ep.98 竜王城に初めて行きます
◇◇◇
翌年の十一月一日――。
「おめでとうございます! 可愛い女の子ですよ!」
私は再び出産していた。二度も懐妊したのだ。
今度は三つ子の女の子たちだった。
「リト! ありがとう! ああ! なんて可愛いんだ!」
チェーザマリーの喜びようは凄まじかった。小躍りせんばかりだ。
赤ちゃんたちの体をお湯で洗い終わると、医師が女の子を私に渡してくれた。
「この子がアヤナ様に続く次女ですね。本当におめでとうございます!」
私はその子を抱きしめ、そっと頬を撫でた。
「チェーザマリー、見て。この子は大伯父様にそっくりの顔だよ。でも髪と瞳はターコイズブルーだね。将来は美人になりそうよ」
「可愛いな。俺にも抱かせてくれ」
私は次女をチェーザマリーに渡した。
チェーザマリーは愛おしそうに我が子を見つめていた。
すると、医師が二人目の女の子を私の腕に預けた。
「この子は三女ですね」
私は腕の中の女の子をじっとみつめた。
「この子は顔がお祖母様にそっくりだわ。髪も瞳もダークブラウンだし。生き写しよ」
「マリアンヌ男爵夫人が見たら喜ぶぞ」
二人で笑い合うと、私は医師に頼んだ。
「もう一人も抱かせてください!」
医師は私の腕から女の子を取り上げると、ベビーベッドに優しく寝かせた。そして、三人目の女の子を手渡してくれた。
「この子は四女ですよ。末っ子です。可愛いですね」
私はその子をまじまじと見つめた。
四女の顔は私にそっくりだった。髪と瞳はダークブラウンだ。
「可愛い! 可愛すぎるよ! ねえ見てチェーザマリー! お母さんにそっくりだよ」
「ああ。将来はリトに似て美人で優しい子になりそうだな」
チェーザマリーがそう言って微笑んだ瞬間、扉が勢いよく開いた。
「女の子の三つ子が産まれたって!?」
「リト! 体は大丈夫?」
お祖母様と大伯父様は私の側まで駆け寄ると、私の両手をぎゅっと握った。
「大丈夫ですよ。青い色炎のおかげです!」
「良かったわ! よく頑張ったわね!」
お祖母様は安心したように笑うと、私の腕の中の赤ちゃんに目を留めた。
「まあまあ。リトにそっくりじゃない! 可愛いわ! 抱かせてくれない?」
「駄目です! 私が抱っこするんです! 次女か三女を抱っこしてください!」
私は腕の中の末っ子をぎゅっと抱きしめた。取られるわけにはいかない。
お祖母様は可笑しそうに笑うと、ベビーベッドでもぞもぞしていた三女を抱き上げた。
「なんて愛らしいの! 見て! お兄さま! この子、私にそっくりだわ!」
「ああ。可愛いな。ところで、チェーザマリー。君の腕の中のその子を抱かせてくれないか?」
「もちろんですよ。この子は次女ですよ。ユリジェンヌ侯爵にそっくりですよ」
「へえ。髪と瞳は父親そっくりだな」
大伯父様は蕩けそうな笑みを浮かべて次女を抱き上げた。
「三人の名前は何にするの?」
「もう決めてますわ。お祖母様。次女はエンナ、三女はルージュナ、四女はマキュナです」
「可愛い名前ね。この子たちにぴったりだわ!」
しばらく、私たちは交代で抱っこをし合った。
三人の女の子の内、私だけは、常に誰かを抱っこしていた。
エンナとルージュナとマキュナがベビーベッドで眠ると、私は急に不安が込み上げてきた。
私の表情の変化に、チェーザマリーはすぐに気づいた。
「リト。どうしたんだ? 暗い顔して?」
「ギョクリンはユリジェンヌ侯爵になることが決まってるけどね。ワルシャワ公爵には誰がなるの? 姉妹で争いにならない?」
縋るように見上げると、チェーザマリーは急に、公爵の顔になった。
「ワルシャワ家の後継者争いでは、毒殺は禁止だ。だがな、貴族なら、爵位継承をめぐる激しい争いは避けられないよ。一番優秀な娘を次期ワルシャワ公爵にする。誰にするかは当主の俺が決める」
「……姉妹で憎み合ったりしたらどうしよう」
「そのときはそのときだ。名家の定めだ。だが、全員平等に愛す。ドラゴン王家みたいな潰し合いはさせないよ」
「うん……子どもたちのこと、守ってね」
「当たり前だろ。大切にするよ。世界で一番大事な宝ものだ」
