ep.64 大伯父の友人
――まずい……! 口が滑った! 誤解が加速するー!
「えっとぉ……。この前、タシュビッツ邸に滞在したんです。そのときにクレイ侯爵がジュエリーをお土産にくれて……。どれも素敵だったのでどれにしようか迷ってたら……。チェーザマリーが選んでくれたんですよ!」
「ふうん。仲いいわね」
――あー! なんで言っちゃたんだろぉ……。
私は心の中で叫び声を上げていた。
「そういえば、宝石料理を食べたんですって?」
――マリア公爵、なんで知ってるの!? 恐るべし、社交界の情報網!
「十二月にお店がオープンなんですってね。行ってみたいわ」
――おっ! ここはクレイ侯爵とノワール卿のためにも宣伝しよう!
「そうなんです! 宝石料理は遊び心があって最高でした! 見た目も美しいし! 特に、虹色真珠はおすすめですよ!」
「それ、私も気になってるのよね。十二月から予約販売が始まるらしいじゃない? ぜひ買いたいわ!」
――へぇ。十二月から販売なんだ。
「ユリジェンヌ侯爵令嬢は、もう虹色真珠を持ってるんでしょ? 羨ましいわ」
「ありがとうございます。実は持ってきてるんですよ。虹色真珠はネックレスに仕立てました。毒鳥功労祭でつけようと思って」
「まあ。クレイ侯爵は上手くやったわね。今話題の色使いが身につけてくれれば、大きな宣伝になるわ」
――? 私がつけただけで? マリア公爵とかがつけた方が宣伝になりそうだけど……。
「そういえば……。各国代表はどなたになったんですかね?」
「ヴァンパイアの国からはチェーザマリー公爵が来てるわよ。良かったわね」
――良かったって何が!? いや、嬉しいけど……。
会場で会えるかな?
「チェーザマリー公爵は涙の館に滞在してるそうよ? ここからだと遠いわね」
「あっ……。そうなんですね」
――じゃあ、当日までは会えないか。
「悪魔の国からはエオリナ=デ=ゴスメーデ公爵がいらっしゃるわ」
――マスターのお父さまだわ!
「化け狐の国からは、ファウバブト=オン=ミンチェ公爵がいらっしゃるわ」
「ファウバブト公爵ですか!?」
「そういえば、ユリジェンヌ侯爵とファウバブト公爵は仲良しらしいわね」
「ええ……。私はまだお会いしたことないんですけど……」
「そう。花人魚の国からはササラ=デ=ジュベニー公爵が来るわよ」
「ササラ公爵が!?」
「ええ。本当はリドル公爵が来る予定だったんですけどね。ほら、ケイミル公爵夫人はフェアリーだからつわりが大変じゃない? リドル公爵は心配して、休暇を取得してずっと付き添ってるとか。だから、ササラ公爵が代理を申し出たんですって」
「へえ。ササラ公爵って優しいですね」
私が感心すると、マリア公爵は吹き出した。
「もう! あなたってば、優しすぎるわ。ちょっと鈍いわよ? ササラ公爵は狙ってやってるのよ。代理になれば、国家代表になれるじゃない? リドル公爵も嬉しいし。一石二鳥ね。ササラ公爵は抜け目ない男よ」
――ええ!? ササラ公爵が?
「グリフィンの国からはハノン=オン=カノン公爵、セイレーンの国からはペネロペ=デ=シュシュラン公爵、フェアリーの国からはヒュウガ=ファル=ネジリ公爵、ゴーストの国からはシュク=デ=メガヨー公爵、堕天精霊の国からはシェルバ=ファル=チョコレータ公爵がいらっしゃるわ」
――シェルバ公爵! 嬉しい!
