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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
16章 一夫多妻の狐家の闇
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ep.86 公爵と侯爵の晩酌・公爵夫人とピュアなレディ

◇◇◇ 

――キャー! キスしてる!


 私は茂みの影に隠れながら、真っ赤になっていた。


 オローズ公爵夫人に妻全員分の贈り物をした後、私は中庭を散策していた。


 よく手入れされた花々に夢中になって散策していると、黄金躑躅が咲く中庭に来た。


 黄金躑躅は茂みの下の方にだけ花を咲かせる独特な躑躅だ。


 躑躅をよく見ようとして、私はしゃがみ込んだ。そのとき、吹き抜けの回廊にファウバブト公爵とオローズ公爵夫人が姿を現したのだ。


 二人は仲よさそうに話していたかと思うと、キスを交わした。


――ええー! キスって、あんなに長いの!?


 心臓がばくばくして、私は固まっていた。


 気まずい。今出ていったら気まずすぎる。


 キスを終えると、二人はまた歩き出した。すぐに姿は見えなくなった。


――キスってどんな感じなのかな? 私も恋人ができたらするのかな?


 なんだが恥ずかしくなった私は、立ち上がると、大伯父様が探しにくるまでの十分間、中庭をうろうろしていた。


◇◇◇ 

「それで、元男爵令嬢のサーズ侯爵夫人なんかのために、恋人作戦を始めたのか? ユリジェンヌ侯爵令嬢はお人好しすぎるな」


 私は呆れた笑いを漏らしながら、酒の杯をあおった。


「まったく。付き合わされるチェーザマリー公爵も不憫といいますか……。申し訳ないですね」


 ユリジェンヌ侯爵はため息をつくと、チェーザマリー公爵をじっと見つめた。 

 本心を探るような眼差しだった。


――ふうん。チェーザマリーがユリジェンヌ侯爵令嬢をどう思ってるか、ユリジェンヌ侯爵もやっぱり気になるんだな。


 チェーザマリー公爵は楽しそうに笑った。


「嘘でも、リトと恋人になれるだなんて光栄ですよ。リトは優しくて頭が良くて美しくて、才色兼備の令嬢ですから。マリアンヌ男爵夫人とユリジェンヌ侯爵の血が濃いのでしょうね」


「そうなんだよ! リトは世界一可愛いんだ!」

「ユリジェンヌ侯爵、親ばかだよ」


 私が突っ込むと、ユリジェンヌ侯爵は非難がましく私を指差した。


「は? ファウバブト! 現実を見るんだ。リトが世界一可愛いのはどっからどう見ても事実だろ?」


「はいはい。ユリジェンヌ侯爵令嬢が世界一可愛いなら、世界一美しいのは私の妻かな。もちろん、オローズのことだよ」


「オローズ公爵夫人だけですか。他の九人の妻が聞いたら、怒るのでは?」


 チェーザマリー公爵は掠れた笑い声を漏らした。完全に面白がっている。


「勝手に怒れば良い。私は怒れなんて言ってない。私の一言で、一人で勝手に怒り出すような妻もいるけどね」


 私は妻たちの顔を思い浮かべて言った。


「チェーザマリー公爵も趣味が悪い。あなたが『案内役は一人で十分』などと言うから、食事の席で妻たちが揉めだしたんですよ。私がどんなに恥ずかしかったか。あれ、わざと煽りましたよね? もしかして、女の醜い争いがお好きで?」


「まさか。そんな趣味はありませんよ」


 チェーザマリー公爵は可笑しそうに笑った。しかし、その目を見て私は確信した。


――やっぱり、わざとだったか。


 妻たちの内情を見ようとしたのだろう。


「来客の前では品位を保って欲しいですね」 


 私が言うと、ユリジェンヌ侯爵が吹き出した。


「お前も最低だぞ。妻たちの食事の席で、息子を一人褒めれば、妻同士の競争心が刺激される。わざと煽って、野心や競争心を確認しようとしてんだろ? そういうのが強すぎる母親は次期当主の母親として心配だからな」


