謎の勉強会
皆瀬は雅樹に疑問に思った事をぶつける。
本当にこの人はなんなんだろうか?
こんな接客…見た事がない…
~15話~
皆瀬が雅樹に質問をしてきた。
これは皆瀬が変わろうとしている…
雅樹はそう感じ快諾する。
『それじゃあ昼休みに話をしようか?』
皆瀬は真剣な顔で返事をする。
『はい。お願いします。』
その場にいた瞬も先程の雅樹の接客が気になっていたのか、
『英さん、僕も質問があります!』
『じゃあ、みんなでご飯を食べながら話そうか?』
『それなら、私も同行しても?』
『椿さん、図々しいですよ?椿さんが参加するなら…俺も行きますよ。』
椿と雪柳も昼食会(質問会)に参加すると言ってくる。
『じゃあみんなで近くの喫茶店に行こうか?』
昨夜、定食屋に行った男五人で再び食事に行く。
『あら~、マーちゃん、さっきぶりね~。』
声を掛けてくれたのは先程の常連さん。ここのママさんだった。
『こんにちは。大勢でお邪魔してすみません。』
『お金を落としてくれるなら何人で来てもいいわよ~』
ここのママさんは先程のバターの件で雅樹をさりげなくフォローしてくれた女性だ。
それに気が付いた皆瀬。
『あれ?さっきのお客さん?』
『アンタもさっきぶりね。まだ席は空いてるから好きな所に座ってね。みんなランチでいいわよね?面倒だからランチに決定ね?飲み物は大人だからコーヒーでいいかしら?』
きっちりママさんのゴリ押しのメニューに…飲み物すら自由に選択出来ない…
『まっ、まあ座ろうか?』
雅樹は適当な席を選び、先に座る。雅樹を中心にして両隣に椿と雪柳がまるで指定席の様に座る。
反対側に瞬と皆瀬が着席する。
『剛は俺に何を聞きたいんだ?』
『さっきのバターのお客さんですが、雅樹さんわざと怒らせてましたよね?』
『う~ん、わざとではないかなぁ?』
『あれ、どう見てもわざとやってる様にしか見えなかった…』
皆瀬は疑問をストレートにぶつける。その隣の瞬も、
『雅樹さん、僕も同じ事を考えてました。』
『あれはわざとじゃないよ。剛の説明は確かに正解だよ。だけど、正解は一つだけではないよね?』
『あれは、無理な値引きをしてきてただけッスよね?』
『どうして無理な値引きって思う?決めつけたら話の本質を見失うよ?』
『だって、昔の値段っていつのだよ?って話じゃないッスか?』
『剛の判断も間違いではないよ。ただ、イチャモンではない可能性もあった。だからお客さんを否定しなかったんだ。バターが200円、いつですか?と。』
『でも、答えられてなかったじゃないッスか。』
『だから俺は大卒の初任給が1万2000円の頃?それとも特売が200円だった頃?って聞いたんだよ。』
椿が口を挟む。
『まぁ、相手をおちょくってるとも言えなくはないがな…』
『昭和30年代だと1960年頃。約60年以上昔だな。』
すかさず雪柳がフォローを入れてくる。
『まぁ、無理難題って発覚したのは特売が…の辺りだけどね。』
『今時200円で売っている店があるならそこから仕入れをした方が余程儲かるよ。』
椿が率直な意見を口にする。
『お待たせ~!ハンバーグランチよ~』
ママさんが手際よくテーブルにランチを配膳する。
『先ずは温かいうちに頂こうよ。温かい物は温かいうちに頂く。礼儀だよ。』
この喫茶店のランチはかなり人気がある。ボリュームはもちろんだが、何より旨い。
五人がほぼ食べ終わる頃、再び皆瀬が質問をする。
『ムチャ振りって気が付いてから雅樹さん、煽ってましたよね?』
『何が?』
『いやいや、人殺しって言われてたじゃないですか…』
『ああ、アレね?あの人が勝手に話題を変えるように誘導した。』
