↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
1章 じっくり仕込んで、デビュタントでぶっ潰しますわ ※本作は短編集ではありません。第一話から物語が続いていく長編小説ですので、第一話から順番にお楽しみください。
9/133

ep.9 お見合いが嫌だから、人間界に逃亡します

目の前では、大伯父と祖母が議論をしていた。


「だからね! お兄様! 私は、悪魔の国のこの男性陣がいいと思うのよ!」

「いいや! 私はグリフィンの国の侯爵がいいと思う! 三人も未婚なんだぞ?」


「ちょっと! ドラゴンの国も捨てがたいわ! そういえば、シュクカイはどう? まだ未婚だし、超名門伯爵家の卿よ! 交流あるじゃない!」

「だめだ! あいつは研究しか頭にない。妻より研究だ。私はリトを構ってくれて、大事にしてくれる男性がいい」


「いっそ、堕天精霊の国は? あちらの公爵と結婚しても、称号獲得よ」

「悪くない。だが、ヴァンパイアの国もいいぞ?」


「ああ! もう! なんで化け猫の国の侯爵以上はお兄様以外、結婚してるのよ! 侯爵家以上にはまだ子どもがいないし……。男子がいたらなぁ……」


――ちょっともう。いい加減にして欲しい。


「あのね、大伯父様、お祖母様。魔族は長寿だから、晩婚も珍しくないのよ? 結婚なんて、やっぱり早すぎない? 私、二十歳よ。魔族の最高年齢記録は千五百一歳よ」


「何言ってるのよ! 結婚したら、称号を獲得できるのよ!」

「そうだ。私はお前に称号を持たせてやりたい」

私はため息をついた。


◇◇◇

 遡ること数日前。


 デビュタントの翌日、私は私室で寛いでいた。すると、大伯父が何枚もの紙をもって私の部屋を訪れた。


 私が聞くと、大伯父は嬉々として答えた。

「お前のお見合い相手の肖像画だ」

「……は?」


 困惑している私に、大伯父は真剣な顔で言った。

「私はお前に、称号を持たせてやりたいんだ。オンでもデでもファルでもいい。素敵な貴族男性と結婚させてやりたい」

「ええ?」


◇◇◇

 二日後、五人とのお見合いの席が設けられた。


 まずは国内貴族とお見合いをしてみようということになり、私の好みを聞いた上で、大伯父が五人を選抜したのだ。


 一人目は、伯爵家序列四位のドモン伯爵、二人目はドモン伯爵の弟のドモン卿、三人目は序列七位のランス伯爵、四人目は序列十位のカエン伯爵、五人目は、子爵家序列一位のフィリッハ子爵だった。


 フィリッハ子爵は、爵位は子爵だが、外国のいくつかの侯爵家と懇意にしている。さらに、宝石鉱山や金鉱山などの莫大な富を持っているので、お見合い相手に選ばれた。


 私は朝から、一人ずつ、談笑したり散策したりして過ごした。一人と過ごす時間は、一時間三十分だった。


 私よりも、むしろ男性陣の方が乗り気だったと言っていいだろう。


 まずは、ドモン伯爵とお見合いをした。ドモン伯爵とは、ユリジェンヌ邸の庭園を散策して過ごした。


 「素敵な庭園ですね。庭師の手が行き届いてますね。珍しい花も沢山ありますね」

 ドモン伯爵は、庭園を絶賛した。


――優しいし親切だけど、なんかこの伯爵、いまいちかも……。


 二番目に、ドモン卿と庭園を散策した。


「ユリジェンヌ侯爵令嬢は、花が好きなんですか?」

「好きですわ。薔薇とか、牡丹が好きです」

「大輪の花が好きなんですね」

「いえ。形が面白い花が好きなんです。だから、食虫植物とかも好きですよ」

「食虫植物!? ユニークですね! でも、虫を食べてくれるから、庭にとっては便利ですね」


――ドモン卿の方が話してて楽しいかも。


 三人目は、ランス伯爵だった。

「ユリジェンヌ侯爵令嬢は本当に美しいですね! それに、デビュタントで見た色炎の輝きが忘れられません」

 ランス伯爵は、色炎について沢山質問してきた。


――ランス伯爵は、私よりも、色炎に興味があるのかな?


