ep.100 語り手は第三王子様が好き
◇◇◇
「だから、ハナって名前の乳母にだけ、物語を語ってました! 語り上手になるまで内緒にしてたんです! 今日が初披露です!」
「アハハハッ。なんて勇気のある子どもだ!」
「ある日突然披露して、お母さまとお父さまをびっくりさせるつもりだったんです! でも、びっくりさせた第一号は竜王様になりました!」
「俺に威厳があったから披露してくれたのか?」
「はい! そうです!」
私と竜王様とお母さまとお父さまは四人で食卓を囲んでいた。
竜王様は私の話に、大爆笑していた。
「ワルシャワ夫妻は女の子が四人もいるんだって? 可愛いな。賑やかでいいね」
――竜王様、なんだか悲しそう。
竜王様は笑顔だ。だけど私は、その瞳の奥に深い悲しみを感じた。
――確か、第一王女様と第二王女様は、皇太子と争って死んじゃったんだよね……。娘を亡くして悲しいのかな? 元気づけてあげよう!
私は竜王様ににっこりと笑いかけた。
「竜王様がお父さまだったら素敵なのに! すっごくかっこいいので、毎日会うのが楽しみになりそうです! もちろん、チェーザマリーお父さまも好きだけど」
「そうか。嬉しいよ」
竜王は優しく目を細めた。
――竜王様って、優しい方なのかな?
「ところで、ルージュナの話は何話で完結なんだ?」
――どうしよう! 本当は三話で終わるけど、そしたらお話しできなくなっちゃう! 改造して引き延ばそう!
「実は、長編なんです! 百話で完結します! 今日は一話目の真ん中辺りです! 番外編もあります!」
――続きは頑張って考えよう! うん!
「そんなに長いのか? 困ったな。明日で終わらないな」
私はずいっと身を乗り出した。
「あの! 竜王様のためならいつでも語りに伺います! それに、竜王様がかっこいいので、また会いたいです!」
――本当は第三王子様に会いたいんだけど……。竜王様に会いに行けば、きっと王子様に会えるよね! 頑張って気に入られなくちゃ!
「可愛い語り手が会いに来てくれたら嬉しいよ。ワルシャワ夫妻、何日かに一回、ルージュナ公爵令嬢を寄越してくれないか?
もちろん、ドラゴンの王城に泊まってくれて構わないよ。城や庭園も好きに見て回ると良い」
――やったぁ! 大成功!
「竜王様。一週間に一回でいかがでしょうか? 百話なら、二年弱で語り終わるでしょうし」
――はわわ! 二年しか呼ばれない! 完結したら即、新しい話を語らなきゃ! 今から新作を考えておこう!
「チェーザマリー公爵の言う通りだ。それが良い」
こうして私は、一週間に一回、竜王城に行くことになったのだ。
◇◇◇
「そのとき、兎は『そこには落とし穴があるよ! 銀色の道を通らないとだめだよ』と言いました。でも、銀色の道には大蛇が住んでいるのです。
僕は思いました。この兎は危険な嘘つきだ。だが、死神の使いだ。死神と契約した以上は、こいつの言うことを聞かなくては!」
「それで? どっちの道に行く?」
竜王が聞いたときだ。砂時計の砂が落ちきった。
「竜王様。お時間です。続きは来週です!」
「くそっ! 毎回毎回、いいところで終わるな!」
――ふふん! だって、続きが気になるように計算して設計してますから!
「来週が待ち切れないな」
「本当ですか? 嬉しいです!」
竜王様に呼ばれるようになってから、半年が経っていた。
私は毎回、竜王様の執務室で物語を語っていた。
仕事の合間の休息として、竜王様は私の物語を気に入ってくださったのだ。
「今日もありがとう。ご褒美にお菓子をあげよう。ドラゴンキャンディーでいいか?」
「わーい! 私、ドラゴンキャンディー大好きです! 口の中でパチパチするから楽しいです!」
私が万歳すると、竜王様は微笑ましそうに笑った。
竜王様は机の引き出しからハート型の小瓶を取り出すと、私の手に乗せてくれた。
――嬉しいけど……。最初の謁見以来、王子様に会えてないな……。
一回だけ、回廊ですれ違って挨拶をした。ただ、それだけだ。
「キャンディー以外に、何か欲しいものはないか? 遠慮しないで言いなさい」
「……いいんですか?」
私が竜王様をじっと見つめると、彼は笑顔で頷いてくれた。けれど、その視線が鋭くなった気がした。
――私が何を欲しがるのか試してるのかな? よし! 正直に言おう!
