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皆瀬と雅樹

またまたクセの強いお客さん(?)が現れる…

対する皆瀬は…

~14話~




時計の針は、間もなく11時を指そうとしている。

朝市の勢いも少し穏やかになり始める。


雅樹は売り場の確認の為、自分の受け持つ部門以外の売り場も確認する。


雅樹は売り場を歩きながら声を出す。


『いらっしゃいませ~!さぁ日曜朝市開催中~!ご利用~ご利用~!』


お客さんの流れ、特売商品の残り具合、次に品薄になるものを確認しながら、関係部署に指示を出す。


『皆瀬君、それ終わったら優先的にバターをお願いできますか?次に品薄になるハズだから。橘君は、特売の卵お願いします。』


雪柳と椿の様子を確認すると、二人はさすがはベテラン、売り場の穴が空く前に補充をしていく。


『雪柳さん、私は水を補充する。』


『了解です、椿さん、俺は納豆がそろそろ危険だと思うから、そっちに回ります。』


《相変わらず見事なコンビネーションだな…》


雅樹はチラリと二人を見ると感心する。

レジ横にある店内放送のマイク…

朝市の最後のダメ押しとばかりにマイクを手に取ると…

雅樹は放送を始める。


『本日は、早朝より当店をご利用頂きまして~誠にありがとうございます!

卵コーナーからお知らせいたします~!

本日の朝市のサイズミックス卵10玉入り、198円でございますが~!

本日、最後の在庫が只今売り場に到着いたします~!お一人様、お一つ限りでございます。ご利用くださいませ~!』


この放送で売り場の流れが変わり、瞬の格闘する卵コーナーへお客さんがなだれ込む…


『瞬、すまない…ガンバ!』


小さく声に出す…

雅樹は心から瞬に謝罪とエールを送る。

最初は卵を売り場に補充していた瞬であったが、雅樹の放送で一気になだれ込んだお客さんに補充では間に合わず、手渡しで卵を渡す。


《まっ、雅樹さんの放送で…人の手が…舟幽霊みたいに…》


遠くから瞬の様子を見ていると、《ありがとうございます》を楽しそうに連呼する瞬に雅樹はニコリと微笑む。


『どうなってるのよ!』


甲高い女性の怒鳴り声がバターのコーナーから聞こえる。

雅樹は周囲を見渡してバターコーナーに急ぐ。


『だから、何でこんなに値段が上がってるのよ!』


年の頃六十過ぎだろうか…女性が皆瀬を怒鳴り散らしていた。


『そんな…俺達は本部が値段を決めて、それを売ってるだけ…』


『じゃあ、あのヨーグルトはなんなの?この系列店舗だとあんなに安くやってないわよ!お店で値段が変えられる証拠じゃない!だったらバターだって安くできるでしょ!昔はバターも高くても200円だったわよ!』