 四人目は、カエン伯爵だった。

「ユリジェンヌ侯爵令嬢は乗馬が好きなんですか? 僕もなんです。よければ、今から一緒に乗馬をしませんか?」


 カエン伯爵の提案で、私と彼はユリジェンヌ邸の馬術場で乗馬をして過ごした。

 カエン伯爵は馬が大好きらしい。乗馬の話で盛り上がった。


 最後はフィリッハ子爵だった。

「こちらは我が領地でとれる宝石なんです。ユリジェンヌ侯爵令嬢に似合いそうなものをいくつかお持ちしました」

「まあ。ありがとうございます」


 子爵は、領地の特長や観光地について説明してくれた。結婚したらどんな感じか想像しやすいように、屋敷の見取り図や屋敷で使っているテーブルクロスやカトラリーまで持参してくれた。どれも、刺繍や彫刻が美しい一級品だった。


 一日が終わる頃には、私はどっと疲れていた。


◇◇

 私が入浴を済ませて部屋で休んでいると、大伯父が部屋を訪れた。

「お見合いはどうだった? 誰か気になる男性はいるか?」


「うーん。素敵な方もいましたが、全体的に微妙というか……。私、お祖母様が『お兄様のせいで私の顔面基準はおかしくなったわ! どんな男性を見ても、なんだか今いちなのよね……』って言った気持ちが分かりました。大伯父様の顔と教養の前には、全員霞んでしまうんですよね……」


 大伯父は苦い顔をした。

「嬉しいが……。つまり、気に入った男はいなかったのか」


「うーん。強いて言うなら、ドモン卿が一番お話してて楽しかったかも。でも、結婚してずっと一緒にいると考えたら、違うかもしれません……」


 大伯父はため息をついた。 

「そうか。実はな、マリアンヌを屋敷を呼んだんだ。明後日には来てくれるぞ」

「お祖母様が?」


「そうだ。マリアンヌはお前の結婚相手探しにノリノリだ。悪魔の国に人脈もあるし。きっと、良い男性を見つけてくれるぞ?」


――ええー……。まだお見合いやるの? もう疲れたんですけど。


◇◇◇

 そして、今日に至る。大伯父と祖母は、真剣に議論をしていた。


――私、やっぱりまだ結婚したくないかも。早すぎるし……。全然、気持ちが乗らないわ……。


 私は正直に伝えることにした。

「私ね、まだ結婚したくないな。もっと人生経験積んでから結婚したいかも」


 大伯父は困った顔をした。

「そうか……。無理に結婚させる気はないが……。会ってみるだけ会ってみないか? 気が変わるかもしれない」

「うーん」


祖母はむしろ、私を結婚させたがった。

「称号がないなんて、理不尽よ! 私、リトに称号を持たせてあげたいわ。それに、結婚生活って楽しいわよ。お試しでお見合いだけでもしてみない? 悪魔の国には未婚の侯爵がいるわよ?」


「ううーん」


――このお見合いの圧から逃げたい……。婚活は疲れる……。何か良い方法はないかな?……そうだ!


