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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
18章 白い結婚・新婚旅行
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ep.95 懐妊と双子の出産

◇◇◇   

「妻はどこが悪いのでしょう? 一時的な体調不良ですか? 病気ですか?」


 診察が終わるなり、チェーザマリーは医者に詰め寄った。


 医者はチェーザマリーの迫力にたじろいだ。


「落ち着いてください! チェーザマリー公爵!」


「落ち着けるわけないだろ? それで、診察結果は?」


「チェーザマリー、落ち着いてください。お医者様がお困りですよ」


 私が宥めると、チェーザマリーは黙った。


 医者は花がほころぶように、嬉しそうに笑った。


「結果は喜ばしいものです。おめでとうございます! ご懐妊でございます!」


「なんだって!?」


「ええ!? 子どもができたんですか!? こんなに早く!?」


 私とチェーザマリーは目を見合わせた。

 チェーザマリーはすぐに私を抱きしめた。


「リト! ありがとう! ああ! 嬉しいよ!」


 医者は丁寧に私に頭を下げた。


「お慶び申し上げます。お子さまの魔力を検査してみたところ、懐妊されたのは三日前かと。化け猫の平均妊娠期間は三ヶ月ですから、順調にいけば、予定日は九月末頃になりそうです」


「あ……あの! 魔族ってなかなか子どもができないですよね? こんなに早く懐妊するものなんですか?」


 私が興奮気味に聞くと、医者は不思議そうな顔をした。


「なぜかは私にも分かりません……。運もありますし。もしかしたら、ヴァンパイアと化け猫夫婦の組み合わせはお子さんができやすいのかもしれません。ただ、化け猫の異種族婚の前例が少ないので、あくまで仮説ですが……」


「そうですか……」


――たまたま運が良かったのかな?


「それと、魔力の波動を調べた限り、双子の可能性が高いですね。性別までは分かりかねます」


「本当!? 二人も!? 嬉しい!」


 はしゃいだ声を上げると、チェーザマリーが私を強く抱きしめ直した。


「すぐに名前を考えよう! 子どもの服やおもちゃも用意しなきゃ! 部屋は俺たちの部屋の隣にしようか? すぐに王都の別邸に連絡鳩を飛ばそう! 色々準備しなきゃ!」


――チェーザマリーってば、大興奮ね。ケイミル公爵夫人が妊娠したときのリドル公爵みたいだわ。可愛いかも。


 私はクスリと笑ってしまった。


◇◇◇ 

 私の懐妊の報せは、すぐに貴族社会に広まった。


 私とチェーザマリーが新婚旅行を切り上げて王都のワルシャワ別邸に帰ると、各国の名門貴族の知人や友人たちから、沢山の懐妊祝が届いていた。


 悪魔の王家やヴァンパイア王家、怪鳥王家、化け猫王家、化け狐王家からも祝の品が届いた。


 私とチェーザマリーは、それらを一つ一つ開封していった。


「チェーザマリー! ネルヴァー卿からの贈り物を見てください! ベビードレスですよ! 彼が自分で作ってくれたんですって!」


 箱を開けると、男女兼用のカラフルなベビードレスが六着でてきた。


「流石人気デザイナーだ。可愛いデザインだな」


「生まれてくる赤ちゃんは幸せ者ですわ」


 私たちは幸せを噛みしめていた。しかし、私たち以上に狂喜乱舞している者が二人いた。


 マリアンヌとユリジェンヌ侯爵だ。


「リトが懐妊!? 初めてのひ孫だわ!」


「予定日が近くなったらワルシャワ邸に泊めてくれないか? 生まれたばかりの赤子を抱きたい!」


 二人は、九月末にワルシャワ邸に泊まることになった。


 しかし、九月を待たずにワルシャワ邸まで大伯父様がやってきて、私たちにこう頼み込んだのだ。


「生まれる双子の内、両方または片方が男児だったら、一人を私にくれないか? 


次期ユリジェンヌ侯爵にするから! 私は子どもがいない。妻との約束で再婚したくないし、ユリジェンヌの血筋はリトの子どもだけだ!」


 私とチェーザマリーは快諾した。化け猫の国は爵位を継げるのが男子だけだが、ヴァンパイアの国では性別は関係ない。


 仮に生まれるのが男女の双子なら、男の子はユリジェンヌ侯爵に、女の子がワルシャワ公爵になればいいのだ。


 だが、私は不安になった。


「生まれる子どもは私の子だから、人間の血を継いでますわよ? 化け猫の国では、人間と結婚したら化け猫資格剥奪でしょう? 


私は特例でユリジェンヌ侯爵令嬢として認めてもらえましたが、爵位継承者となると難しいのでは? 