チェーザマリーは私を強く抱きしめた。
――ああ。チェーザマリーと結婚して、本当に良かった。きっと、良い父親になってくれる。
私はそっと目を閉じた。
◇◇◇
「お母さまー! 何してるの?」
私は、ドレッサーの椅子に座るお母さまのワンピースの裾を引っ張った。
「こらこら。ルージュナ。お母さまの服を引っ張ったらだめだよ」
お父さまは優しく笑うと、私の両手を掴んで、ワンピースから剥がしてしまった。
私の名前はルージュナ=ファル=ワルシャワ。
マリアンヌひいおばあさまそっくりの顔と、ダークブラウンの髪と瞳を持っている。
私は三つ編みをもじもじといじりながら言った。
「だって、お母さまがアクセサリーボックスをみてるんだもん! 私もお母さまのアクセサリー見たい!」
「ルージュナ。お母さまの膝においで。見せてあげるから」
お母さまが優しく微笑んでくれたので、私はぱっと笑顔になった。
膝に乗せてもらうと、私はきらきらのアクセサリーボックスを見つめた。
中には、金でできた簪や漆の櫛、翡翠の髪飾りなどが入っていた。
「うわあ! 素敵です! 美しいお母さまに似合いそうです!」
「ほんと? 嬉しいわ。これはね、五代前の化け狐の王妃様がお使いになられていた装身具よ」
「それって、お母さまとお父さまの伝説のストーリーの償いの品!? すごーい!」
「どれか一つつけてみる?」
「じゃあ、この青薔薇のヘアピンがいいです!」
お母さまはヘアピンを手に取ると、私の前髪を留めてくれた。
私はドレッサーの鏡でじーと自分を見つめると、にこにこしているお父さまを見上げた。
「お父さま! 私、可愛い? 薔薇似合ってる? 王妃様みたい?」
「ああ。俺の娘たちは世界で一番可愛いよ」
「チェーザマリーってば。親ばかだわ」
お母さまとお父さまは笑い合った。つられて、私も笑顔になった。
「お母さま。伝説のアクセサリーをつけてどこに行くんですか?」
「明後日の朝に、ドラゴンの王城に馬車で向かうのよ。魔道を走れば、二十時間あれば王城に着くわ。隣国ですからね」
「ええー! ドラゴンのお城に行くのですか!? 何をしに?」
「竜王様に色炎を献上しに行くのよ」
「献上? ただであげるってことですか? 貴重な色炎を? なんで買わないの?」
私が首を傾げると、お母さまは笑いながら私の頭を撫でた。
「表向きは献上だけどね。後で皇太子様から、お礼に竜牙宝石がもらえるわ」
「竜牙宝石! お父さまが大事にしているネックレス!」
「そうよ。"色炎を差し出された王様"っていうのが大事なのよ。それが竜王様の偉さを証明してくれるの!」
「なるほど! ほんとは宝石で買ってるんですね! 王様は頭良いですね!」
「アハハハッ。ルージュナは理解が早いな」
お父さまは可笑しそうに笑った。
私はお母さまの胸元を掴んで揺すった。
「ルージュナも外国のお城に行きたい! 竜王様を見てみたい!」
「……でも、私とチェーザマリーで行く予定なのよ。ごめんなさいね」
お母さまが申し訳なさそうに目を伏せると、お父さまが急に瞳を光らせた。
私は知っている。これは公爵の顔だ。
「いいんじゃないか? 人脈は大事だ。これを機に、ルージュナをドラゴン王家にお披露目しよう。
献上する大広間には、竜王様と皇太子と第三王子と臣下たちがいる。社会勉強と、緊張しないで堂々とする練習だ」
「ほんと!? いいのですか!?」
私は瞳を輝かせた。
「いいとも。俺から竜王家に高速連絡鳩を飛ばして手紙をしたためる。献上にルージュナの同伴を許可してもらう」
「嬉しいです! お姉さまたちとお兄さまとも行きたいな!」
「それは無理だな。アヤナとギョクリンとエンナとマキュナは悪魔の国にいる。マリアンヌ男爵夫人が社交界を教えてるからな」
「うー! 私も行きたかったー! 昨日まで風邪が治らなかったからだー!」
「元気出して。代わりに、ドラゴンのお城に行けるかもよ?」
口を尖らすと、お母さまはそっと頭を撫でてくれた。
「うん! 連れて行ってくださいね! あっ! 薔薇のヘアピンは貸してください! おめかししたいので!」




