ep.99 恋のためなら、竜王様にだって大胆に挑みます!
◇◇◇
「はじめまして! ドラゴンの国の太陽と月にお目にかかれて光栄です! ワルシャワ公爵家が三女、ルージュナ=ファル=ワルシャワと申します。献上に同伴させて頂き光栄です!」
私がドレスの裾をつまんで一礼すると、竜王と皇太子と第三王子はにこにこと笑った。
大広間には、臣下たちがずらりと並んでいた。
玉座には竜王が座り、両脇には皇太子と第三王子が立っている。
「可愛いい声だな。リト公爵夫人とチェーザマリー公爵じゃなくて、マリアンヌ男爵夫人に似た娘か。面白いな」
竜王様がおおらかに笑ったので、私は笑顔で答えた。
「はい! 曾祖母は悪魔の国で、悪魔の魔王様の次に美しいレディです! 美人なひいおばあさまに似ることができて、嬉しいです! 産んでくれたお母さまに感謝してます!」
臣下たちが吹き出した。竜王様と第三王子は笑い声を上げた。皇太子様は笑いを必死でこらえていた。
お母さまは赤くなっていたが、お父さまは微笑んでいた。でも、公爵の顔をしていた。
「お前、可愛いな。何歳だ?」
第三王子のアメシスト=オン=デ=ファル=ブラック殿下が私に聞いた。
――うわあ! なんてかっこいい声! それに、美しい瞳……。
王子様はアメジストのようなジュエルアイを持っていた。髪は照り輝くパープルブロンドだ。
――かっこいい……。こんなに美しい男性がいるんだ…。
胸がどきどきして苦しくなった。
すぐに、この感情の名前が分かった。
「今、五歳です!」
「そうか。だから小さいんだな」
第三王子は微笑ましそうに笑った。
すると、お母さまが玉座の前に進み出て、手に持っていた銀色の箱を竜王に手渡した。
「陛下。こちらが色炎です。穏やかな時間を過ごせますように」
竜王が満足そうに笑って受け取ると、お父さまが皇太子の前に進み出て、虹色の箱を手渡した。
「虹色の色炎でございます。良い夢を見られますように」
皇太子は笑顔で受け取った。
両親は玉座の下に戻ると、一礼した。私も一礼した。
顔を上げると、お母さまが壁の燭台二百本を、銀色と虹色と青色の色炎に変色させた。
臣下たちはため息を漏らし、王家の方々は満足そうに笑った。
「ありがとう。素晴らしい色炎だよ。別室で、皇太子がお礼の品を用意している。好きなものを選びなさい」
「竜王様、光栄でございます。皇太子様にもお礼申し上げます」
お母さまは優雅に一礼した。
――どうしよう……。献上が終わっちゃう……。王子様と仲良くなりたいのに……。そうだ!
私は玉座を見上げると、声を張り上げた。
「竜王様、私からも献上の品がございます!」
お母さまとお父さまはぎょっとした顔をした。
臣下たちはひそひそと話し合い、皇太子と第三王子は顔を見合わせた。
竜王だけが、面白そうに口角を上げた。
「献上? 五歳の公爵令嬢が? それはなんだ?」
「私からの献上は、物語でございます!」
「は? 物語?」
全員が怪訝な顔をした。お母さまは青くなっていた。お父さまだけが、鋭い眼差しでじっと私を見つめていた。
「はい。私は物語を作るのが得意なのです! 二十分くだされば、唸らせてみせますわ!」
「それは、二十分も俺の時間を使う価値がある物語なのか?」
竜王は急に、試すような眼差しで私を見た。
私は笑顔で言った。
「満足できる出来かは分かりません! けれど、拙い作品でもいいから、自分の持っているものを献上したくなる王の威厳が、竜王様にはあります。
古代、冥界の王様が魔界に君臨された際、恐れおののいた魔族たちは、自らの財と魔力を全て差し出し、命乞いをしたそうです。
竜王様を見て、その話を思い出しました。竜王様を見た瞬間、魔族たちの感情が分かりました。