それに、オンを名乗れない侯爵なんて可哀想ですわ。混血を理由に、化け猫の魔王様はオン称号をお許しにならないでしょう」


 私がそう言うと、大伯父様は強気な笑みを浮かべた。


「それについては、策があるんだ」


◇◇◇ 

 やがて、九月末になった。しかし、予定日になっても陣痛は来ず、生まれる気配は全くなかった。


 私とチェーザマリーは不安になって、すぐに医者に診てもらった。


「大丈夫ですよ。リト公爵夫人のお体にも胎児にも、どこにも問題はありません。様子を見ましょう」


 私たちはひとまず安堵した。そして、十月三日になった。


 その日は朝からカモミールティーを飲み、チェーザマリーとリビングのソファでお喋りしていた。


「それでね、私の顔は四代前の侯爵夫人そっくりなんです。侯爵夫人の肖像画を見てびっくりしました」


「へえ。覚醒遺伝か」


「大伯父様なんて、六代前の侯爵に顔がそっくりなんですよ。ダークブラウンの髪とスカイブルーの瞳の色合いまで、そっくりです。お祖母様はお母さまにそっくりだったらしいですけど」


「覚醒遺伝が多い家系なら、双子は俺たちには似てないかもな」


「どんな子どもが生まれますかね?」


――もう予定日を五日も過ぎてるわ。いつ産まれるのかしら?


 私は腹部にそっと触れた。そのときだ。

 魔力が迸る、電流のような痛みが体に走った。


「……っ。痛い!」


 私が腹部を押さえてうずくまると、チェーザマリーは顔色を変えた。


「大丈夫か? 産まれるんじゃないか? すぐに産婆と医師を呼べ!」


 チェーザマリーが使用人に命じると、使用人は血相を変えて走り出した。


「チェーザマリー……。産室に蝋燭は用意されてますか?」


「ああ。用意してるよ。すぐに着火するからな」


「産室に連れて行ってください!」


――早く青色に変色させなきゃ! お腹が痛い!


◇◇◇ 

「おめでとうございます! 元気な男の子と女の子ですよ!」


「リト。産んでくれてありがとう!」


 無事に出産が終わると、チェーザマリーは私の手を握りしめた。


 その顔は心から嬉しそうで、満たされていて、私まで嬉しくなった。


――こんなに喜んでくれるなんて……。産んで良かった。


 赤子の体をお湯で洗い終わると、医師が私に男の子を手渡してくれた。チェーザマリーには女の子を手渡した。


「可愛い……。私の息子よ!」


 私はその子を抱きしめた。赤子はじっと私を見つめ返した。


 頭には猫耳が生えていて、八重歯はヴァンパイアのようにとがっていた。


――可愛いー! 赤ちゃんだからまだ、耳も牙も隠せないのね……。


 私がそっと頬を撫でると、男の子は耳をぴくぴくさせた。


――はわわ! めっちゃ可愛い! 我が子、めっちゃ可愛い!


「この女の子はリトに顔がそっくりだよ。髪はダークブラウンだし、両目はスカイブルーだ」


 チェーザマリーの声に、私ははっとした。チェーザマリーは蕩けるような笑顔で女の子を抱いていた。


 私は女の子をまじまじと見つめた。確かに、私に瓜二つだ。


――私のオッドアイの内、スカイブルーが遺伝したんだ……。私にそっくり……。可愛いな。


「あの! その子も抱かせて!」

「分かったよ。交換しよう」


 私は早くも赤ちゃんにノックアウトされていた。


「ほんとだ! 私のコピーみたいだよ!」


 私が猫耳を軽く撫でると、女の子は耳をひくひくさせながら、きゃっきゃとはしゃいだ声を上げた。


「可愛いー! 天使みたい!」


 夢中になって抱っこしていると、チェーザマリーがクスリと笑った。


「この男の子はユリジェンヌ侯爵に顔がそっくりだな。赤ちゃんなのにイケメンだぞ?」


「それ、私も思いました。でも、髪はターコイズブルーですよ! チェーザマリーにそっくりです」


「右目はターコイズブルー、左目はスカイブルーか。綺麗なオッドアイだな」


「チェーザマリーと大伯父様の良いとこどりですわ。なんて贅沢な子でしょう。将来は、大伯父様から魔界一美しい男の称号を奪ってしまうかもしれません」


 私たちが笑い合ったときだ。


 廊下から、バタバタと駆け足が聞こえて来て、扉が勢いよく開いた。


「双子が無事に産まれたって!?」


「大変だったでしょう! 体は大丈夫なの! リト!」


 お祖母様と大伯父様が私の側に駆け寄ってきた。


「大丈夫です。青い色炎のおかげで、出産は全然痛くなかったです!」


 私が笑顔を向けると、二人は安堵の息を吐いた。

 そして、赤子に目を向けた。


「その子たちが二人の娘と息子か!」


「なんて可愛いの!? 私にも抱かせてちょうだい」


――えー。もうちょっと抱っこしてたい。とられちゃった……。


 私は渋々女の子をお祖母様に差し出した。チェーザマリーは笑顔で男の子を大伯父様に手渡した。


「リトにそっくりよ! スカイブルーの瞳が美しいわ! ちょっと! 男の子はお兄さまにそっくりじゃない!」


「ああ。自分の息子みたいだ! ユリジェンヌ家の後継者だ!」


「女の子の名前はアヤナに、男の子ならギョクリンにするって言ってわね。ゴージャスな名前で、華のあるこの子たちにぴったりだわ!」


 二人は大興奮していた。しかし、私は頬を膨らませた。


「あの! そろそろ抱っこさせてください!」


 医師が恐る恐る「公爵夫人と赤子の健康状態を確認させてください」と言い出すまで、私たちは赤子の抱っこ争奪戦を繰り広げていた。


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