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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
14章 竜王家への殺害予告
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ep.73 第二王女殺害予告

「もちろんですわ! 私とラムダ公爵だけの秘密です! だから、今日は思いっきり泣いてくださたい!」


 励ますと、ラムダ公爵は再び泣き出した。そして、私に打ち明けた。


「公爵になったら、他の怪鳥公爵家四家に挨拶周りに行くのよ。皆、私に同情して腫れ物みたいに扱ってきたわ! でも、イザベラ公爵だけは違ったの!」


――イザベラ公爵? 確か、ケイミル公爵夫人がお世話になったっていう序列一位公爵ね。


「イザベラ公爵は『今回の件で怪鳥の国の面子が潰れた。お前は夫をしっかり選べ。同じ公爵家として恥ずかしい』って私を叱責したわ! きっと、皆も心の奥底ではそう思ってるのよ!」


「ラムダ公爵はまだお若いですわ! これから実績を積めば大丈夫ですよ!」


 私が必死で励ますと、ラムダ公爵はさらに泣いた。

 そして、一時間以上が経ち、ようやく泣き止むと私に言った。


「ユリジェンヌ侯爵令嬢は優しわ。私、感動しました。私、あなたと友達になりたいです。実は、怪鳥貴族には歳の近い令嬢や令息がいなくて……。私、友達がいないんです。私の初めての友達になってください」


「もちろんですわ! 一緒に文通しましょ!」


 私がラムダ公爵の両手を握ると、彼女は嬉しそうに笑った。


「いつでも怪鳥の国に来てくださいね! ハディッシュ家で大歓迎しますわ!」


◇◇◇ 

 その後、私はファウバブト公爵と一緒に表彰された。怪鳥の魔王から、直筆の感謝状まで頂いた。


「何かお礼がしたい。欲しいものはないかい?」


 表彰が終わると、魔王から、謁見室にファウバブト公爵と共に呼び出された。


 私は少し考えてから言った。


「もしよければ……。アトリという名前のメイドを私にください。瞳の館の私専属のメイドなんです。私が事件で落ち込んでるときに、励ましてくれたんです。連れ帰って、ユリジェンヌ邸で専属侍女にしたいです」


 ファウバブト公爵は隣でぎょっとした顔をしたが、怪鳥の魔王は嬉しそうに笑った。


「そうか。そんなに我が国のメイドを気に入ってくれて嬉しいよ。王城教育に予算を注ぎ込んだ甲斐があった」


 魔王は私にアトリを下賜してくれた。その上、珍しい魔鳥の羽で仕立てた反物を馬車に積みきれないほど贈ってくれた。


「ファウバブト公爵、君は何か欲しいものはないかい? 遠慮しないで言ってくれ」


――ファウバブト公爵は何を頼むのかな?


「金貨が欲しいです」 


――お金なの!?


 私がぎょっとすると、ファウバブト公爵は優雅に微笑んだ。

「最近、事件続きで部下たちが疲れてましてね。彼らに特別手当を出したいんですよ」


「ほう? ファウバブト公爵は良い上司だな」

 魔王は快諾して、袋いっぱいの金貨をファウバブト公爵に贈った。


――ファウバブト公爵って、嫌な奴なのか良い奴なのか分からないわ。


 無論、国際警察の魔族たちが特別手当に喜んだのは想像に難しくない。


◇◇◇ 

 謁見室を出た私とファウバブト公爵は、回廊を並んで歩き出した。


 すれ違う者たちは、私たちに丁寧に頭を下げた。


「あの……。事件の解明お疲れ様です。ファウバブト公爵って、冷静で凄いですね」


「ユリジェンヌ侯爵令嬢にそう言って頂けて嬉しいですよ」


「部下に特別手当を出すなんて、ファウバブト公爵って優しいんですね」


 私が微笑むと、ファウバブト公爵は冷たい笑みを浮かべた。 


「ああ。私は最近部下をこき使ってましたから。ほら、国際警察は国際事件以外も扱うでしょう?」


「確か、難解な殺人事件の個人依頼とかも受けてるんですよね?」


「はい。なぜかここ三ヶ月は事件ばかり起きていまして。部下を酷使し続ければ、私は支持を失います。飴と鞭は大切です。金をくれる上司についていかない部下はいないでしょう?」


――ファウバブト公爵って、やっぱり最低かも。


「国際警察の予備予算から特別手当を出しても良かったんですけどね。怪鳥の魔王様が金貨を出してくださったので、節約できましたよ」

「……」


――私の感心、返してよ。


「部下から慕われて、私の立場はますます安泰。おまけに、魔王様から"良い上司"と評価されました。部下は喜ぶし、一石三鳥ですね」


 ファウバブト公爵はにっこり笑った。私は引きつった笑みを浮かべた。


「ところで、帰りは私の馬車で一緒に帰りませんか?」


「え……? ファウバブト公爵と一緒に馬車に乗るんですか?」


「はい。化け猫の国に帰るには、化け狐の国と悪魔の国を通るでしょう? 化け狐の国までご一緒しませんか? よければ、我が家でおもてなしをさせて頂きます」


「えっとぉ……。一緒に帰って泊まったりしたら、私たちの関係が誤解されないですか?」


――そういえば、化け狐の国は一夫多妻制だったわよね。ファウバブト公爵には妻が十人いるって聞いたわ。


「ハハハッ。それはありえないですね」

 ファウバブト公爵は本当に可笑しそうに笑った。


「化け狐は純血重視です。化け狐同士の婚姻しか認められていません。狐の他国への嫁入りと婿入りだけは例外的に可。私とあなたが恋人になることも、結婚することもありません。公爵なので、婿入り不可です」