「ユリジェンヌ侯爵、ストレートすぎるよ。毎回毎回、私の心理を当てるのは止めて欲しいな」


 ユリジェンヌ侯爵は楽しそうに笑うと、杯を一息に飲み干した。 


 すぐにチェーザマリーがユリジェンヌ侯爵に酌をした。


――チェーザマリー、ユリジェンヌ侯爵に取り入る気、満々か? ユリジェンヌ侯爵令嬢を手に入れたら、未来の義父だもんな。


「ところで、化け狐の国には一週間滞在することになってるけどね。墓参りの予定は大丈夫かい? ユリジェンヌ侯爵は、亡き妻の墓参りを毎週しているじゃないか?」


「来る前に花を供えてきたから問題ないよ。外国に長期間滞在するときは、毎回そうしてる」


「そういえばそうだったね。ユリジェンヌ侯爵は愛妻家だね。亡き妻との約束を守って、今でも再婚しないんだから」


「毎週墓参り!? それは凄い」


 チェーザマリー公爵が驚くと、私はチェーザマリー公爵を見ながら言った。


「ユリジェンヌ侯爵令嬢の結婚相手は、ユリジェンヌ侯爵みたいに愛情深い男が向いてるんじゃないか?」


「そうですね。できればその相手には、俺がなりたいです」


 チェーザマリー公爵が微笑むと、酒を飲んでいたユリジェンヌ侯爵が軽くむせた。


 チェーザマリーはユリジェンヌ侯爵をじっと見つめて言った。


「俺は本気です。リトを愛しています。将来的には求婚するつもりです。そしたら、彼女を俺にください」 


 ユリジェンヌ侯爵は瞳を爛々と光らせた。


「本気なんですか? それは良い! チェーザマリー公爵になら、リトを任せたい! 私はリトに結婚して欲しいんだ。称号を持たせてやりたいからね」


「リトにはファル称号をお約束しますよ。それから、最高の待遇と条件で我が家に迎えさせて頂きます」


「最高の待遇と条件ね。具体的には?」


 ユリジェンヌ侯爵の瞳が妖しく光った。チェーザマリーは笑顔で続けた。


「結婚の支度金は、ワルシャワ家で全て負担しますよ。結婚後は我が家の財産を好きに使ってくれて構いませんし。ユリジェンヌ侯爵家にも、色々と便宜を図らせて頂きます。他にも、具体的な条件はリトが承諾したら話し合いましょう」


「リトがワルシャワ公爵夫人になってくれたら最高だよ。ヴァンパイアの魔王様は不死身で永遠に結婚しないから、ヴァンパイアの国の王妃は不在。つまり、序列一位のワルシャワ公爵夫人が、ヴァンパイアの国のファーストレディだ。リトに最高地位をあげられる!」


「地位以外にも、リトが快適に暮らせるように色々配慮させてください。異国に嫁ぐなら、慣れないことも多いでしょうし。全力でサポートさせて頂きますよ」


「リトの話を聞く限り、チェーザマリー公爵とは楽しくすごしているようだし。この前は手紙をくれたね。君なら頼りになるよ」


「ありがとうございます。リトに惚れてもらえるように、頑張ります」


 チェーザマリー公爵が真剣な顔で言うと、ユリジェンヌ侯爵は満足そうに笑った。


――チェーザマリー公爵、本気なのか。ユリジェンヌ侯爵はあっさり承認か……。


 考えてみれば当然か。序列一位の公爵からの求婚なら、貴族の常識で考えたら断る理由がない。


「へえ。チェーザマリー公爵はなんでユリジェンヌ侯爵令嬢に惚れたんだい?」


 私は少し身を乗り出して聞いた。好奇心を抑えきれなくなっていた。


――ヒガシの部屋を訪れる時間まで、今晩はチェーザマリー公爵を質問攻めだな。

 


◇◇◇ 

「それで、何回かデートして、すぐにファウバブト公爵と結婚されたんですか?」  


 私がみたらし団子をもぐもぐしながら尋ねると、オローズ公爵夫人は花のように笑った。


「そうなのよ。ファウバブトはすでに妻が二人いたから、エスコートも上手くてね。それに、あんなに美男なのよ。私、くらっときちゃったわ」


 夜の九時。色炎を宿すためにオローズ公爵夫人の宮を訪ねた私は、侍女と夫人から大歓迎を受けていた。


 私が蝋燭の炎を変色させると、オローズ公爵夫人と侍女たちは色炎の美しさに感嘆のため息を漏らし、私に何度も感謝を述べてくれた。


 その後、菓子と抹茶を勧められて、私とオローズ公爵夫人は話に花を咲かせていた。


「化け狐の国ではね、何人か妻を娶って一緒に暮らした後に、夫が正妻を決めるのよ。でも、結婚前にファウバブトは『オローズを正妻にする。君がふさわしい』って言ってくれて、私を始めから正妻にしてくれたの」


「うわぁ! 愛されてるんですね!」


 私が瞳をきらきらさせると、オローズ公爵夫人は少しだけ冷たく笑った。


「私の実家は名門だし、正妻は妻たちのまとめ役だからね。ファウバブトは愛だけじゃなくて、素質を見てるのよ」


「そうなんですか? でも、ラブラブじゃないですか? 今日だって回廊でキス……」


 言いかけて、私ははっとした。


――まずいー! 口が滑ったー!


 赤くなった私を見て、オローズ公爵夫人は艶めいた笑みを浮かべた。


「あら? 見られたのかしら?」


「あの……! 黄金躑躅を見てたんです! しゃがんでたら……二人が現れてキスしてて……! 気まずくて隠れてました!」


「ユリジェンヌ侯爵令嬢って、ピュアなのね。ふふっ」


――うわー! なんか大人の女性って感じ! なんか恥ずかしくなってきたー! 話、逸らそう!


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