『フン、怪しいがな。それから、椿に来客だ。勿論アポはない。どうせお前なら通せと言うだろう?』


『ああ、構わないが…来客が誰かも教えてくれないのだな…』


『そんな事を気にする男か?おい、雪柳、入っていいぞ。』


『失礼します。どうやら榊にやられてヘコんでいるようだな?まぁ、俺も椿を笑えないがな。』


『雪柳…君もか…改めて英…雅樹…』


椿のセリフは最後までは聞き取れなかった。

雪柳も椿と同じ事を考えていた様子で、


『ああ、俺も人を育てる自信はあったんだが見事に榊にやられた。改めて…英雅樹が大きく見えた。』


二人の会話の意図が読めない浜田は苛立ち二人に向かって言い放つ。


『それで?雪柳室長は何故いじけている椿に会いに来た?貴様も、今は勤務中のハズだと思ったが。そもそも!互いにライバルなのは公認事項だが、ここは仕事場だ!生産性のある事をしろ!』


『済まなかった、浜田、雪柳…話を戻そう。英雅樹…私の元に置いたら途轍もない事になるだろうな』


『待った!椿、それは…エゴだよ!英雅樹は俺の部下にしようと思っていたんだ!』


『さっきから黙って聞いていれば…英雅樹とは何なのだ!』


『目下、私が引き抜き対象としている男だ。』


『それはおれだって!』


『そんなに有能なのか?』


『中々面白い人物だよ。』


『ああ…ヤツに負ける要素はないと思っていたが、何故か敵わない。しかも…だ、腰が低く謙虚だ。アレだけの人間なら天狗になっていても不思議ではないと思うんだがな。』


『確かにな。英雅樹がAOBA CO.に来るなら《それなり》の待遇…役職を与えるのが妥当だな。本部の役職者、ゆくゆくは幹部に。』


『それが何故か店舗限定社員、チーフ止まりだからな…』


『雪柳…お前はヤツを取り違えている。ヤツは…自己評価が恐ろしく低いだけだ…』


『ウソだろ?アレで?AOBA CO.だけでもなく、俺が出向している、AOBAとの資本関係をあえて伏せてる、人材が集まりやすいホームセンターのホワイトホースでさえ、アレだけの有能な人材はそうはいないぞ?』


『それは…ヤツの細君、女帝英香奈が、原因だろうな…』


『ああ、そうか…あの女帝が近くにいるなら可能性は高いな…』


『待て!お前達…あの女帝の夫を引き抜くつもりなのか?簡単な話ではないぞ?それこそ我が社、AOBAと全面戦争になりかねん…』


浜田は引き抜き対象の英雅樹と女帝…英香奈の間柄を知り、青ざめる…


『頼み…頼むから二人とも先走るのは絶対に止めてくれ…椿、お前の出勤扱いも、報告書も大目にみる…だから…』


『待て!椿…キサマ、仕事もせずに給料を丸々もらっていたのか!俺は…何とか仕事を片付けてスーパーに通っていたのに…』


『スマンな…私の実家が遠いのだ…私はこの街から離れたくないのだ…』


『椿、だから都内に引っ越せと何度も言っただろう!通勤費だって馬鹿に出来ない数字なのだぞ!』


経費…浜田は何度も椿を説得したが…聞き入れてもらえなかった…


『椿…そんなに遠くから通ってたのか?隣県とか、島とかか?』


『失礼な!元々都内だ!いつの間にか名前が消えてしまっただけだ!』


すかさず浜田は言う。


『都内と言っても長閑(のどか)な所と記憶しているが?』


その言葉に雪柳も問う。


『椿…そんなにそこが気に入っているのか?』


浜田も雪柳も何故、椿が引っ越さないのか不思議がる。


『それは…保谷だからさ…』


『『・・・・・・』』


新キャラ、秘書の浜田さん登場です。

ほんの少しだけ椿と雪柳の謎が見えてきましまた。

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