「……言われてみれば、その通りですね。でも私、事件で疲れてるんです……。今回は遠慮しますわ。早く自邸で休みたいです」


「そうですか。でも、よければ後日遊びに来てください。ユリジェンヌ侯爵はよく泊まりに来ますからね。一緒にいらっしゃってくださったら歓迎します」


――ファウバブト公爵って、私のこと結構好きなのかな? それとも、大伯父様の大姪だから親切にしてるだけ?


「私は途中で降りますが、そのまま私の馬車で帰ってくださって良いですよ。私の家紋入りの馬車であなたが帰れば、ユリジェンヌ家と我がミンチェ家の友好の証になりますからね」


――やっぱり、打算で私と仲良くしようとしてるのかな?


「あなたとお話したいので。帰路が楽しみになりそうです。あっ! 魔道の宿泊場所もこちらで手配しておきますね」


◇◇◇ 

 瞳の館に戻ると、アトリが笑顔で私を出迎えてくれた。


「ユリジェンヌ侯爵令嬢! 私を専属侍女にしてくださるとメイド長から聞きました! ありがとうございます! 一生お側でお仕えします!」


「私こそ嬉しいわ。ユリジェンヌ邸でもよろしくね」


「はい! ……あの、怪鳥の家族にお別れの挨拶をしてから出発しても大丈夫ですか?」


「もちろんよ。でもその前に、便箋とペンを用意して。あと、連絡鳩と高速鷹便の手配をお願い」


「かしこまりました。……何をされるのですか?」


「大伯父様に、アトリを下賜してもらったことを伝えるわ。ユリジェンヌ邸に着いたら、侍女長があなたを教育してくれるわよ」


「なるほど! 頑張ってユリジェンヌ邸の仕事を覚えます!」


「ありがとう。高速鷹便は、青い色炎を贈るために使うのよ。宛先はケイミル公爵夫人よ」


「ケイミル公爵夫人? 花人魚の国の序列一位公爵夫人ですか? 確か、今ご懐妊中だとか」


「そうよ。つわりが大変らしいからね。青い色炎はつわりに効くんですって」


「流石ユリジェンヌ侯爵令嬢です! 気遣いが最強です!」


◇◇◇ 

 帰宅すると、大伯父と使用人が総出で私を出迎えてくれた。


「リト! よくやった! 素晴らしいぞ!」


 大伯父は笑顔で私を抱きしめてくれた。晩餐は、私の好物ばかりを用意してくれた。


 食事をしながら、私は今回の件について全てをつまびらかに報告した。


「それで、ミンチェ家の馬車で帰ってきたのか? ファウバブトはリトが気に入ったんだな!」


「私はファウバブト公爵を気に入ってませんわ。性格が良いんだか悪いんだか……」


「ファウバブトは冷酷だが頭が切れる。良い友人だ。序列一位公爵だし、仲良くして損はないぞ。あっちもユリジェンヌと仲良くして得しかない」


――大伯父様とファウバブト公爵って、もしかして似た者同士?


「今度ミンチェ邸に一緒に遊びに行こう」

――まじか……。


「ところで、ケイミル公爵夫人とリドル公爵からお礼の手紙が届いたぞ。青い色炎を飾ったら、つわりが一瞬でなくなったらしい」


「そんなに効果があるんですの!?」

 私は手に持っていたスプーンを落としそうになった。


「ああ。出産が終わるまで、青い炎玉を定期的に買いたいと手紙に書かれていた」


「もちろん、お売りしますわ。でも、優先提供契約はどうしましょう?」


 私が顔を曇らせると、大伯父は瞳を光らせた。


「優先提供契約を結んだ時点で使えた色炎は、銀色と虹色だけだ。青色は契約にない。つまり、自由に売っていいはずさ」


――契約の抜け穴ついてきたー!


「悪魔の魔王様も、化け猫の公爵と侯爵家の連中も、妊婦より我々に売れなんて言わないはずさ。心配なら、私から全員に事情を説明するよ」


「大伯父様、頼りになりますわ! ありがとうございます!」


「お安い御用さ。ところで、五日後の十二月十六日は竜王に色炎を献上予定だろ? 疲れてないか? それまでゆっくり休みなさい」


「はい。でも私、明日はバー・ゴスメーデに行きたいですわ。朝までにはユリジェンヌ邸に帰るので安心してください」


「そうか……。本当はドラゴンの王城にリトを行かせたくないんだけどな。実は、第二王女様に殺害予告の手紙が届いたんだ」


「ええ!?」


「王城では、一人にならないようにしなさい。念のため、私も同行しよう」


「分かりましたわ……。第二王女様、大丈夫かしら?」


「ジュエルドラゴンは昔からきな臭い。献上が終わって、第二王女様から竜牙宝石を受け取ったら、できるだけ早く帰るぞ」



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