「大伯父様! お祖母様! 私、人間界に行ってみたいです! 一年だけ、猫として暮らしてみたいわ! その間、お見合いは少し待ってくれません?」


「はあ!?」

「何ですって!?」

 大伯父と祖母は素っ頓狂な声を上げると、猛反対した。


「駄目だ! ガーネットは人間界に行って失敗したんだ!」

「そうよ! 可愛い孫娘を人間界にやりたくないわ!」


――やっぱり駄目か……。人間界、一回行ってみたかったんだけどな……。


 私が肩を落としたときだ。急に、祖母ははっとした顔をすると、瞳を輝かせた。

「いや、やっぱり行っていいわ! むしろ、行きなさい!」


「ええ!?」

「はあ!? マリアンヌ、お前さっきまで、反対していたのに、急にどうした?」

「お兄様! ちょっとこっちに来て」


 祖母は大伯父を引っ張ると、部屋から出て行った。しばらくすると、二人は戻ってきた。


 大伯父は私に優しく微笑んだ。

「人間界に行くのも良い経験だ。行ってきなさい」


――ええ!? 急に、どうしちゃったの?


「ただし、人間と恋愛するのは禁止だ。それと、一週間に一回は、ユリジェンヌ邸に帰って来なさい。いいね?」

 厳しい口調で言われ、私は頷いた。すると、祖母は嬉しそうに笑った。


「人間界に滞在中は、バー・ゴスメーデのマスターに面倒を見てもらいなさい。彼は帝国の首都の店で、バーテンダーをしてるのよ」

「バー・ゴスメーデのマスター? それは誰ですか」


 私が聞くと、祖母の瞳がきらりと輝いた。

「アルフィス=デ=ゴスメーデよ」


「ああ……。ゴスメーデ公爵家の唯一の後継者で、魔王様の第十四夫ですね。でも、彼がバーテンダー? 三十年くらい前から人間界で暮らしてるとは聞いてましたが、バーテンダーをしてるんですか? 彼は元宰相ですよね? 貴族のアルフィス=デ=ゴスメーデが、バーテンダー???」


 祖母は楽しそうに笑った。

「彼はね、最初から官僚にならずに、バーテンダーを五十年やっていたのよ。その後で、宰相補佐になり、宰相になったの」

「ええ!?」


「彼は長い間、悪魔の国の宰相をしていたけどね。最近、バーテンダーに復帰したのよ。彼は魔界バーテンダー大会一位の腕前よ。ファンも多いわ」


――どういう経歴? ……アルフィス=デ=ゴスメーデには何度かお会いしたことがあるけど、人間界でバーテンダーをしているの? なんで?


「彼のバーには、人間界で暮らしてる悪魔や、魔界からわざわざ来店する魔族が訪れるわ。もちろん、アルフィスが悪魔だと人間は知らないから、人間も訪れるわよ。悪魔は正体を隠して人間社会に溶け込むからね。社会勉強にもなるから、行ってきなさい」


◇◇◇

「お兄様! ちょっとこっちに来て」

 私は兄の腕を引っ張ると、廊下に連れ出した。


「お前、何を急に賛成してるんだ?」

 兄は怪訝な顔をしたが、私は自信満々に答えた。


「リトを人間界に送るわ! それで、アルフィス=デ=ゴスメーデに面倒を見てもらうの。私のお願いなら、彼は聞いてくれるはずよ。私、社交界の華ですから」


「……なんでアルフィスに?」

私は兄の肩を叩いた。


「お兄様ってば! バー・ゴスメーデには、一流の魔族が来るのよ! 私、行ったことありますけどね。常連には、未婚の上位貴族の男性が沢山いるわよ! もしかしたら、自然な流れでリトが恋するかもしれないじゃない!」


 兄の瞳が、きらりと輝いた。

「それはいい。もしかしたら、気に入る男がいるかもな。確か、結婚する気ゼロのチェーザマリー公爵とかも常連だった気がするが……」


「あのね、ゴスメーデには、悪魔のダータン伯爵や堕天精霊のシェルバ公爵、ジュエルドラゴンのエメラルド公爵とかも通ってるのよ。彼らに結婚する気があるかどうかはともかく、素敵な出会いがあるかもしれないじゃない! 初恋を経験するだけでも、結婚へのハードルは下がるわ!」


「それは良いアイディアだ!」

 私と兄は、頷き合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。