ep.68 毒鳥公爵夫妻に君を紹介してあげる
司会者が言い終わるなり、盆を持った給仕たちが入室してきた。
――凄い! 豪華なごちそう!
大きな盆の上には、大小合わせて皿が八皿あった。
どの食材も美しく盛り付けられ、秋らしい黄色と赤色の食材で統一されている。
「鯛と秋刀魚の煮付け、おいしいですわね。ササラ公爵とチェーザマリーはどの料理が好きですか?」
「僕は黃さくらんぼの漬物かな。甘くて美味しいよ。ちょっとしょっぱいのもいいね。チェーザマリー公爵は?」
「俺が好きなのは、この豆グラタンだな。スパイスが効いてる。しかも、気づいたか? 豆の種類が一粒一粒違う」
「ええ!? そうなんですか!」
私はササラ公爵とチェーザマリーと楽しくお喋りしながら、存分に料理を楽しんだ。
途中、なんとなく気になってファウバブト公爵を見た。
彼は左隣に座るマリア宰相と楽しそうに話をしていた。
全員が食べ終わり、盆が下げられると、司会者が声を張り上げた。
「では今から、立食パーティーを始めさせて頂きます。皆さま、お立ちください。会場を整えますので、少々お待ちください。」
司会者が一礼すると、扉を開けて執事たちが入ってきた。
彼らは手際よく、舞台や机、私たちが座っていた椅子などを片付け始めた。
あっという間に、会場は様変わりした。
会場の中央には机が設置され、ジュースとワインのグラスが並べられた。先程満腹になったせいだろう。料理は並べられていない。
「皆さま、どうぞご自由にご歓談ください」
司会者がそう言うなり、全員が談笑を始めた。
毒鳥一族や王家の方々などは大勢の貴族に囲まれている。
――どーしよ! 誰と話そう!
戸惑っていると、隣に立っていたチェーザマリーが私に優しく微笑んだ。
「リト。まずは王家の方々に挨拶に行かないか? 俺が紹介してあげるよ」
「まあ! ありがとうございます! 頼りになりますわ!」
私が笑顔になったときだった。
「まずは毒鳥一族と話しに行こうよ。今日は毒鳥功労祭なんだからさ。主役と話さなきゃ。それに、王家の方々は毒鳥一族以上に貴族から囲まれてる。後で挨拶に行けばいいよ」
背後から声が聞こえて、私は振り返った。そこには、ファウバブト公爵が立っていた。
――びっくりしたー! ファウバブト公爵ってば、いつも背後から登場するわね!
「私がユリジェンヌ侯爵令嬢をアルバート=ファル=ハディッシュ公爵に紹介してあげるよ。彼とは師弟関係でね」
「師弟……?」
「そうだよ。昔、幼いアルバートに頼みこまれて魔術をいくつも教えてあげたんだ。チェーザマリー公爵と私と君の三人で、ハディッシュ公爵家の方々に挨拶に行こうよ」
「それは良い。ぜひそうしよう」
チェーザマリーは即座に賛成した。
――どーしよー! ファウバブト公爵のことはあんまり好きじゃないけど……。提案は魅力的だわ! 乗った方が良さそうだわ。
「ありがとうございます。お願いします」
私が頭を下げると、ファウバブト公爵は満足そうに笑った。
「私、エル=ファル=ハディッシュ公爵夫人とは友人よ。私もご一緒していい?」
突然の声に、私は振り向いた。そこには、ペネロペ公爵が立っていた。
「ペネロペ公爵!? びっくりしましたー!」
「驚かせてごめんなさいね。私が公爵夫人にあなたを紹介してあげるわよ」
――公爵夫人に!?
「それは良い。四人で行きましょう」
「そうだな。リト、良かったじゃないか。ファウバブト公爵とペネロペ公爵がいれば心強いぞ」
ファウバブト公爵とチェーザマリーは笑顔で賛成した。
私は勢いよく頷いた。
――ペネロペ公爵もいてくれたら、最強すぎるわ!
