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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
15章 偽装恋人作戦、開始ですわ!
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ep.80 ワインの事故なら、恋愛イベントに上書きよ!

◇◇◇ 

 もやもやした気持ちで着替えを済ませると、私は扉を開けた。


「チェーザマリー! お待たせしました」

「全然待ってないよ。……へぇ。よく似合ってるな。リボンが沢山ついてて可愛いな」


「この侍女がとっても器用だったんですよ。複雑な形のリボンもあっと言う間に作っちゃうんです」


「光栄です」

 侍女は几帳面に一礼した。


 私は真剣な眼差しで、チェーザマリーの目を見つめた。


「チェーザマリー、私、弁償はいらないですわ」


「なんでだ? 気合いを入れたドレスだったんだろ? 宝石だって沢山使われてるし、せっかくネルヴァーがアレンジしてくれたのに?」


「サーズ侯爵夫人の話を侍女から聞いたのですわ。弁償なんてさせたら、周囲から色々言われるに決まってます。可哀想ですもの」


「お前、優しすぎるな」


 チェーザマリーは愛しそうに目を細めた。


 私はぐいっと身を乗り出した。

「だから、お断り作戦に協力してください!」


「お断り作戦? なんだそれ?」


 話し終わると、チェーザマリーは戸惑った顔をした。 


「それ、めっちゃ誤解されるぞ」


「いいですよ! どうせ噂は止まらない。なら、有効活用しましょ。いっそ、盛大に誤解させるのです。レッツ、恋人作戦ですわ」


◇◇◇ 

 会場に戻ると、貴族たちの視線を一斉に浴びた。


 彼らは私のドレスを見て、ひそひそと話していたが、すぐにサーズ侯爵夫人が青い顔で駆け寄ってきた。


「ユリジェンヌ侯爵令嬢! 着替えは無事に終わりました? 染みは大丈夫でしょうか」


 私は笑顔で答えた。

「ええ。今、使用人が染み抜きをしてくれてますわ。それと、弁償は不要です」


「ええ!?」

 夫人が驚いて声を上げると、周囲の貴族たちもざわついた。


 私は隣で微笑んでいるチェーザマリーを見上げた。

「だって、チェーザマリーが、私に素敵なドレスをプレゼントしてくださるそうなので」 


「ああ。今日ここに連れてきたのも、パートナー役も俺だ。事故なんて普通に起こる。大切なパートナーの衣装だから、代わりは俺がプレゼントしたいんだ」


 周囲から黄色い声が上がった。


――ああ……! これで誤解確定……!


 チェーザマリーは私に微笑んだ。


「リト。明日は俺に付き合ってくれ。一流の仕立て屋に連れていくから。ついでに、観光もしよう。今日より素敵な一日をプレゼントするよ」


「まあ。ありがとうございます」


 チェーザマリーはサーズ侯爵夫人に笑顔で言った。


「デートの口実ができて嬉しいよ。むしろ、ワインをかけてくれたことに感謝したいくらいだ」


 サーズ侯爵夫人の顔がぱっと明るくなった。一方、会場中が黄色い声とどよめきで満たされた。


◇◇◇ 

「それで、チェーザマリー公爵と明日はデートですか! キャー!」


 帰って話をするなり、アトリは黄色い声を上げた。


「男爵令嬢とかいう批判を恋愛イベントで上書きしてしまう……。ユリジェンヌ侯爵令嬢は発想の天才です! 私がその場にいたら、サーズ侯爵夫人が男爵令嬢とかもうどうでもいいです! ユリジェンヌワルシャワカップルに大注目です!」


「これでサーズ侯爵夫人は批判されないけどね。私の生活が犠牲になったわ。しばらく、チェーザマリーとは"恋人のふり"をするの。時期を見て、別れて友人に戻ったって触れ回ることにしたわ。」