雅樹の一言に瞬が聞き返す。
『誘導?怒らせる事が?』
この質問に皆瀬も首を縦に振る。
雪柳が話し出す。
『雅樹さんはバターの値段は下げないって言ったら、あの人は更にヒートアップするだろ?』
『まぁ、値下げの話をしなくても怒りが天元突破してた様な…』
瞬は考え込み、首を傾げる。
『怒りの矛先をすり替えたんだよ。雅樹さんは…』
雅樹が若い二人が自分で考える為に回りくどく言ったセリフを椿が回収していく。
『椿さん?ダメですよ、考えさせないと。答えをすぐ教えたら…』
『もう、休憩時間が保たない時が訪れているのだよ!』
『あっ、あと30分しかない!種明かしだけど、生活保護は、半分は本気。だってバターないと飢え死にってさ…それにバターが高ければマーガリンを買えばいいの!』
雪柳がすかさずツッコむ。
『雅樹さん、どこのマリーアントワネットですか…』
瞬は学校で学んだ事を思い出してプッと吹き出す。皆瀬は…?が付いているようだ…
『でも、雅樹さん泣いてましたよね?アレ、人殺しって言われて泣いたんですか?』
食後のコーヒーを持ってママさんが現れる。
『マーちゃんがそんな事で泣く訳ないじゃないの~。演技よ。え・ん・ぎ。』
『ちょっ、ママさん!それを言ったら俺は腹黒いだけになっちゃうんですけど…』
『あら?立派な腹黒だと私は信じてるわよ~?あそこでマーちゃんが泣いたら他のお客さんはマーちゃんが底なしのお人好しに見えるもの。だから私が最後の一押し。』
ママさんは笑いながら席を離れる。
瞬は思っていた事を思い切って聞く。
『雅樹さんは何でそんなに切り替えが出来るんですか?』
瞬は雅樹の思考回路が自分とは桁違いなのに驚く。
『う~ん、瞬は俺をどんな人間と思ってる?』
『正直わかりません。仕事中は何でもこなすスーパーマン、家だと香奈さんに頭が上がらない、香奈さんだけではなく由香さんにも…なんというか…』
『瞬、俺の事をそんな風に見てたの?まぁ、香奈に頭が上がらないのは事実だけど…』
この言葉に反応したのは椿と雪柳だ…
《《まぁ、相手があの女帝、英香奈だからな…》》
無言で頷く二人…二人は香奈の事を知っている様だ。
『それで、何故切り替えが尋常じゃないのか…』
『俺は普通だよ?』
《《《《絶対に普通じゃない!》》》
『強いて言えば自分の中に別の人格を作る…かな?仮面…ペルソナを付け替える感じかな?』
『ペルソナ…それ、由香さんが言ってました。自分の理想とする人格の仮面を付けるって…』
『そうだね。由香にも教えたよ。仮面を被ることで心が守られる場合もある。攻撃を受けたのは別人格。本来の自分ではない…って。』
『さっきのお客さんの時も?』
『アレは順次つけ替えてたかな。途中は検事、最後はお人好しに。』
この言葉に皆瀬が反応する。
『それで泣いたんですか?』
『アレは…違う事を考えて泣いた。昔見たアニメの最終回…風車のある町に住む犬と少年の物語…』
『それってそんなに泣けるんスか?』
皆瀬の言葉に雅樹、椿、雪柳が声を揃えて答える。
『『『思い出したら絶対泣く!』』』
大人三人の息の合った声に驚きながら瞬も疑問をぶつける。
『僕も…ペルソナ出来ますか?』
『簡単ではないかもしれないけど、出来るよ。理想とする人間になる。そのための努力、勉強を続けられるならね。』
『勉強を…』
瞬が言葉を紡ごうとした時、突然声を掛けられる。
『なるほど…別の人格ですか…興味深いですねぇ。』
スーパーの常連の一人、榊であった。
『あれ?榊さんじゃないですか?』
『英さん、先程はどうも。お店での騒動、楽しんで拝見しましたよ。英さんらしい解決ですねぇ。』
『榊さん、見てたんですか?お恥ずかしい。』