◇◇◇
「あっ! ファウバブト先生! お久しぶりです!」
ハディッシュ家の方々は十名の貴族たちに囲まれていた。
しかし、私たちが近くまで行くと、アルバート公爵がファウバブト公爵に気づき、彼の方から私たちに歩み寄ってきてくれた。
アルバート公爵に続いて、二人の女性もこちらに来た。おそらく、公爵夫人だろう。
「やあ。アルバート。昔はあんなに小さかったのに。公爵になるなんて感慨深いね」
「小さいって。もう四十年前のことですよ! 僕は大人です!」
アルバート公爵が胸を張ると、ファウバブト公爵は可笑しそうに笑った。
「そうか。知っての通り、こちらはチェーザマリー公爵とペネロペ公爵だけどね。今日はぜひ、こちらのレディを紹介したいんだ」
ファウバブト公爵は私を優雅に手で示した。
「こちらはユリジェンヌ侯爵令嬢。育ての親はユリジェンヌ侯爵。祖母はマリアンヌ男爵夫人。今話題の史上七人目の色使いさ」
「はじめまして。リト=ユリジェンヌと申します。
ハディッシュ家の方々にお会いできて光栄です」
私が礼をすると、アルバート公爵は瞳を輝かせた。
「ああ! 君が色使いか! ユリジェンヌ侯爵の大姪だろ。ユリジェンヌ侯爵の話は、先生からよく聞いてたよ」
「そうなんですね! 本日はこのような祭典にお呼び頂き、光栄です」
私が笑顔を向けると、アルバート公爵の左隣に立っていた夫人が口を開いた。
「まあ。美しいお嬢さんね。ユリジェンヌ侯爵もマリアンヌ男爵夫人も、さぞや鼻が高いでしょう」
「ありがとうございます」
私がお礼を言うと、ペネロペ公爵が夫人に微笑んで言った。
「ユリジェンヌ侯爵令嬢とはね、昨日のディナーで仲良くなったのよ。ガールズトークで盛り上がっちゃった」
「まあ。なんの話をしたの?」
「それは内緒よ。ここには男性たちがいるもの。後で私たちレディだけで話しましょ」
「楽しそうね。ぜひお喋りしたいわ」
「ユリジェンヌ侯爵令嬢は品があって、優しい令嬢よ。三時間も長話しちゃったわ」
「確かに、品があるわ」
夫人とペネロペ公爵は親しそうに笑い合った。そして、夫人が私に微笑んだ。
「私はエル=ファル=ハディッシュよ。アルバートの妻なの。こっちは私の妹。アルバートのもう一人の妻よ」
エル公爵夫人はアルバート公爵の右隣に立つ女性を手で指し示した。
「はじめまして。エンダ=ファル=ハデュッシュと申します。ユリジェンヌ侯爵令嬢とペネロペ公爵、チェーザマリー公爵、ファウバブト公爵に挨拶できて光栄です」
エンダ夫人は丁寧に礼をした。
――エル夫人とエンダ夫人、姉妹なんだ……。全然似てないわ!
エル夫人は桜色の髪と瞳を持つ、可愛らしい雰囲気の美女だ。エンダ夫人は金髪碧眼ですらりとしていて、落ちついた雰囲気を身に纏う美女だった。
アルバート公爵は、黒髪に茶色い瞳を持つ美男だった。
――ファウバブト公爵とペネロペ公爵がいて良かった! 第一印象はばっちりね!
私が心の中でほっと息を吐くと、アルバート公爵が瞳を輝かせて私に聞いた。
「ユリジェンヌ侯爵令嬢は凄いね! 色炎を操れるんだろ! 見せてくれないか?」
「えっと……。今ですか? ここで?」
私が戸惑うと、チェーザマリーが壁を指差して言った。
「この会場の壁には、百本の燭台が設置されてる。まるで、リトのために準備されてるみたいじゃないか?」
私がはっとすると、アルバート公爵は楽しそうに笑った。
「実は、色使いがいらっしゃると聞いて、僕が魔王様に事前に頼んだんだ。会場には燭台を百本用意して欲しいとね。僕がユリジェンヌ侯爵令嬢に、色炎を見せて欲しいと頼むから、と」
「えー! なんでそんな回りくどいことを!? 事前に言ってくだされば、舞のときとかに色炎を披露しましたわよ?」
「だって、色炎は高額じゃないか。王家にこんなにもてなされてるのに、魔王様に『色炎も欲しいです』なんて頼めないよ。でも、僕が自分から頼むなら自由だろ? いくらでも払うから、見せてくれないか?」
「そんな……。今日は功労祭ですもの。私から色炎を贈らせて頂きますわ」
「ほんと!? 嬉しいよ!」
アルバート公爵は満面の笑みを浮かべると、声を張り上げた。
「今から、色使いに色炎を生み出してもらいます! アルバート=ファル=ハデュッシュがユリジェンヌ侯爵令嬢に頼みました!」
――なんで宣言してるの!?
会場がどよめき、全ての貴族と王族が私たちを見た。
私が硬直していると、アルバート公爵は軽く私の肩を叩いた。
「いきなり会場に色炎が宿ったら、皆びっくりするだろ? だから今、呼びかけたんだ。それに、毒鳥功労祭では、毒鳥一族は自由な振る舞いが許されてるんだ。これくらい大丈夫だよ。さあ、見せてくれ」