ワルシャワ家の財産は両親のものですが、私の特技は私のものです。私の持っているものを差し出させてください!」
臣下たちがざわついた。皇太子と第三王子も顔色を変えた。
竜王は面白そうに口角を吊り上げた。お父さまも口角を上げた。お母さまだけが、青くなっている。
「いいだろう。きっちり二十分やる。聞いてやろう」
「竜王様の寛大さに感謝します」
私は一礼してから顔を上げると、声を変え、青年のような声を出した。
私は声を変えるのが得意なのだ。
そして、腕時計を確認するような仕草をした。
「いけない! 真夜中のお茶会に遅刻してしまう! 女王陛下はお怒りになるだろう!」
◇◇◇
「そして、カラス男は言いました。『さあ! 赤ワインを一滴残らず飲み干すのだ!』」
私はドスの効いた声で言った。直後、さっと青ざめた顔をした。
「『お前は何者だ!』とトランプを持った男が聞きました。すると、男はヴェールをゆっくりと外したのです」
私は被りものを外す仕草をした。そして、にやりと笑った。
「で、そのカラス男は誰なんだ?」
そう言って竜王は身を乗り出した。皇太子様も第三王子様も臣下たちもお母さまもお父さまも、いつの間にか聞き入っていた。
「カラス男の目は、冥界の闇のように赤黒く……」
「竜王様。お時間です。二十分が経ちました」
皇太子の声が、私の声を遮った。
竜王は悔しそうな顔をした。
「これは、続きが気になる……。あと五分やろう。語ってくれ」
「申し訳ありません。それはできないのです」
「なぜだ?」
「私は変音魔法で声を変えてます。私は子どもですから、まだ魔法が上手く使えません。これ以上は喉がひりひりしてしまいます」
竜王は残念そうな顔をした。そして、笑顔を作った。
「そうか。なら仕方あるまい。それにしても、五歳児が作った話とは思えん。演技も上手いし……。流石はワルシャワ家の令嬢だ! 才媛だな!」
竜王がそう言うと、皇太子が拍手をして言った。
「素晴らしい語りだったよ。ルージュナ=ファル=ワルシャワ。素敵な献上をありがとう」
臣下たちも拍手を送ってくれた。
私は笑顔で一礼した。
お母さまは目を潤ませていて、お父さまは感心した顔をしていた。
「竜王様にお褒めいただき、嬉しいです! ありがとうございます!」
「ハハハッ。子どもは素直で可愛いな。それで、続きはいつ語ってくれるのだ? 今日はもう帰るのだろう?」
「私、続きを語りたいです! 竜王様がお望みなら、明日でも明後日でも、お話します!」
「そうか。俺は続きが気になって仕方ない。ワルシャワ夫妻、ルージュナを貸してくれないか? 話が終わるまで、王城に滞在してもらいたいな」
臣下たちがどよめき、お父さまの瞳がきらりと光った。
「誠に光栄です。何日でも、滞在させますよ。いいか? ルージュナ?」
「はい! もちろんです!」
――やったぁ! これで王子様とお喋りできるかもしれない! 一緒のお城にいられる!
「ルージュナ、夕食は俺と食べないか? 色々話を聞きたいな」
「ええ!? 竜王様が!?」
お母さまが思わず声を上げた。竜王は気前よく笑った。
「予定がなければ、ワルシャワ夫妻も一緒に夕食をどうだ? 三人で泊まっていったらいい。もちろん、貴賓室は用意するし、ルージュナに侍女もつけるよ」
「ありがとうございます! お願いします!」
◇◇◇
「ルージュナ! 凄いわ。私たちの娘は天才だわ!」
「よく頑張ったな! 偉いぞ!」
お母さまとお父さまは、大広間を出るなり、私を褒めちぎってくれた。
「一瞬肝を冷やしたが……。挑戦は大事だな!」
お父さまに頭を撫でられて、私はとっても嬉しくなった。
――初恋のことは、お母さまにだけ話そう! お父さまには内緒よ!