「いっそ、真剣交際されては? チェーザマリー公爵と結婚されてはいかがですか? 家柄も地位も文句無しですよ。数年後に宰相復帰予定ですし」


「私、子どもを産みたくないの。出産が怖いの。だから、爵位持ちは嫌よ。卿と結婚するわ」


「そうなんですか!? ……いや、そういう選択肢もありですよね」


 アトリは驚いたが、すぐに優しく微笑んだ。だから、私は笑顔になった。


「うん! それに、結婚はしばらくしなくていいかな? 私はまだ二十歳よ。化け猫は寿命が八百歳あるのよ」


「それもそうですね!」


「ひとまず、明日のデートは普通に楽しむわ! 本当にドレスをプレゼントしてくれるんだって!」


◇◇◇ 

「ひとまず、明日のデートは普通に楽しむわ! 本当にドレスをプレゼントしてくれるんだって!」


 菓子をつまみながらはしゃぐ主を見ながら、私は思っていた。 


――ユリジェンヌ侯爵令嬢みたいに優しくて、家柄が良くて、美しい方には、序列一位公爵がお似合いだわ!


 何より、主は世界でただ一人の色使いだ。平凡な男など、私が許さない。


――チェーザマリー公爵の容姿は中の上ってとこね。でも、余裕があって、髪と瞳の色がとても美しいわ! 二人が並んだら映えるわ! チェーザマリー公爵! 頑張って!


 私は主を見つめるチェーザマリー公爵の瞳から、恋心を感じとった。女の勘は誤魔化せない。


――ユリジェンヌ侯爵令嬢は卿がいいみたいだけど、気が変わるかもしれないもの!


 私はチェーザマリー公爵に、心の中で応援を送った。


◇◇◇ 

 次の日。新年、一月一日の十三時にチェーザマリーは私を迎えに来た。


「リト。明けましておめでとう」

「チェーザマリー! 明けましておめでとうございます!」


 私たちは馬車に乗り込むと、美術館や王都の名所を巡った。


 夜は一緒にディナーを楽しんだ。 


 食べ終わると、彼は私を仕立て屋に連れて行ってくれた。


 仕立て屋の名前はルパン。紳士服もパーティードレスも喪服も作るヴァンパイアの国の名店だ。


「予約困難な店でしょう? 昨日の今日でどうやって枠を押さえたんですの?」


 私が聞くと、チェーザマリーは余裕のある笑みを浮かべた。


「店長とは懇意にしてるんだ。『閉店後ならいつでも来店していい』って言われてる。仕立ても優先してやってくれる。緊急の注文も受けてくれるぞ」


「まあ! 凄いですわ!」


――やっぱり、序列一位の公爵なのね!


 店長は私を大歓迎してくれて、デザイン画を何枚も描いてくれた。


 帰りは、チェーザマリーがホテルのロビーまで送ってくれた。


「おやすみ。リト。良い夢を」

「今日は本当にありがとうございました! 昨日より素敵な一日でしたわ! お休みなさい」


 去っていく彼の背中を見ながら、私は思った。


――もう帰っちゃうんだ。なんか、ちょっと残念かも。


 次に会う約束をしているのは、一月二十日。

 人間界の帝都乗馬クラブで待ち合わせだ。


――もうちょっと話したかったかも。バー・ゴスメーデに行けば、二十日より前に会えるかな? チェーザマリーは常連だし。マスターにも会いたいし、またゴスメーデに行こう!


 私は微笑むと、軽やかな足取りで螺旋階段を上りだした。


◇◇◇ 

 屋敷に帰ると、使用人たちが俺を出迎えた。

 俺はフットマンにコートを預けると、執事と並んで歩き出した。

「デートは楽しかったですか?」

 執事に笑顔で聞かれ、俺は頷いた。

「ああ。楽しかったよ。リトは可愛いからな。二十歳まで屋敷で育ったせいかな? あんまり外の世界を知らない。ピュアだな」

「何回惚気るんですか? 本人の前で、でれでれしてないでしょうね」

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