『いえ、英さんの普段の人格の使い分け、通常ならペルソナは一つ…多くて三つが限度ではないんじゃないでしょうか?それなのに英さんは…幾つペルソナを、お持ちなのやら。』
『あまり意識はしてないですね。』
『私もそんな気がしていましたよ。無自覚にその場に合ったペルソナを付け替えると。おや?そちらは…AOBAの…』
『榊さん、ご無沙汰しています。今の私は雅樹さんと働く椿です。それ以上でも、それ以外でもありません。』
この言葉に反応したのは、やはり雪柳だった。
あきれ顔で椿に言う。
『椿さんも、何でそんな言い方をわざわざ…』
榊は神妙にうなずく。
『そうでしたか…わかりましたよ。椿さん。』
この話を聞いた瞬は…
『雅樹さん、椿さんって何物なんですかね?』
『知らん…でも、椿さんは椿さん。それでいいんじゃない?』
『・・・そうですね。それよりも!さっきのペルソナの話、どんな勉強をしたら得られるんでしょうか…』
『経験値を積む事。学校で習う勉強も大切だけど、それだけだと薄い人間になるよ。俺は今でも全てが勉強だと思ってるよ。』
『さすが…英さんですね。学ぶ事を止めた人間はそこから退化するのみです。学びは人間を成長させる。学ぶ事は人間を人間とする。私の持論ですがね。』
この言葉に自身の肩書きを明かされ掛けた椿が意地の悪い笑みを浮かべて反応する。
『さすが、榊先生ですね。知識欲が旺盛ですね。』
『いえいえ、椿専…失礼、椿さんとそちらの…』
榊はチラリと雪柳を見る。
雪柳はスッと立ち上がり笑顔で榊に右手を差し出す。
『《はじめまして》俺も雅樹さんと《一緒に》働く雪柳と申します。よろしくお願いします。』
榊は雪柳の手を握り軽い握手を交わす。
『《改めまして》英さんのお店の常連の榊です。先程の会話、私の席が英さんの後ろでしたので興味深く拝聴しましたよ。英さんは若者に自分で考える力を与えようとしていましたが、お二人は簡単に答えを与えようとしていたようにうかがえましたねぇ。』
この言葉に椿と雪柳は無言となる。
『若者を導きたい気持ちは英さんと同じ…それ以上にも感じられましたが…私は英さんのやり方が好きですね。失敗をさせないやり方がスマートかもしれませんが、回り道、失敗を通じて学ぶ。これが人生の本道では?失敗を恐れて足下の石を退けるのも愛情…ですが予期せぬ石で躓いた時…何故…石に躓いたか…どうしたら回避出来るのか…どうやれば自分の力で立ち上がれるのか…英さんはそれを教えたいんでは?先導者がいなくなった時…自分で考えられない人間はそこで停滞します。それは思考を放棄するのと同義と私は解釈しますがねぇ…』
榊は饒舌に早口で捲し立てる。
椿と雪柳は身に覚えがある榊の言葉に苦々しくうなずく事しか出来ない。
《さすが…榊先生…私の勇み足だったか…敵わんな…》
《チィッ…榊先生が来るとは予想外だった…俺の読みもまだまだだな…》
それまで静寂を保ってコーヒーをすする雅樹が時計を見上げ声を上げる。
『マズい!休憩が終わる!榊さん申し訳ありません、そろそろ俺達はお暇します!ママさん、お勘定!』
『おやおや、楽しい時間は終わりを迎えたようですね。でしたら今日の支払いは私が。中々興味を刺激される時間のお礼です。またお時間があれば、楽しみにしていますので。』
『わかりましたよ…でしたら次回は俺が払いますよ?約束ですからね、榊さん!』
こうして急に慌ただしくなった勉強会のハズの昼休みは幕を閉じる…
皆瀬が疑問をぶつけるハズが…大人の大暴走に。
椿のAOBA、榊先生、謎の多い会話コイツ等何物なんだ?
実は作者もあまり分かっていません。
最大の謎は…香奈です。