『そんな…ヨーグルトだってこのお店の独自の朝市の商品…』


『そんな事はどうでもいいの!私はバターを200円で売れ!って言ってるの!早くやりなさい!』


周囲のお客さんは皆瀬に同情的な目を向けている。

その時、常連のお客さんが雅樹に声を掛けてくる。


『マーちゃん、おはよう。あのおばさん大丈夫?さっきからあの子に叫び散らしてるわよ?』


『俺も声を聞いて駆けつけました。今話をしている若ぇのがどうにか出来るなら黙ってますが…そうでないなら、助けに行きますよ。』


雅樹は常連さんにニコリと笑いかける。


『どうしてあんた達は私の言ってる事がわからないの!早く200円で売りなさい!』


これは話が通じないと判断した雅樹は間に入る。

雅樹の姿を見た皆瀬は援軍が来た!と嬉しそうな顔をする。


『お客様、当店のスタッフが何か不手際でもございましたか?』


『バターの値段がおかしいの!高すぎよ!前は200円で買えたじゃないの!値段を変えなさい!買ってあげるから!』


先程から皆瀬に詰め寄る話の内容そのままを雅樹にぶつける女性。


『確かに昔は200円位で買えてましたね。あれは…僕がまだ学生だったかなぁ…実家のお袋にバターを買うから一緒に買い物に連れて行かれました…』



当時の記憶を辿ると懐かしい情景が蘇る。


周りの売り場からは、雅樹達を心配して見守る人、この女性に同調する人もいるだろうか…、そして面白半分で見ている人…


雅樹の昔の話を聞いて頷くお客さんもチラホラ…

自分の要求が昔の値段と言われた事に腹を立てたのか…女性は声を荒げる。


『昔ってなによ!ちょっとだけ前の話じゃない!何でこんなに高くなったのよ!早く200円で売りなさい!』


『そうですよね、バターは僕が社会科の授業で習ったのが昭和の中頃、100円玉がでた辺りでは180円で買えたらしいですね。その時の大卒の初任給が1万2000円だったとか…今ならバターは2000円位の価値ですかね?』


『うるさい!そんな昔の話じゃない!ついこの前よ!』


『それだと特売ですね。90年代中頃から2000年辺りでは200円でやってたらお店が多かったのも事実です。およそ20~30年前位ですかね…いやぁ僕も年を取る訳だ…

昭和は遠くになりにけりってヤツですね…』


『アンタは何なの?そんな話はイイから私はバターを買・い・た・い・の!早くしなさい!この前、この店で200円で買ったんだから!』


『思い出した!確か15年前…ココのオープニング記念だ!いやぁ懐かしい!お客様、そんな昔の事を鮮明に覚えていてくれたんですね!ありがとうございます!ただ、さすがに15年前のオープニング記念価格は厳しいですね~』


この雅樹の言葉に常連さんからは、


『あったわね~。あれからもうそんなに時間が経ったのね~』


と、援護射撃が入る。


『いい加減にして!昔の話なんてどうでもいいの!こんなに高かったら私達貧乏人には買えないのよ!アンタ達は金持ちにすり寄り貧乏人を苦しめる!アンタは人殺しよー!』


女性は人差し指を雅樹に突き付けて人殺しと連呼する…


それを見ていた常連さんや買い物中のお客さんもハラハラしながら見守る。

一方、皆瀬は…


《こんなにクレーム聞いたことがねぇよ!しかもなんだよ雅樹さん…わざと怒らせてるのか?なんだよこの人…見たことがないよ…》


その時、雅樹の目から涙がこぼれ落ちる…


《雅樹さん…人殺しって言われたから泣いてる?いい大人が?》


皆瀬だけではなく周囲の人間が、雅樹は女性客の言葉で傷つき涙したと思っていた。

この瞬間までは…


涙を流す雅樹は女性客の目線まで腰を落とす。


『なっ、なによ!泣いたって許さないから!』


雅樹は女性客の手を取りにぎりしめる…


『もし…ウチの母が…遠く、離れた…土地にいるんです…バターを買えなくて死んでしまう…ウチの母だったら…と思ったら…すみません…』


『そっ…そうよ!飢えて生きていくのも大変なの!だからバターを…』


『分かりました!でしたら!区の相談室に相談しましょう!生活保護が該当するかもしれませんし、他に何か手があるかもしれません!』


『な、な、な、なななな…』


『もしよかったら明日僕が休みなので区役所、お付き合いしますよ?何時でしたらお時間大丈夫ですか?』


『ももも、もういい!』


女性客は雅樹の行政にたよりましょう!の一言が多いに気に食わなかった様で怒りを滲ませ帰って行く…

周りにいたお客さんも自然と笑みをこぼす人、拍手をする人、雅樹に話しかける人…


『マーちゃん、鮮やかだったわ~。あの人とお母さんを重ねちゃったのね~』


鼻をすする雅樹


『ええ、俺が少しでも力になれればって思ったんですが…』


『仕方ないわ。自分で貧乏人です!って言ってたけど国にお世話になりましょうって言われたらねぇ』


と常連さんはイジワルな笑みを浮かべる。


『あの!雅…英さん、後で教えて欲しい事があります!』


『うん、俺に答えられる事ならなんでも!』


こうして色々な意味で戦争と化した朝一は幕を閉じた…


作者が過去に出会った迷惑客をモデルに、ほぼ脚色無しで登場してもらいました。

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