「男性陣は、もう到着したんですって。女性陣は私とユリジェンヌ侯爵令嬢だけよ。他のメンバーは仕事の関係で、ぎりぎりに到着するみたい」
「じゃあ、私たち二人で食堂を貸し切りですね」
「そうね。瞳の館も貸し切り状態よ。あっ。メイドに頼めば、王城庭園も自由に観賞できるわ。行ってみたら?」
「はい! そうします!」
◇◇◇
「わあ! 綺麗な薔薇! ねぇ、アトリ」
「ええ。ですがユリジェンヌ侯爵令嬢の美貌の方が美しいですよ」
「上手い返しね! ありがとう!」
私はアトリに案内されて、王城庭園を散策していた。
庭園には様々な品種の白薔薇が咲き乱れている。
私は香りを胸いっぱいに吸い込みながら、アトリに沢山質問をしていた。
「この薔薇は何? 花びらがギザギザしてるよ?」
「これは柊薔薇ですよ。怪鳥の国の固有種です。花びらは固く、少しだけ毒があるのです。触らないでくださいね」
「分かったわ! アトリって博識なのね。凄いわ!」
「ありがとうございます。光栄です」
アトリは嬉しそうに笑った。そのときだ。
「メイドに貴族の案内をさせるとは。怪鳥の国は品がないな。庭園案内は貴族の卿か上級従者にさせればいいのものを」
背後から聞こえてきた冷たい声に、私は振り返った。
そこには、紫紺色の髪に、バイオレットの瞳を持つ美男が立っていた。
腰まで流れる長い髪は艶があり、滝のようだ。
甘い香りを放つような色気には、危険な気配が潜んでいる。
全身からは、溢れ出る魔力を感じた。
――誰!? ていうか、言ってること、失礼じゃない?
「申し訳ありません! ですが、庭園の知識は研修で叩きこまれております! お許しください!」
アトリが頭を下げると、男性は冷ややかに笑った。
「ふうん。俺はもてなしについて言ってるんだ。君の研修については聞いてないな」
――何、この感じが悪い男……。
私は男性にやんわりと微笑んだ。
「アトリの案内はとっても楽しいですわ。流石は怪鳥の王城ですね。使用人への教育は完璧ですわ」
――この返しでどうだ! 使用人にケチをつければ、王城教育にもケチをつけることになるわよ!
「王城教育じゃなくてね。私が言ってるのは身分のことだよ。各国の貴族を直々に案内するんだよ? その名誉ある役を平民にさせるだなんて。私なら考えられないな」
――なんなのこいつ……。雰囲気からして貴族よね?
「私、リト=ユリジェンヌと申します。あなたのお名前を伺っても?」
私が聞くと、彼は初めて表情を和らげた。
「ああ。やっぱり君がユリジェンヌ侯爵令嬢か」
――? やっぱり?
「はじめまして。ユリジェンヌ侯爵令嬢。私の名前はファウバブト=オン=ミンチェ。化け狐の国の公爵だよ。ユリジェンヌ侯爵とは仲良くさせてもらってるよ」
ファウバブト公爵は優しく微笑んだ。まるで、先程の冷たい笑みなど存在しなかったように。
――彼が大伯父様と仲良しのファウバブト公爵!? 抜群に頭が切れる序列一位公爵って聞いてたけど、
性格悪!
「あの……"やっぱり"ってどういう意味ですか?」
「ユリジェンヌ侯爵がね。私に会う度に君の話をするんだよ。ダークブラウンとスカイブルーのオッドアイが綺麗だとか。マリアンヌ譲りのダークブラウンのストレートヘアが美しいとか。君より可愛い子はこの世にいないとか」
――大伯父様、親ばかだわ……。
「庭園を散策してたら、美しいダークブラウンの髪とオッドアイの令嬢がいたからさ。君がリト=ユリジェンヌかなって思ったんだよね。化け猫の国代表で来るって聞いてたし」
「なるほど……」
「でも、メイドなんかと楽しそうに話してたから、びっくりしたよ。頼めば上級女官が案内してくれるよ? 案内役は変更したら? ユリジェンヌに平民メイドなんて相応しくないだろ?」
――は? 私はアトリが気に入ってるんですけど! こいつ、親切で言ってるわけ? それともただの性悪男?
「お気遣いありがとうございます。でも私、アトリが気に入ってるんです。このままアトリに案内してもらいますわ」
アトリは目を潤ませた。しかし、ファウバブト公爵は信じられないという顔をした。
「はあ? それは君の品格のためにも止めた方がいい」
――ちょっと! なんなのこいつ!?
「案内なら私がしてあげるよ。君と話したいし。私は毎年、毒鳥功労祭に呼ばれてるからね。庭園の地図は頭に入ってるんだ」
――あなたの案内なんて、お断りなんですけど!