「私の初恋を応援してください!」
「初恋……を応援? それは何だ?」
竜王様はぽかんとした顔をした。
私は顔をちょっとだけ赤くして言った。
「私、初めての献上のときに、王子様に一目惚れしたんです……」
竜王様は腹を抱えて大爆笑した。
「初恋か。可愛いな。どっちの王子だ? 皇太子か?」
「ううん。第三王子のアメシスト様です! 紫のジュエルアイがとっても素敵です!」
「そうか。なら、俺が応援してやろう。今日の十六時に皇太子と第三王子がアフタヌーンティーをするんだ。俺が混ぜてくれと言いに行くから、一緒に来なさい」
「いいんですか? 竜王様、ありがとうございます! 大好きです!」
「ハハハッ。大サービスだよ」
◇◇◇
「それで、父上から毎回キャンディーをもらっているのか? 良かったな」
「はい! 私、甘いものが好きなんです!」
――わーい! 第三王子様と話せちゃった!
庭園の東屋で、私たちはお茶と菓子を味わっていた。
竜王様は本当に、皇太子様と第三王子様のアフタヌーンティーに連れてきてくれたのだ。
しかも、私の隣の席が第三王子様だ。
――竜王様、最高すぎます!
私は心の中で、竜王様に百万回くらいありがとうを叫びたい気分だった。
「ところで、ルージュナ公爵令嬢は、公爵になりたいのか?」
第三王子が楽しそうに笑いながら私に聞いてきた。
私はどきりとした。笑顔なのに、探るような眼差しだったからだ。
――嘘はつかないほうがいいかも。
「なれたらかっこいいですけど……。なる気はありません!」
第三王子様と竜王様はびっくりした顔をした。皇太子様だけが、怪訝な顔で聞いた。
「せっかくワルシャワ公爵家に生まれたのに? そんなに賢いのに公爵にならなくていいのか?」
「はい! 私、他に夢があるんです!」
「夢? お前の夢ってなんだ?」
第三王子様に聞かれて、私はもじもじしながら言った。
「えっと……。舞台女優になりたいんです……。初めてお母さまに演劇に連れて行ってもらったときに、ときめきました! それで、自分で作った物語を部屋で一人で演じてました」
「なんだ。そうだったのか」
「でも、お母さまとお父さまには言ってません。貴族って、舞台女優にならないらしいし……。歌劇歌手なら貴族でもなれるらしいけど……。だから、歌手になろうかなって思ってます」
私が俯くと、皇太子様が優しく微笑んだ。
「僕の側近のエメラルド公爵の妻は、ネイリストだよ」
「えー! ネイリストって、平民しか就かない仕事じゃないんですか?」
「彼女は貴族だけどね。皆が認める有名なネイリストさ。君も両親に相談してみたら? 応援してもらえるかもよ?」
第三王子様も笑顔で言った。
「そうだぞ。チェーザマリー公爵は人間界にいる間、菓子職人や調香師をやってたそうじゃないか? 公爵なら理解があるんじゃないか?」
――そうなの? 相談してみようかな?
「分かりました! 帰ったらお父さまに話してみます」
「ところで、アメシストは演劇大好きじゃないか。ルージュナが子役になれたら、初舞台を見に行ってあげたらどうだ?」
――竜王様、ナイスフォロー!
「そうですね。そうします」
――ほんとに!? よし、絶対に子役になろう!
「ドラゴンの国には、オンディーヌっていう魔界一有名な劇団があるよ。そこのオーディションに応募してみたらどうだ? ルージュナは才能があるからな」
竜王様にそう言われて、私は力強く頷いた。
「はい! そうします!」




